第3章 第6話
続きです。
「え~、これが姫様あ~。」
突然ドアを開け放ち、ドアにいた、護衛の二人のうち、一人の襟首を持って部屋の中に投げ放ち、驚きに硬直する私達に向かって、後ろを振り向きながら男が言った。
部屋に投げ出された護衛のヴィトーの下に赤いしみが広がるのをみて、私達が悲鳴を上げるのと、残りの護衛が男に切りかかるのが同時におきた。
そこに後ろから声をかけられた男が進み出て、
「間に合わなかったようだな。」
と低く笑い、何が、と思う間もなく一人、二人と一瞬の間に私の護衛が血を流し倒れこんだ。
それに悲鳴をあげ、身を震わせていると、後からきた男がいった。
「お初にお目にかかる。ニルガ傭兵団代表のグレンだ。」
そう言い、残りの護衛と先ほどの男に手で落ち着くよう指示した。
すぐさま、我にかえったのは、乳母のシーリーで、
「何事ですか!何たる・・」
と叫び声をあげ、続けて言おうとするのに、代表のグレンの冷たい一瞥に声も出せず、体も硬直してしまった。
それにグレンは、
「ここは俺の団、そして俺の団員だ。何か問題があるか?」
そう言って、いたずらをみつかった時弟がするような、からかうような目でみてきた。
なあに、おかしい!今ここに、こんなに血を流している者がいるというのに、何、何なの!
なぜ笑うの!
「すぐに、すぐに医師を!早く!」
と叫ぶのに、
「ん~、いらないよお。俺ってば、どんなどじこちゃんなわけえ~?」
「ちゃ~んと、やってるから、いらないよお。」
そう、初めに乗り込んだ男が、あたりまえのように言った。
驚くほど美しい顔立ちの男で、その眠たそうにみえる目が、こちらをみて言った。
ありえない台詞に絶句し、なぜあのもの達が殺されねばならなかったか茫然としていると、
「子爵はどこだ?私の元にくるよういってくれ。」
そう言って挨拶は後でと、何事もなかったかのように、そのまま出て行ってしまった。
彼らが出て行った後、やっと麻痺した感情が動きだし、弟は子爵と一緒で良かったと安堵すると共に、怒りと涙が交互にやってきて、やがて、この者達の弔いを、残った護衛にチルニー遊撃隊副長を呼びにいってもらった。
しかし彼は、いつもの隊室にはおらず、かわりの者がやってきた。
そして、この暴挙を侍女たちが訴えるも、彼らはいちように、肩をすくめ
「団長たちが、お戻られになられただけだ。騒ぐな!」
そう言って取り合おうともしない。
子爵も、ここは離宮ではございません、ご辛抱を!と、なだめてくる。
「明日、正式にご挨拶がてらの食事会がございます。その時にも、このような暴挙はお止めくださるようお願いいたしましょう。」
この日、この拠点にきて初めて騒ぎがない静かな夜になった。
毎夜のうるささに慣れたせいか、それとも、あの恐ろしい男のせいか、なかなか寝付かれず、こんな日こそ彼に会いたかったと、涙をこぼしながら眠れぬ夜を過ごした。
翌日ランチとディナーどちらが顔合わせに良いかと聞かれ、夕食をあの者達と食すなど考えられなかったので、ランチと答えた。
大広間にて、しばらく留守にしていた団長帰還に合わせて、主だったものを集めての、ランチが開催されたが、あの恐ろしい男と、チルニーはいなかった。
団長であるグレンが帰還の挨拶と、私達一行を改めて正式に紹介し、それに後見である子爵のバールが謝意を伝え私達姉弟は軽く頭を下げて挨拶は終わった。
何度見渡しても、チルニーの姿がみえず、そんな私の様子に、さりげなくバールが気付き、団長のグレンにさりげなく聞いてくれた。
チルニーには大変お気遣いをいただいたので、とバールが何気なく話を振ってくれ、団長であるグレンに聞いてくれた。
それを聞いたグレンではなく、副長のルークが騎士団時代の知り合いか?と聞いてきたので、やはり噂は本当なのだと、思わず嬉しくなった。
もうじき遅れてくるだろうというのを聞いて、今日のドレスはこちらの傭兵団がいろいろ用意してくれたもののうちの淡い紫の色合いのを選んだのだが、急に似合っているか心配になった。
どうしても入口に目をやりたいのを我慢して、にこやかに客人として、ケルダス王家の人間として毅然と対応していたが、外から聞こえてきた大声と、テーブルに急に走った緊張に、何事かと振り返った。
また更新、今夜できればと思います。