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心の花  作者: そら
第3章
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第三章 第5話

新しい登場人物ですね・・・。

オルロンの毎夜の喧噪に、マドリーンとジュールの姉弟は未だ慣れない。


背後に控える10数名のお付きのものも、同じ思いだろう。


自分たち末の姉弟はケルダス国の唯一の湖沼地帯サルンザの離宮で、乳母と幼少からのお付きの者達と、体の弱い弟の為、という名目で遠く王宮より離れて暮らしていた。。


既に皇太子がおり、その正妃との子も二人いる。


後ろ盾の弱い貴族の側妃の産んだ自分たちは、母亡き後は追われるようにこの離宮に住んでいた。


穏やかにここで生きていくものだと思っていたのに、ラージス帝国の侵攻により、王族は幽閉され、父はその折亡くなったと聞いた。


年の離れた異母兄である皇太子一家が、現在どのような状況で幽閉されているのかはわからない。


自分たちも間一髪で、きのみきのまま逃れ、ニルガ傭兵団の拠点であるオルロンへ保護を求めた。


迎えにきた男は、大きな体躯の美丈夫で、ジルスといい、ただ一言


「今は保護しよう。」


そう言って、自分たち姉弟をちらっとみただけで挨拶もせず、馬を返し馬車に乗るよう促した。


無礼だと怒る乳母たちをなだめたのは、私達の後見であるバール子爵だ。


バール子爵は亡き母の従弟で、彼が説く今は一刻も早い安全を!との言葉に皆でうなずき、サルンザからオルロンへ休みなしで4日ほどで移動した。


旅の間中、ニルガ傭兵団の迎えの男達は寡黙で、必要以外に口をきかなかった。


乳母たちは、そんなニルガの男達を無礼だと怒ってばかりいるが、母といた後宮を知っている自分たちには、かえってすがすがしいほどだ。


母は儚い人で、側妃であり、また第2王女と第3皇子である私達を生んでさえ、隠れるように生きる人だった。


それゆえ、後宮の中で身のおきどころがなく、結果侮られ権力争いの嵐にもまれ、亡くなった。


この湖沼地帯の離宮にきて初めて、自分たち姉弟はちゃんと息をすることができた。


周りのあの侮蔑の目、わざとらしい嫌味な会話、それのない離宮は私達に初めて安寧を与えてくれた。


贅沢な後宮ほどではないが、離宮は品よく造られており、自分たちには充分だった。


それなのに、そこをまた出なければならない事を思いだせば、嫌なことが次から次へと思い出されて、狭い馬車での強行軍もあり、マドリーンを憂鬱にさせた。


あまり感情をあらわにしない弟のジョリーも顔色が悪い。


そして、やっとの思いでついたオルロンでは、客人として主館の隣の館を与えられた。


翌日、はじめて目通りをした、ニルガ傭兵団の副長は穏やかながら冷徹さを醸し出す男でルースと名乗った。


その部屋には主な幹部がいてお互い軽く挨拶を淡々として、後見のバール子爵たちが残り、話し合いをはじめた。


そして、ここに客人として逗留してひと月がたつ。


あの寡黙ぶりが嘘のように、毎夜広い中庭や主館を取り囲むようにある、多くの館の中庭では、夜遅くまで飲めや歌えの大騒ぎになる。


暖かい所なので窓を開け放っているせいで、聞こえる馬鹿騒ぎに初めは驚いていたが、今はすっかり、これが子守唄代わりだ。


彼ら傭兵は、こちらには関心がなく、年頃の姫を心配して青い顔で、何日も交替で寝ずの番をしていた警護の者も今は落ち着いている。


それは5名ほどいる侍女たちにもいえ、からかいの声一つないのに拍子抜けするほどだ。


マドリーンは窓辺から、自然とあの男を探していた。


この傭兵団にきて、緊張する自分たちに、こまごまと気を遣い、騎士の礼さえする優しげな遊撃隊副長の姿を。


初めは警戒して固くなっていた自分たちに、力を抜くように笑いかけ警護の男達と先に打ち解け、右も左もわからない自分たちに、とても自然にさりげなく親切にしてくれた。


静かに丁寧に話し、時折りふっと優しく笑う、その男にマドリーンは初めての恋を自覚した。


乳母たちにも評判よく、噂ではケルダスの第3騎士団に属していた男爵家の嫡男だったというので、余計みなには、なるほどと、身内意識が芽生え受けが良かった。


その彼がなぜ傭兵に堕ちたのかを、とても知りたかったが、彼の心の傷をおもんばかって、誰も聞こうとしなかった。


時折り騎士団の頃のおもしろい話を弟たちに聞かせ、弟をよく笑わせてくれていた。


そして聞きたい事や頼みたい事があれば、彼に自然と頼っていた。


そんな彼がここから見える中庭で、男達と毎夜飲んでいた。


ほら、もう少しで彼は腰をあげ、主館にある自室に戻る。


そして、こちらを見上げ一部の隙もない綺麗な挨拶を窓辺のテラスでお茶を飲む私たちに捧げる。


毎日計ったかのように行われるそれを、心持ちにする自分がいる。


私は生まれて初めて自分がケルダス王家の血を引くことに感謝していた。


彼はもともとの我が王国の騎士、何があったか知らないけれど、王女である私か皇子である弟が再び騎士に任命すれば、彼はその誇りを取り戻し、喜びに感謝するだろうと、乳母が言った。


「私の騎士。」


そっと呟き、なぜか涙がこぼれるのをみた侍女たちが、こたびの艱難を乗り越えるため、姫様のためにヤーナ神が引き合わせたに違いありません、と同じように泣くのに、私はまたそれを思い幸せに泣いた。


もう一度騎士に、私に騎士の誓いを捧げる事を夢見て。

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