第3章 第2話
ラージスのあの二人です。
本日2度目です。
ラージス帝国司令官ミルガットは、今回地方三軍3000に対して、ケルダス領との境にあるニルガ傭兵団の拠点フルーラの殲滅と、苦杯をなめたレンビットの現在状況と、その確保を命じた。
これまで、小さな奇襲や、レンビット戦での小戦闘などはあったが、陛下の、
「小さな鼠に、我がラージスの誇る、我が盾、我が剣をまともにぶつけるのは、品がない。」
との慈悲深きお言葉により、多々イタチの追いかけっこ状態で、これといって正規軍を多数導入するということはなかった。
その色が変わったのは、議会における天秤のはかりが、禁軍のレンビット侵攻失敗により傾いたことが大きい。
禁軍は宰相フォンガードの支配下にあり、その失敗は微妙な議会の天秤を、軍司令官ミルガットへと傾かせ、このたびの出兵の許可を議会同意の上、陛下に陳情し、はじめての大規模な出兵を許された。
だからこそ、このチャンスを生かすべく、ダウリー伯爵家の後継でもあり、自分の甥であるアラン率いる栄誉ある第3軍に、出兵を命じた。
きらびやかな軍装に身を包んだ第3軍の出兵時の王都をあげてのセレモニーには、この自分も感動を覚えたほどだ。
遠い戦場に赴く栄光ある第三軍の勝利は、またたくまに、この王都にもたらせられるだろうと思い、ゆったりと司令室でくつろぐのだった。
「聞いてるんですか?」
「わっ!派手にやってるな。」
ふう、とため息をついて、ハジムは唯一の主人であるジェイムスをみた。
「派手にじゃありません。派手にじゃ。」
「やられてるのは、あなたに忠誠を誓った、あなた曰くー我が盾、我が剣ーですよ。まったく。」
そもそも、こんなところで、なんでピクニック・・・・。
ハジムは、再び酔狂な自分の主君に向かって、お茶をさしだした。
ガロン原産の最高級の茶葉を、最高のミネラルウォータで入れて繊細な茶器で差し出したお茶に、ジェイムスは、にっこり笑い、その味を楽しんだ。
はるか先でみえるニルガ傭兵団と第3軍の戦闘を遠目で眺めながら。
文句をいいながらも、最高の状態で差し出すハジムに、この気に入りのお茶の為にガロン公国の1の姫を側妃に迎え、あまつことなく茶葉栽培の情報を取り終えた後、公国を滅ぼし、姫にも後宮の墓館へと退場してもらったのは、確か何年前だったか?とふと思った。
あの姫は、自分の後、ハジムに抱かれて逝った。
二人とも若かったなあ、と思いだし、ハジムをみた。
今ではガロン産の茶葉は、我がラージスの特産品として、富裕層を中心に良い外貨を稼いでくれている。
このお茶とリンゴのガレットは、このピクニックに最高の演出をしてくれているが、あの戦場の阿鼻叫喚ぶりにはかなわない。
ジェイムスは、ニルガ傭兵団の何でもありの容赦ない戦いぶりに目を細め、自軍の投降するようすをみると、ガレットを口に入れながら、手をたたいて笑っていた。
ハジムは、軍規にのっとり投降しようとする貴族の馬鹿息子どもをみて、やれやれと肩をすくめ、
「我が皇、そろそろ戻りましょう。えーと、あの姫、名前忘れましたが、あの姫の喪もそろそろ開けて、政務に復帰といきましょう。」
「ん?傷心ごっこはもう終わりにするのか?もう少しあの愚か者どもに好きにやらさせてやれ。」
「もう少しの間、私は傷心が癒えず後宮の自室に引きこもるぞ。ハンデがなければつまらぬだろう?」
「それとも、お前、何か面白い遊びがあるというのか?」
そういってるそばから、爆発の音が聞こえ、正規にのっとり投降時の作法を行おうとしていた男たちが、吹っ飛ぶさまをみて、ジェイムスは腹を抱えて笑った。
「なんだ、あれは。国同士の争いでもあるまいに、愚かな者の下には更に愚かな者がいるということか!」
そういって涙を流すのに、ハジムは冷たく、
「そうでございましょうとも。あれは陛下の盾、陛下の剣でございますゆえ!」
「愚かさの頂点は・・・」
そう言ってジェイムスを意味深に冷たく横目でみるのに、
「わかった、わかった。遊びもそろそろやめて、私も本腰をいれてみよう。」
「せっかく大事な遊び相手だ。簡単につぶしたくないのだがなあ。」
そう言って、悲惨な状態の自軍を眺めながら、
「確かあれには、娘がいるという話だったな・・・。」
と、つぶやいた。
ハジムはそれに、
「ケルダスからの情報を早々つかんでおきながら、本気を出させるから手を出すな、そうおっしゃったのは陛下でございます。」
それを流し、感情のみえない顔で、どこか遠くを眺めながら、ジェイムスは
「あやつらの本気をみてみたい!まあいい、傷心はもうしばらくで終わりにしよう。帰るぞ!」
そう言ってわずかばかりの護衛を連れて、カップを投げ捨てると自ら馬に飛び乗った。
それをみてハジムは、このカップは先先代様が大切にされていたものを、と後姿に声をかけ叱りつけながら、ニヤリと笑うと、残ったカップも次々と投げ捨て綺麗に割ると、自分もその後に続いた。
まあ、自分は陛下さえ楽しまれれば、兵が何万と死のうが全然かまわない。
さっそく騎士学校の入学要綱を改めて、新しい駒たちを早急に育てあげましょうか、そう思いながら、唯一の主君の後を追いかけた。