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心の花  作者: そら
第3章
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第3章 プロローグ

リーナと傭兵団再開後の話。

リーナは目の前で、だらけきった男が、かまって光線をニコニコと投げかけるのを、綺麗に無視した。


その長身をうつぶせにして、顔だけこちらに向けて、足をぱたぱたしている男にリーナは幻の尻尾をみた。


ただし、断じて可愛い猫とか犬とかではなく、この男は誰もが認める狂える猛獣ではあるが。


父達と再会して、すでにひと月が過ぎようとしているが、遊撃隊隊長のギランは、一歩たりとも自分の傍を離れようとせず、はじめは、数年ぶりの再会にリーナも喜んでいたのもあり、少しすればルークみたいに落ち着くだろうと思っていたのだが、一向にギランはその気配をみせない。


さすがに寝室までは、父がいるので入ってはこないが、その時も、ドアの外に凭れて、そこで毎日寝ているありさまで、このお馬鹿どうしてやろうと、せめて自分の部屋で寝るように、いろいろいじわるをしてみせるのだが、リーナのやることなすこと喜ぶので、お手上げになっている。


そう、寝室には父がいる。


ここでもリーナは困っている。


もう小さな女の子ではない、と何度も言ってるのに、父グレンは聞く耳を持たず、同じベッドに寝るのが当たり前だと、毎夜リーナを抱えて眠るのだ。


あの頃と同じように。


もうリーナは恥ずかしいのに、お風呂でさえ父と一緒だ。


最初、ルークやギラン達幹部が、昔のように一緒に入ろうとするのに、父はひとにらみで、それを押しとどめた。


その癖、自分はちゃっかりいつも一緒に入る。


ギランなどは、毎日毎日こりもせず、一緒に入ろうとして、父に痛い目に合っている。


自分が合流したことで、ニルガ傭兵団は、今までいろいろな町や村にいて、グループごとに動く形をやめ、天然の要塞である、オルロンに腰をすえ活動している。


もちろん連絡係りや斥候は残している。


大陸1の大河の中州に立つオルロンは周囲5キロもの広さと、背後を妖獣と呼ばれる規格外の生き物の多く生息する原生林に囲まれ、ここに至る道はケルダスに続く荒地があるのみの天然の要塞になっている場所だ。


何といってもオルロンに一番近い原生林には翼狼コウの群れが放たれており、彼らが妖獣ももちろん人も寄せ付けない。


そして、清冽な水と豊かな資源があり、気候も暖かいので家畜も良く肥え、ここはナン自慢の傭兵団の住処になった。


この合流してからのひと月は、本格的な戦いの為の準備期間という事で、皆それぞれ、すべきことをし、そしてまた、時間が許せばゆったりと過ごしている。


リーナもまた、オルロンのこの陽のあたる館の中庭で、ただいま勉強の真っ最中だ。


リーナの傍には、元学舎の教師がおり、毎日きっちり勉強の時間をとっている。


あのチルニーは、ジルスの心配をよそに、信じられないことだがギランに気にいられ、今までその存在さえ、あきらめられていたギランの副官の地位についていた。


これには皆戦々恐々としていた。


あのギラン隊長が気に入る奴なんて、まともなわけがないと。


また、厄介な奴が増えたと。



あの丘で、ジルスから、「リーナのわんこ」と紹介されたチルニーは、案の定ギランのまっさきの獲物になったのだが、戦いの最中、ギランがリーナを、ほめそやすと、まけずにチルニーもほめそやし、いつのまにか、リーナ自慢大会と戦いの場が化し、


「超お前、わかってるねえ~、わかるのは俺だけでいいけど。」


「よし、決めた、お前俺のね!すぐ死なないタフさも遊べそ!」


「飽きるまで、俺のおもちゃ決定~!」


となって今にいたる。


チルニーは、そんなギランなど無視して、リーナの父グレンより直々頼まれたリーナの家庭教師を毎日いそいそと楽しんでいる。


さすがに最初はギランにやられた、あちこちの傷で動けなかったのだが、治療院にリーナの父である団長グレンがやってきて、見習いをすっとばして、リーナの家庭教師として正式に入団したのだが、ギランの「自分の!」宣言で、傭兵団の中では、ギランの副長扱いになっている。


チルニーは基本リーナ以外は認識外なので、自分がギランの隊にいつのまにやら所属しているのさえ知っていなかった。


そして、チルニーは、リーナのそばに寝そべり毎回ちょっかいをかける、このギランという邪魔な男に、さきほどのおやつの時間に、この男に飲ませた茶に入れた、自慢のシルセイの毒草の効果に期待していた。


「あれっ?なんか背中がかゆいなあ~。お日様がぽかぽか当たってるせいかなあ~。」

というギランの独り言に、またダメだったかと、この男の不死身さにあきれ、次回はどうしてやろうと

、自分の豊富な知識の中から、次の一手を考えるのだった。







グレンは、いよいよラージス帝国と本腰をいれて事を構える前夜、自室でリーナを自分の膝に乗せ、髪のリボンをほどいて、夜着に着替えさせたあと、リーナをベッドまでそのまま抱いて運ぶと、そっとベッドの縁に下した。


じっと自分を見上げるリーナに、グレンは何も言わず自分の懐から、紙包みを出した。


紙包みから出したそのかけらを、手のひらにのせ、リーナの前にみせた。


リーナは、そのかけらに目をやると、自分の顔を見上げ、そして、また、そのかけらに目をもどした。


そして、リーナはじっとそれをみた後、自分の目をみながら、そっと上目づかいに、自分のその手の平のそのかけらに、柔らかい唇を寄せた。


リーナの生暖かい息が手の平にかかり、そのまま可愛い口をあけると、赤い舌を出して、そのかけらを一度舐めた。


そして舌と歯を使って、そのかけらを上手に呑み込んだ。


そのかけらを呑み込んだリーナを静かにみつめながら、自分もそのかけらの乗っていた手の平に舌を這わせた。


そして、自分の手の平を舐めながらリーナの唇を軽くなぞった。


リーナをみつめていると、リーナは自分の腰に優しく抱きついてきた。


そして、グレンに抱きついたまま小さく囁いた。


「父さま、たくさんの命をちょうだい。」




あの夜の村のろうそくのかけらを、口にして、愛しい娘のおねだりに、グレンは昏い暗い笑い声を低く上げ、優しく娘を抱き上げた。


次の日から、ニルガ傭兵団とラージス帝国の争いは、ひどく激しいものに突入していった。









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