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心の花  作者: そら
第2章
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第2章 第14話

前話の第2章、2賞になってて笑いました。

読んでくださる方、感想はじめて頂いた方に感謝を。

第二章最後です。

リーナは背伸びしながら、砂煙りをあげ、徐々にその姿を現す、ここからみえる大地を覆い隠すかのような人馬の群れに、遠いあの時の事を思いだした。


あれはいつの季節だったろう?ここにきた時は。


ひっそりとウォーカーとハンナに連れられ、途中から粗末な馬車に移動してバンナの村にきた。


馬車を代える時まで父とルークもいて、自分が懐に抱いていた、あの翼狼の、コウの仔、ハクと別れるのが嫌だといって泣いたのを覚えている。


本当は父たちと別れるのが嫌で、大泣きをした。


それはそこにいるみなには、今思えば、バレバレだったと思う。


泣く私を抱きしめた父は、ずっとずっと私の髪を撫ぜ、髪にキスをしながら、何事か呟いていたが、聞く耳を持たない私は


「みんな嫌い!」とひどい癇癪をおこしたように思う。


その時、頭に落ちる冷たい何かが、父の涙だと気付き、初めてみる父の涙に、悲しいのは自分だけではないのだと、最強を誇るニルガ傭兵団が、自分を隠そうとするくらいの事態なのだから、頑張ってもう泣くまい、とこれまで何度も思ったそれを思いだした。


あのあと、どうやって別れて、粗末な馬車に乗ったのか今では思い出せないが、今もこうやって、座り込んで泣き出してしまった自分を思うと、あの時と全然変わってないなと思う。


この丘で凛として父とニルガのみんなを迎えるはずだったのに、ちゃんと大きくなった自分を皆に誇ろうと思っていたのに、何故か皆が近づくにつれ、足も震えて立っていられなくなったし、涙もとまらなくなった。


━村のろうそくと、アンナ達の顔や、キラキラ光るブレスレット。


しまいには、あの女将さんたちと男達のつかみあいや、ジョリーンさんの歌。━


走馬灯のように思い出すそれらが、なおの事リーナの涙を誘う。


あんなに楽しかったことでさえ、別の意味で涙を流したほどおかしかったあれらが、今再会の喜びとともに、何故かリーナの慟哭を誘う。


もう、リーナは声さえでないまま、ひたすら泣いていた。








背伸びをして嬉しそうに遠い砂煙りをみていたリーナが、突然膝を抱えて、背中を震わせて大きな声で泣き出しているのをみて、何がおきているのかわからず、茫然となすがままでいたチルニーは、リーナの泣き声に、はっと我にかえり、急いでリーナのもとに行こうとした。


自分が切られるような、生きたまま心臓に杭をうたれるような、ひどい痛みにチルニーはリーナの泣き声に痛むその胸をおさえながら、リーナのそばにいこうとした。


誰であれ、自分のこの愛しい少女を悲しませるものは、容赦はしないと、唇をギリリとかみしめながら。


それを隣のジルスにまたもや肩をおさえられ、怒りをこめて隣りをみると、ひどく青い顔のジルスがいた。


それをにらんで振り切って行こうとすると、ジルスが、


「生きていたかったら、今からあんたは一歩たりとも動くな!頼むから!」と真剣に、チルニーの肩をより強い力でおさえたまま振り絞るような声で言った。


愛しい少女の側にいくのを、これ以上邪魔するならば、と、殺気をこめて、ジルスをみると、彼もまた唇を震わせてリーナをみていた。


二人、一触即発の緊張状態でにらみあっていると、リーナの祖父が前に出て、リーナの側にしゃがみ込んで、リーナの背中を何度も優しく叩いた。


その間も人馬はみるみる近づき、その馬の駆けあがる音は四方から聞こえ、拍車をいれられる馬の体から立ち上る湯気さえかんじられるほどになった。


思わずまた、その数知れない人馬の迫力に、騎士団あがりの自分さえ飲み込もうとする、ただならぬその迫力に再び息を止めてみやったチルニーは、まだ座り込み立てないリーナに目をやると、自分の腰の刀の鍔を軽く上げて、その刃に自分の手を添わせ自分の指を一本づつ、傷つけていった。


滴る血と傷の痛みで自分に活をいれ、片手で足りなければ、もう片手も傷つけ、硬直する自分を叱咤した。


そして、自然体に戻ると、両手から血を滴らせながら、押しとどめようとしたジルスに、居合を放ち、奴が身をかわした隙にリーナの側に歩みよった。


リーナの祖父に軽く頭を下げ、リーナに懐から出したハンカチを渡す。


ずっと下にうつむいていた愛しい少女は、やっと顔をあげ、こちらをみてくれたが、自分の血で赤く染まったそれをみて、新しいハンカチを、また出して渡そうとした。


その時、おびたたしい人馬の群れの地響きの隙間から、


「リーナ!リーナ!リーナ!」とリーナを呼ぶ絶叫が聞こえた。


それを聞くとリーナは、今までしゃがみこんでいたのが嘘のように、すっくと立つと、そのままその声の方に素早く走り出した。


思わず伸ばしたチルニーの手は、すばやいリーナの動きにはついていけず、宙をかいた。







リーナは、その時、父の叫び声を聞いた。


いつも静かな、けれどとても重い重量を感じさせる父の叫び声を、間違いようのない父の叫び声を初めて聞いた瞬間、震えて立てなかった足が嘘のように、その声に向かって走り出していた。


何も考えずその声に向かって思わず走るリーナの前方には愛馬クロウに乗る父の姿が涙の膜ごしにみえた。


走りながら何度も涙を振り払い、はっきりと父をみたいのだけど、それでもやはり涙の膜はなくならず、けれど父をめざして手を伸ばしながら、リーナは一生懸命走った。







グレンは小高い丘に小さくうずくまる、4年ぶりにみる愛しいリーナの姿を、その肉眼でとらえると、自分の一生でこれほど、はがゆい思いをしたことがないほど、拍車をかける愛馬のそのスピードに絶望した。


頭では、この最高の駿馬が素晴らしい速さで他を引き離し、愛娘のもとに向かっているのはわかっていた。


しかし、リーナの姿を確認した途端、もうダメだった。


この瞬間すぐに娘を抱けるなら、あのラージス皇帝の足の裏でも舐めるだろう。


悪魔が望みをかなえるなら、千の命でもすぐ捧げるだろう。


更に一段と拍車をかけ愛馬が泡をその口からだすも、グレンはひたすらリーナのもとに向かった。


そして、うずくまるリーナが泣いているのだとわかると、かすかに残っていた理性は砕け散り、自分の口から絶叫が、愛しい娘を呼ぶ絶叫が飛び出していた。


リーナ!リーナ!リーナ!


自分の声に気付いたリーナが走り寄るのに、自分もまた馬上より手を差出しリーナを求めた。






リーナは、走り寄る父の姿が大きく目の前まで迫るのに、やっと足を止めて息のあがるまま佇んだ。


父はひらりと馬から飛び降りると、リーナに手を伸ばしこちらに走ってくる。


涙でかすむその目をいらただしくまたこすり、自分もまた走り出そうとするが、一度走るのを止めた足はがくがくとして、思うように進まず前によろけた。


しかし、前によろけた瞬間、その体は大きい父の腕の中にあった。



ああこれは父の匂い!リーナは言葉も出ず、父の匂いを思いきり嗅ぎ、その顔を思いきり父の胸にこすりつけた。


父はかすれた声で、「リーナ」と一声言い、改めてリーナを強く抱きしめてくれた。


リーナが顔をあげると、父ギランは、泣きそうな目で再び自分を抱きしめた。






この日、牙を抜かれていたニルガ傭兵団は、再び牙を取り戻した。


更に凶悪に更に激しい牙を、ニルガ傭兵団は持った。


2度と大事な宝を手放さないために。


父娘を取り囲み剣を天にかざし雄叫びをあげる傭兵団にとって、この日が新たな門出の日になった。









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