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心の花  作者: そら
第2章
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第2章 第12話

この辺境の地に足を運んでくださる方がいることに、とても感謝しています。

そろそろ、2章も終わります。

ゴーストタウンとした町には、それこそ病人と寝たきりの老人ぐらいしかいない。


町はずれの小高い丘で、リーナは敷物にすわり、夕日に映える景色をぼんやりと膝を丸めて、飽きずに眺めていた。


隣には、相変わらず初対面のはずなのに、掛け合い漫才のようなやりとりをするチルニー先生とジルスがいた。


そして馬車にはマーサ、この朝を持って祖父母であったウォーカーとハンナはいなくなり、先代に仕えた傭兵団の一員に戻った二人がいた。


はじめ、ナンが示したのは、親娘で、というものだったが、父のグレンの、それを聞いた瞬間の怒りの気配の凄まじさに、すぐさま却下され、祖父母と孫の設定にかえられたのだった。


護衛にあたる人間を選ぶにあたっては、それぞれの部隊から、まだ若い人間、ただし腕は確かなものが一人ずつ推薦され、ルール無用の実戦で一人から二人選ぶ予定だったが、激しい殺し合いに、なぜか外野まで含めて発展し、結局二人目などの選択肢はなくなり、ただ一人生き残ったジルスに決定した。


満身創痍のジルスいわく、


「選ばれなくてもギラン隊長にやられる気がするし、選ばれても、やはりーお前、気に入らな~い!ーとやられる。」

そう、しみじみ言い、それに思いいたった皆に納得され同情をあびたものだ。


自身の身の安全のため、しばらくギランから身を隠し、出発ぎりぎりまで大変な思いをジルスはしていた。


普通、他の隊なら、良くやった!とねぎらわれるものを、うちのリーダーは、あれだから・・・。


ジルスは怪我を直しながら、必死に自分の隊のボスから逃げ回って、いざ村に遅れて到着した時は、良く生きた!自分!!とへなへなと座り込んで、ギランから受けたあれやこれやを思いだして、へたれこんでいた。


同じく自分同様リーナ様のそばにいる、この学舎の教師だった男は、あの人相手に生き延びられるだろうか?と、ふと思ったが、自分がこの男との刀でも、そしてことばでも、その遣りとりを随分気に入ってしまった事を認識し、苦笑いした。


この先生は大丈夫だろう、何せリーナ様が殺さないと決めた男だ。


うん、犬といった、わんこだ、わんこ、わんこなら・・・、ダメだ、ダメかもしれない、きっとダメだ。


俺、また逃げなきゃならないかもしれない、わんこを見逃した罪で・・・。


それと合流した暁に、リーナ様の側に見知らぬ人間がいることで、自分に向ける皆の目が痛いことは必須だ。


他のみんななら、わんことして紹介すれば、風当りはちょっと違う気がする。


はあ~、もう痛くなる胃をおさえ、俺ってば、傭兵団のエリート中のエリートのはずなのにと思い、若手では一番だよなあ、とも思い、なぜかエリートの扱いを一度もされない自分をかんがみ、これがルーク様の隊だったら、自分はどうだったろうと思い浮かべ、冷静沈着、高潔の士と名高いルーク隊長を必死に頭の中に据え、考えたくない自分の隊のギラン隊長を無理やり頭の中から追い出そうとするも、妄想の中でもギラン隊長は最悪凶悪ぶりを発揮し、ルーク隊長を蹴散らし、自分の頭の中でさえ、あぐらをかいて不敵に笑いながら居座り、現実逃避でさえ許してはくれなかった。





チルニーは、学舎を出た所で馬車に一緒に乗せられ、この小高い町はずれの丘まできた。


馬車の中で顔を合わせた目つきの悪い年配の女たちに、じろじろ見られ、体の衰えはあるものの、身ごなしのきっちりした印象の老人が、こちらをちらっとみて、


「いいのか。」


と聞くのに、リーナが頷くと、もうそれで用は済んだとばかりにこちらに無関心になり、そのまま無言のまま、この丘に来た。


リーナが腰をおろすのに、自分もそばに行くと、同じようにあの男も傍に来た。


愛しいリーナの顔を側でみられて、それだけでもう、自分が満たされていくのがわかる。


これから先の事など、どうでもよかった。


風が吹いて自分の目に、同じく隣にいる男の邪魔な長髪が視界にかかり、自分の目からリーナを覆い隠したものだから、思わずこの男は、やはりやるべきだったと、男をにらみながら、その思いを新たにした。


「あなたには、私のいきがいを邪魔した報いを、どれほどのものか知っていただく必要がありそうですね。」


そう腰の刀に手をかけ、男をみすえた時、どこからか、かすかに「どっ、ど」という音が聞こえてきた。


不思議に思い音のする方をみると、リーナが立とうとしているので、先に立ち上がり、その手をそっと握り、リーナの立つ手助けをさせてもらった。


素直に手を差し出すリーナに、心が震え、その暖かい柔らかな感触に自分の神経は一身に集中していたが、「どっ、どっ、どっ」と、その音がまたかすかに聞こえるのに、嫌々ながら目をむけると、遠いかすかな方向に薄く煙が上がっているのがみえた。


煙だけしかみえないが、それの立ち上るのが、どんどん高くなり、そのかすかに聞こえる音とともに大きく広がるのがみえるようになった。


老人たちが、リーナの後ろに並んで控えるのを不思議に感じながら、隣に立つリーナをみれば、爪先立ちで、一生懸命背伸びして、珍しくその顔を紅潮させていた。


若い男に腕をひかれ、思わず何かを言ってやろうとしたが、男の緊迫した様子に、大人しく腕をひかれたまま、後ろの男の隣にさがった。


まだ何がおきているのかは、わからなかったが、たなびく煙はより量をまし、その高さをましていった。


この丘にきて「どっ、ど」という少しずつ大きくなる音と、茶色く遠方の大地をおおいつくすようになった煙に、この丘に来て、いや、昨夜からの出来事から初めて、チルニーはいぶかしげに、それをみやり背伸びする愛しい少女の背中をみつめた。



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