第2章 第5話
今日は更新できました。
ここしばらく、ぽかぽかした陽気が続き、いよいよゾワンの花が芽吹きはじめた。
それは広く通知され、10日後に、青の祭りが開催されることが決まった。
学舎は、少し前から祭りの準備に入り、子供達は忙しい中にも、その華やかさに自然と浮かれていた。
町にくるお客様への、プレゼント用の胸飾りのドライフラワーは、学舎の子供達が手作りするものが、渡される。
町の人口の倍近くの人間が、例年やってくるので、少しずつ集めていた草や色とりどりの花は、いくつ集めても全然足りた気がしない。
リーナたち年長組は、こうして時間をみつけては、小川や森の入口、野原など、手分けをしては、それらを集めていた。
まただ、また・・・。
リーナは、背中に刺さるやけどしそうな、強い視線に眉をしかめたくなった。
いつからか、それを隠そうとせず、間違いではなく自分に向けるそれに、リーナのイライラは募っていた。
皆でいる時は何でもないが、こうして一人になった時、友人と二人で話している時などに、このぶしつけなまでの、強い視線に気が付くようになった。
それまでも視線を向けられることはあったが、それは何か伺うようなもので、このような、気持ち悪いものではなかった。
それが続けば、思わず眉をしかめたくなるが、父やナンに繰り返し教わった、他の人間に対しての対応の仕方を思い出してはやりすごしていた。
先生の突然の豹変に、ため息をつきたいのをこらえて、何も知らない風に楽しく花摘みをしつづけた。
こうして戸惑いのうちにも、お客様用のプレゼントを用意する、慌ただしい日が3日ほど続いた日、お昼を高学年の子と一緒に食べていたリーナの耳にその話が聞こえてきた。
ここから歩くと2日はかかる二ライという村の豪農の息子のセズは、この町に下宿して学舎に通っているが、その彼が、自分の家族は、祭りギリギリじゃないと、この町には来ないと、男の子たちの輪の中で話していた。
聞くとはなしに聞くと、例年早めにきて宿屋をとっているが、今回はギリギリでくるので、宿屋をとるのに、頼まれる自分がどれだけ大変だったかを力説していた。
話によると、王都からの役人と辺境警備隊数人が、村を基点にして周辺を歩き回っているため、その役人が次の基点に移るまで、自分も動けないから宿もギリギリの日にちでとってくれと父親から連絡があったそうだ。
何を探しているかわからないが、子供に関心があり、ひんぱんに子供の情報を集めているという話で、自分の妹も、そのお役人と最初に村にきた日にあっているという。
それを聞いた他の子も、遠い町に住む叔母の家の話をしだし、先ごろ、自分の家に祭りのために、早々とやってきた叔母も、そんな話をしていた気がする、といいだし、男の子たちは、目を輝かせ、何事かおきたのか想像のまま興奮して話しだし、やがてそれは、みたことのない王都の話にと移っていった。
リーナは、今聞いた話を頭の中で反芻し、祖父母に判断を仰ぐため、昼食後の花の編みこみを手早く終えると、急いで家に帰った。
祖父母は案の定、何度もリーナの話を確認し、その足で祖父のウォーカーは二ライ村のそばにある山小屋に出かけ、祖母のハンナは隣家のマーサーの所に出かけていった。
リーナは一人になると、じっと自分の手をみつめ、肩を震わせた。
下をみつめる口元は、柔らかい弧を描き、その目は喜びにあふれ、笑い声をあげまいと、必死に我慢している姿だった。
「はじまったわ。はじまった。」
そうつぶやく先には、まだ明るいセナの森がみえ、更に先には学舎へと続く道があった。