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心の花  作者: そら
第2章
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第2章 第4話

章管理・・・挫折です。

読んでくださる方には感謝を、そしてわけのわからない目次に、ごめんなさい。


このサナと呼ばれる辺境の地域の、一番の町、町といってもわずか数百の人口だが、その町にある学舎に教師として赴き、ひと月になる。


学舎といっても、この地域の子供が80人ほどの小さなものだ。


自分は高学年の30人ほどをみているが、田舎の純粋な子たちの、キラキラした顔や雰囲気に、自然と癒されているのがわかる。


ケルダスの王都の男爵家の長男として生まれ、二人の従弟のように、王宮騎士に配属される事を当然のように育てられたが、自分は、一見華やかな、実際はあの騎士道などと笑わせる足のひっぱりあいと、停滞した斜陽の王国に嫌気がさし、上司のミスにかこつけて責任をとるという形で第三騎士団を辞した。


もちろん男爵家には足も入れさせてもらえず、自分の子供時代の家庭教師の伝手で、教師の職をえた。


いくつかの赴任先の中から、一番の辺境を選んで、ここサナ学舎にきた。


子供達に、この辺境からは、たぶん一生出ることのないだろう子供達に、自分の知ってる全てを教えたくて、はじめて、こんなに一生懸命になっている自分に少しだけ笑えた。


チルニー先生、チルニー先生と、自分の周りをまとわりついて離れない子供達に、一層、愛情がわく。


そんな時ふと、違和感を覚えたのは、長年の騎士としての習性なのか、どこか何か、異質な空気が一瞬だけふわっと生じる時がある。


それは瞬きする間もなく、それに何事かと意識を凝らした時には消えていく。


これは、何だ?少なくとも武の道を歩んできた自分のカンは疑わないことにしている。


そして、それはここにきて2週間ほどのある日、理解できた。


授業も終わり、学舎の2階にある自分の部屋で、昼食のパンをかじりながら窓辺から、まだ帰らず遊んでいる子供達をみると、庭の南端にある大きな木の下に作ってある、お手製のブランコに、自分の生徒の一人が腰かけ、その近くを同じ村の子供達が囲んで何やら楽しそうにおしゃべりに興じていた。


それを微笑ましくみて、他に目をやろうとした視界の片隅で、それはおこった。


そのブランコの綱が突然片方切れて、その少女がその体を前に投げ出された。


あっと思ってみているとその体を、とっさにその場にいたものが、みなおのれの体をもって受け止めようとした。


そう、それは普通の事、友人を助けようとするのは、当たり前のことだ。


ただ、その瞬間に、あのいつもキラキラしてる子どもたちの目に、「絶望」をみなければ。







リーナは、学舎の休みの今日、忙しそうな祖母ハンナの代わりに買い物に町にきていた。


祖父のウォーカーのズボンもだいぶくたびれてきているものばかりだし、小さな露店に何かズボンがないものかと歩いていると、前方から、見知った顔の男が歩いてきた。


とっさに面倒だ、とは思ったが、ここはちゃんと挨拶を、と思い


「チルニー先生おはようございます。」


と声をかけた。


先生に聞かれたので、祖父のズボンを探しているというと、前の先生の残していったものの中に、確かズボンがあったといい、こういうものは貰い手があるうちが花だと、どういうわけか、貰うという話がまとまってしまって、そのまま学舎への道をたどっている。


先生が露店で食べ物をいろいろと買って、一緒に食べようと誘ってくれ、それを断ると、こんなにたくさん買ってしまった、というので、ともに昼食をとることになってしまった。


それらを持って、学舎への道々、聞かれたこの地域の話を少しした。


もうじき咲くだろう、黄色い良い香りのする花をつけるゾワンの木が、一斉にこの町や村のいたる所で咲きはじめると、髪にも衣服にも、それの残り香が移り、それはそれは咲いている2週間ほど違う世界にいるようになるということ。


花が咲くのを合図に3日間ほど、青の季節を祝う祭りが、一斉に行われ、この時ばかりは大勢の人が、この辺境にやってくる、などをぽつぽつと話しながら学舎についた。


ズボンをとりにいった先生を待って、食べ物の数々を広場の片隅の日の当たる場所に敷き布を用意してひろげ、並べ終えると、ふと、綺麗な青い空を見上げた。


その綺麗さに両手を上に伸ばして、空に、空に、とけるような青い空に向けて手を伸ばし、目をつぶって気持ちのままに身をまかせていた。


チルニーはいくつかのズボンと、ついでにシャツを袋にいれて、ピクニックの用意をしている教え子の元にむかったが、敷き布に座り両手を上につきだし目を閉じる少女の、光をその黒髪に浴び、まるで神殿にあるヤーナの使途の絵姿のような感情をうかがわせない静畢さと、それとは反対の赤い唇に浮かぶ微笑みの甘さに、金縛りにあったように動けなくなり、それを崩さないよう、無意識に息さえ止めていた。


リーナはチルニー先生の気配はわかってはいたが、めったにない心からの欲求に負け、なおも、空を求め続けていた。


それを破ったのは、かんだかく鳴く一羽の鳥だった。


リーナが目を開け、チムニー先生をみると、先生はあわてたように、近寄り敷き布に座ると、昼食を一緒にとったが、さきほどまでが嘘のように、ぎこちない態度だった。


まだ、買い出しがあるというリーナを門まで送り、自室にもどると、チルニーは何故か持ってきたはいいが、しまいっぱなしだった剣をとると、一心不乱に型をとり、汗を流して、そのままベッドにあおむけになった。


チルニーは何が自分におこったのか、これが何なのかを混乱のうちに理解した。


今まで遊んだいろいろな女、本気で好きになった同輩の妹を思い浮かべる。


そして、27になるという自分は、はじめて今までの経験が、どんなに薄っぺらなものだったかを実感した。


確かに成長すれば美しい子になるだろうとは思ったが、たかが子供だ。


違和感を感じて観察しても、その瞬間ひょろっと抜け出る曖昧さに、自分のカンを疑いたくなった時もある。


しかし、同じ村の子の、あの時の表情は見間違いではないと何度も思い返し、あの年頃の子らにはないはずの、この地域に住む普通に生活する子にないはずの「絶望」の表情を思った。


今日会ったのも、張本人に個人的に話してみたいと考え、学舎だと自分の傍にいる子と共にいて、自分の所にはくるが、それ以上の接触がないため、昨日何気に買い出しの話が耳に入ったので、露店に朝からいて、待ち伏せをしていた。


しかし、しかし、自分がまさか、たかだか13の子に一瞬で堕ちると思わなかった。


まさしく堕ちるがふさわしいこの感情は、こんなに激しい感情は今までの生を振り返っても、持ったことがなかった。


共に昼食を食べながら、この自分の感情をおさえるのに、必死だった。


その華奢な体を抱きしめようと、暴走する自分の手を意志の力でおさえつけるも、自分の目は、目の前の少女を貪りつくそうとする。


目を合わせないよう、手を向けないようにしても耳はその気配を、食べる音、飲み込む音、息をする音に貪欲になる。


こんな自分は知らない、何事にも淡泊で家族にすら愛情を持てず、出世にも興味がない自分は、友人たちに、ため息ばかりつかれたものだ。


自分が自分に油断すれば、すぐさま少女の元に飛んでいく激しい自分をおさえながら、甘く苦しい激情になぜか涙があふれた。


そういえば、涙など、母が死んだ時も流さなかったのに。







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