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第29話 隠し扉の見つけ方――エルフ少女、天井回路を読む

四階の、例の部屋まで戻ってきた。


毒のトラップに引っかかった宝箱が置かれていた部屋。

あのときは罠と戦利品で頭がいっぱいだったが、今こうして改めて見ると、やっぱり気になる。


問題の壁は東側だ。


何の変哲もない石壁。

見た目だけなら、ただの行き止まりにしか見えない。


でも――ここに隠し扉がある気がする。


俺は壁の前に立って、じっと目を細めた。


「シンゴさん、どうしたの? 壁なんかまじまじと見ちゃって?」


ノエルが不思議そうに首を傾げる。


「この壁のどこかに、隠し扉があると思うんだよ」


「なるほどね」


ノエルはすぐに納得した顔になった。


俺は隣のフィーネを見る。


「フィーネ、一緒に探してくれないか?」


フィーネは小さく頷いた。


「……はい。分かりました……」


そうして、探索開始だ。


フィーネは壁の左側から順番に、かなり念入りに見ていく。

俺も一応、右側から調べ始めた。


指先で継ぎ目をなぞる。

壁を軽く叩く。

床との境目も見る。


でも、俺の方はさっぱりだ。


正直、見た目だけじゃ何も分からない。


こういうとき、フィーネの存在は本当に頼もしい。



しばらくして。


「……ありました……!」


「早っ」


思わず声が出た。


フィーネは、ちょうど壁の真ん中あたりに立っていた。

壁の方を指さしながら、少しだけ興奮した声を出している。


「……ここの位置に、こういうサイズで魔法回路があります……」


指先で壁をなぞりながら、見えている線を追うように示していく。


俺には見えない。

でも、フィーネの目にははっきり見えているんだろう。


「どのくらいの大きさだ?」


「……扉一枚分くらいです……ただ……」


フィーネは目線を少し上へ向けた。


「……上の方にも、まだ回路がありそうなんですが……遠くて……」


ああ、身長的に見えないのか。


「肩車するか?」


フィーネが少しだけ目を丸くして、それから頷いた。


「……お願いします……」


俺は壁際でしゃがみ込む。


「ゆっくりでいい。乗れそうか?」


「……し、失礼します……」


フィーネがそっと俺の肩に手を置く。

遠慮がちに片足を上げて、慎重に体重を預けてくる。


軽い。


いや、軽すぎる。


俺は両手でフィーネの脚を支え、そのままゆっくり立ち上がった。


「うおっと。大丈夫か?」


「……は、はい……っ」


少しだけぐらついたが、すぐに落ち着く。


肩の上のフィーネは、緊張しているのか背筋がぴんと伸びていた。

でも、壁を見るとすぐに意識がそっちへ向く。


さすが職人気質だ。


「見えるか?」


「……はい……見えます……」


よし。



フィーネは壁の上部をじっと見つめた。


「……ここまでが、扉開閉の回路ですね……」


指先で、空中に線を引くように示す。


高さは、下から二メートルくらいか。


「その上は?」


「……その上にも、回路が続いています……」


「おお」


「……どうやら、天井まで続いています……」


まだあるのか。


「……さらに、天井を這うように、西側へ伸びていますね……」


「了解。動くぞ」


俺はフィーネを肩車したまま、ゆっくり西側へ移動した。


「見えてるか?」


「……はい……ずっと続いていますね……」


天井の見えない線を追うように、部屋の中を進む。


そして、西の端近くまで来たところで、フィーネの声が少し弾んだ。


「……あっ、ここで二股に分かれています……!」


フィーネが右と左を指さす。


なるほど。

扉の回路から分かれて、別の仕掛けにつながってるわけか。


「じゃあ、まずは右から見てくれ」


「……はい……ずっと天井をそって続いてますね……」


俺は壁沿いに移動する。


右へ、右へ。

部屋の端まで進んだところで――


「……あっ! ここに、ボタンみたいなのがあります……!」


「ナイスだ、フィーネ! すごいぞ!」


思わず声が上がる。


ノエルもぱちんと指を鳴らした。


「やるじゃない! さすが私のフィーネだわ!」


“私の”フィーネが少し気になったがスルーする。


フィーネは上から、少しだけはにかんだ。


「……ありがとうございます……」


顔が赤い。

褒められると本当に分かりやすいな。


「じゃあ、逆も見てくれるか?」


「……はい……」


今度は反対側へ移動する。


フィーネが天井を追う。

俺は足元に気をつけながら進む。


しばらくして、反対側の端でも声が上がった。


「……こちらにも、ボタンがあります……」


「やっぱり二つか」


「いかにもって感じね」


俺とノエルが、ほぼ同時に反応する。


二つボタンがある。

しかも、扉の回路から分岐してる。


「どう考えても、同時押しだな」


「そうでしょうね」


俺はフィーネをゆっくり降ろした。

床に足がつくと、フィーネが小さく息を吐く。


「……ありがとうございました……」


「いや、助かったのはこっちだ」


俺はそのままノエルを見る。


「ノエル、そっちのボタン頼めるか?」


ノエルは胸を張った。


「オッケー! まかせて!」



その前に、俺はスマホを取り出した。


せっかくなら配信を入れる。

ここは絶対に撮れ高がある。


配信アプリを開いて、開始。


【配信開始】


「こんにちは、シンゴです。今日も横浜の新ダンジョンに来てます」


画面の横で、フィーネが少しおずおずと頭を下げた。


「……フィーネです……」


『フィーネちゃんきたあああ』

『エルフおる!』

『保護エルフちゃんかわいい』

『フィーネちゃん今日も声が可愛い』

『耳たすかる』


ノエルがすぐ横から割り込んで、得意げに手を振る。


「天才天使のノエル・セラフィアよ。ふふん」


『ノエルさんきたw』

『天才天使ほんと好き』

『出たドヤ天使』

『ノエル姐さん今日も元気』

『天使とエルフが同じ画面にいるの情報量やばい』


よし。コメント欄も元気だな。


俺はカメラを壁の方へ向ける。


「今、疑惑の四階に来ています。ここに隠し扉があると思って、今回もう一度来ました」


『やっぱそこか!』

『絶対なんかあると思ってた』

『再調査きたあああ』

『シンゴこういう嗅覚あるよな』

『四階まだ終わってなかったか』


「それで、さっき調べたら、西側の天井二か所に隠しボタンがあるのを発見しました」


『ファッ!?』

『もう見つけたの!?』

『天井とか普通見ねえよw』

『マジで隠し要素あったのか』

『四階ガチで未発見エリアあったんだ』


「じゃあ、さっそく押してみます」


そしてもう一度しゃがみ込む。


「フィーネ、頼む」


「……はい……」


『肩車きた!!』

『うおおおおお』

『この絵面つよいw』

『特等席きたな』

『シンゴそこ代わってくれ』


フィーネがそっと肩に乗る。

俺は立ち上がって、ボタンの位置まで移動した。


そのあいだに、ノエルはふわりと翼を広げた。


白い翼が光を受けて広がり、そのまま軽く宙へ浮く。

反対側のボタンの位置まで、すっと飛んでいった。


ノエルは反対側の壁際で浮いたまま、指をボタンの位置に添えた。


「ノエル、いけるか?」


「オッケー!」


俺は一度、深く息を吸う。


「じゃあタイミングを合わせて――3、2、1、今だ!」


俺とノエルが、同時にボタンを押す。


その瞬間。


カチリ。


フィーネが扉があると言っていた、壁の中央あたりから音がした。


「来た!」


次の瞬間――


ゴゴゴゴゴゴゴ……!


石壁が震える。

前面の壁が、横へスライドしていく。


隠し扉だ。


『うおおおおおおお!!』

『マジであったあああ!!』

『鳥肌やばい』

『四階の空白きたあああ』

『シンゴすげえええ』

『これ完全に当たり部屋じゃん!』


俺は思わず笑った。


「やっぱりあったか」


胸の奥が熱くなる。

こういう瞬間があるから、ダンジョンはやめられない。


毒罠の宝箱部屋。

不自然な空白。

天井の回路。

隠しボタン。


全部つながった。


壁が最後まで開き切る。


その奥には、今まで誰も踏み入っていない通路が、静かに口を開けていた。


俺はフィーネをゆっくり降ろし、開いた先を見た。


「さて――」


まだ先は見えない。

何があるのかも分からない。


でも、間違いなく“当たり”だ。


俺は剣に手をかけた。


「行ってみるか」


開いた隠し通路の奥から、冷たい空気が流れてきた。

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