第25話 保護申請とプレミアムアイス――エルフ少女、バニラで世界が変わる
次の日。
朝の食卓に、いつもの食パンが並んだ。
昨日まで“逃げ場のない夜”だったはずのリビングが、今は普通に朝をしている。
……普通じゃないのは、メンツだけだ。
俺、天使、エルフ。
ノエルは当然のようにバターを追加し、フィーネは座り方がまだ少し硬い。
背筋が伸びて、両手は膝の上。だけど視線はテーブルとテレビを行き来していて――落ち着かないのに、興味は隠せてない。
フィーネは座り方がまだ少し硬い。
背筋が伸びて、両手は膝の上。落ち着かないのは隠せてない。
少し恥ずかしいが、フィーネに“ダンジョン配信”を説明するには、これが一番早い。
俺は覚悟を決めて、昨日の配信を見せることにした。
すると、フィーネの視線がテーブルとテレビを行き来する。
怖がりながらも、興味を隠せない――そんな顔だった。
再生した瞬間――フィーネが一秒で固まった。
「ひぃっ……! は、箱の中に……シンゴさんが……! ノエルさんが……!」
「箱じゃない。テレビ」
「でも、動いて……喋って……!」
フィーネが本気で後ずさろうとして、椅子がきゅっと鳴る。
ノエルが得意げに頷いた。
「ふふん。現代の記録よ。場面を“保存”して、あとから“再生”するの。ね? 便利でしょう?」
「……保存……再生……」
「昨日の戦いが、今ここで見られるってこと」
俺がそう補足すると、フィーネはようやく理解したらしい。
でも――理解しても慣れない。
画面の中でゴーレムが動くたびに、フィーネの肩がビクッと跳ねる。
たまに、飛んでくる攻撃を避けるみたいに体がビクッと動く。
「今の、当たってません……!? 大丈夫ですか……!?」
「当たってない。当たってたら今ここにいない」
「……そう、ですよね……」
安心した顔になるのが、いちいち可愛い。
途中、ノエルが宝箱で真っ黒になるシーンになった。
フィーネが一瞬、口元を押さえて――
「……くすっ」
小さく笑った。
ノエルがすぐに言い訳する。
「わ、わざとだからね。検証。罠の検証!」
「はいはい」
フィーネの笑顔を見たノエルは、むしろ機嫌が良さそうだった。
照れ隠しみたいに、いつもより胸を張ってる。なんだこいつ。
俺はついでに、ダンジョン配信と魔石のことも簡単に説明した。
“記録して見せること”、“稼げること”、そして“危険もあること”。
フィーネは何度も頷いて、最後に小さく息を吸った。
「……お役に立てるように、頑張ります……」
その言葉が、やけに頼もしく聞こえた。
◆
「今日は街に出かけようと思う」
俺が言うと、ノエルが即答する。
「保護申請ね」
フィーネがぱち、と瞬きをした。
「……ほご……しんせい、ですか……?」
ノエルが得意げに、先輩面で説明を始める。
「ふふん。簡単に言うとね。フィーネがここにいていいって、正式に“登録”するの。守る人も決める。危険がないかも確認する。大事よ」
「……なるほど……」
フィーネの表情が少し引き締まる。
不安もあるだろうけど、“ここに残る”って選択をちゃんと自分の手で取ろうとしてる顔だ。
……助かる。俺一人だと、こういう説明はたぶん固くなる。
◆
赤坂。ダンジョン協会本部ビル。
タクシーを降りて中へ入った瞬間、空気がざわついた。
「……天使と……エルフだ」
足が止まる人が出る。スマホを取り出しかける人もいる。
ノエルは、注目されるほど嬉しそうに胸を張った。
「ふふん」
やめろ、煽るな。
フィーネはというと――視線を落として、俺のすぐ横へ寄った。
袖をつまむほどじゃないけど、距離が近い。守りの姿勢が丸見えだ。
俺は番号札を取って、待合へ。
【18番】
「十八ね」
ノエルが読み上げる。
フィーネは膝の上で指をそろえて、黙って待っていた。
◆
「18番の方」
呼ばれて、俺たちは個室へ案内された。
担当の女性と目が合う。
……前回ノエルのときと同じ人だ。
「本日も、異世界人の保護申請でお間違いないでしょうか」
「はい。お手数をおかけします」
こういう申請とか、役所みたいな手続きの場は、どうしても身構える。
ダンジョンの戦いとは別の意味で、緊張するやつだ。
状況確認。
本人への意思確認。
「フィーネさん。こちらの方に保護されることは、ご本人の意思でお間違いありませんか」
フィーネは一瞬だけ目を伏せ――小さく頷いた。
「……はい」
声は小さいのに、芯があった。
その“はい”が、嬉しかった。
続いて、フィーネは別室へ。
立ち上がるとき、ほんの少しだけ不安そうな顔をして――それでも自分で歩いた。
たぶん“本当に保護を望んでいるか”“危険性がないか”そういう確認をされてるんだろう。
数十分。
扉が開いて、フィーネが戻ってきた。
肩が少し落ちている。緊張で疲れたのかもしれない。
担当者が端末を叩きながら言った。
「では問題ないようですので、フィーネさんの異世界人登録と保護登録を行います」
その言葉に、フィーネの息がふっと抜けた。
俺は小さく言う。
「……よろしくな」
フィーネは顔を上げ、丁寧に返した。
「……こちらこそ。よろしくお願いします……」
◆
「……ちょっと休憩するか」
建物を出たところで、フィーネの顔色を見てそう言った。
頑張り屋ほど、こういうのを我慢して無理をする。
俺はスマホで近くを検索して――見つけた。
34プレミアムアイスクリーム店。
ちょっと高い。
でも、こういうときの“甘い安心”は効く。
移動前に、ノエルが指を鳴らす。
「ふふん。《認識阻害結界》、いる?」
「頼む。今日も目立つと困る」
「任せて!」
結界がふわっと降りて、街の中に溶けるみたいに歩けるようになった。
店は、シックな外観にキュートな看板。
落ち着いてるのに、ちゃんと“遊び”がある。いい店だ。
注文はトリプル。
俺は、バニラ/ポップシャワー/ストロベリーチーズ。
ノエルは迷いゼロで、
「34オールスターズ! ラブラブマッチ34! チョコオールスター34!」
お前、甘党の方向性が強すぎる。
フィーネはメニューを見て固まっていた。
色が多い。名前が強い。選ぶのが怖いタイプだ。
「最初は基本だ。バニラ」
俺が言うと、ノエルが即乗ってくる。
「チョコも絶対。人生が変わるわ。ふふん」
フィーネは悩んだ末に、最後の一つを指差した。
「……みどりの……これ……」
「抹茶?」
「……はい……色が……きれいで……」
反応が気になるチョイスだ。
◆
席に着いて、アイスが届く。
「いただきまーす!」
ノエルが一口で顔をほどく。
「んーーーーーー美味しい! 地上、最高!」
「お前、結局それだな」
俺はフィーネにスプーンを渡す。
「この白いのがバニラ。基本中の基本」
フィーネはおずおずすくって、口に入れた。
次の瞬間、目が丸くなる。
「……つめたいです……! あまいです……! ……とても、とても美味しいです……!」
「だろ」
フィーネは珍しく興奮気味で、もう一口いった。
「……すごいです……凄いです……」
次にチョコ。
口に入れた瞬間、フィーネの表情が“ほっと”ほどける。
「……甘いのに……深いです……。香りが……落ち着きます……」
「分かる。チョコは強い」
ノエルが勝ち誇った顔でうなずく。
「ふふん。だから言ったでしょ?」
最後、抹茶。
フィーネは少し警戒しながら口に入れて――ゆっくり目を細めた。
「……少し、にがみがあります……でも……美味しいです。あとから……やさしいです……」
おお、いける。
俺はふと気づく。
夢中で食べてるフィーネの耳が、少しだけ下がっている。
……落ち着いてるとき、嬉しいとき、耳が下がるのか。
妙にほっこりした。
食べ終わったところで聞いてみる。
「どれが一番だった?」
フィーネは迷わず、目をきらきらさせた。
「……バニラが、一番好きです……!」
「王道だな」
ノエルも負けじと叫ぶ。
「私はねー! チョコオールスター34! 素晴らしいわ!」
なるほど。ノエルはチョコ派。覚えとこう。
◆
帰り道、俺は次の予定を口にした。
「次は……銀座の特約店だ。昨日と今日で拾ったやつ、鑑定と売却」
リュックの中には、金ピカのベル、金貨袋、本、みかんサイズ魔石。
ちゃんと価値を確かめて、今後の方針を決める。そろそろ“中身の確認”だ。
フィーネが小さく息を呑む。
「……鑑定……」
ノエルが、楽しそうに笑った。
「ふふん。こういうの、わくわくするわよね。価値が分かる瞬間って」
フィーネも小さく頷いた。
「……はい……少し……楽しみです……」
俺は一歩だけ速く歩いて、前を向いた。
「……よし、行くか」
その横で、フィーネの耳がほんの少し下がった気がした。
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