EP 8
スパチャ総額1億円と、気絶する妹(※配信切り忘れてます)
「ふぅ……。とりあえず、これで一安心か」
俺は剛田たちを置き去りにして、自作のトンネル(壁をくり抜いた穴)を抜けた。
ここまでくれば、安全地帯まであと少しだ。
ポケットの中には『龍王の心臓』と、大量の『霜降り肉』。
これだけあれば、今夜はすき焼きでも焼肉でも、未緒の好きなものを食べさせてやれる。
「よし、配信も終わるか。……えっと、終了ボタンは……」
俺はスマホの画面をタップした。
画面が暗くなる。
ふぅ、と息を吐く。
「……疲れたなぁ。まさかドラゴンと戦うことになるなんて」
俺は独り言を呟きながら、ポケットから取り出したペットボトルの水を飲んだ。
――しかし。
俺は気づいていなかった。
俺のボロスマホは画面が割れているせいで、タッチ感度が最悪だということに。
そして、「配信終了」ボタンが反応しておらず、画面がスリープしただけで、音声も映像も垂れ流しだということに。
プルルルルッ!
突然、着信音が鳴り響いた。
画面を見ると『ATM(未緒)』の文字。
「お、噂をすれば」
俺は通話ボタンを押して、スピーカーにした。
「もしもし、未緒? 見てたか? お兄ちゃん頑張ったぞ」
『バカバカバカ! お兄ちゃんのバカァァァァァ!!』
鼓膜が破れそうな絶叫が響いた。
スマホのスピーカーが音割れしている。
「うわっ、なんだよ急に。肉なら確保したぞ? 霜降りのいいやつ」
『肉なんてどうでもいいの! それより「心臓」! あと「ミスリル」! ポケットに適当に突っ込まないでよ! 傷ついたらどうすんの!?』
「え? ああ、あれか。なんか綺麗だったから拾ったけど……そんなに価値あるのか?」
『価値あるのか、じゃないわよ! ネットニュース見てないの!? あんた今、世界トレンド1位よ!?』
未緒の興奮がおかしい。
まるで推しのアイドルのコンサート直後みたいだ。
『いいから、今すぐ残高確認して! スパチャの総額!』
「スパチャ? ああ、なんかチャリンチャリン鳴ってたな」
俺は通話画面を最小化して、Dチューブの管理画面を開いた。
そこには、見たこともない桁の数字が並んでいた。
【本日の収益合計:¥128,450,000】
「…………いち、じゅう、ひゃく……え?」
俺は目を擦った。
何度見ても、数字は変わらない。
1億2千万……?
「……未緒、これバグってるぞ。運営に報告しないと」
『バグじゃないわよ! あんたがドラゴンを「解体」した瞬間、世界中の石油王とか大企業が投げ銭したの! 「国宝をありがとう」って!』
「1億……?」
手が震える。
借金は300万だ。
返せる。一瞬で返せる。
それどころか、都内の一等地に家が買える。
「……なぁ未緒。これ、夢じゃないよな?」
『夢じゃないわよ! ……あ、待って。今、テレビで緊急速報出た』
電話の向こうで、未緒がテレビの音量を上げたらしい。
キャスターの緊迫した声が聞こえてくる。
『――臨時ニュースです。先ほど、大迷宮アビスの深層にて、フロアボス「深淵の魔龍」が単独撃破されました。撃破したのはFランク探索者の九条湊さん。政府は九条さんを「特級国家戦力」として保護するため、自衛隊と探索者協会の混成部隊を派遣する決定をしました――』
「……は?」
特級国家戦力? 自衛隊?
俺のことか?
『聞いた!? お兄ちゃん、もう一般人じゃないんだって! 家の前に黒塗りの車が止まってるんだけど!』
「えぇ……帰るの怖くなってきた……」
俺は頭を抱えた。
ただ、借金を返すために潜っただけなのに。
妹に美味い肉を食わせたかっただけなのに。
『あ、そうだお兄ちゃん。一つ言い忘れてた』
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
『……今の会話、全部配信に乗ってるよ』
「…………はい?」
俺は恐る恐るスマホの画面を見た。
右上に赤く点滅する『LIVE』の文字。
そしてコメント欄の流速は、光の速さを超えていた。
『wwwwwwww』
『全部聞こえてるぞwww』
『「バグってるぞ」クッソワロタ』
『1億でバグ扱いは草』
『妹ちゃん、家の前包囲されてて草』
『国家戦力おめでとう!』
『【悲報】主、逃げ場なし』
「うわああああああああああ!!」
俺の絶叫が、ダンジョンの天井にこだました。
その瞬間、同接数は前人未到の300万人を突破した。




