EP 5
魔王ルンバのビーチ・デビュー。砂に埋まっていた『古代兵器』をゴミとして吸い込み大進化する
「ふぅー、食った食った。やっぱり海辺でのBBQは最高だな!」
特級海域の白い砂浜で、俺は満腹のお腹をさすりながら、ビーチチェアに深く腰掛けた。
未緒やアーニャたちは、お腹がいっぱいになってウトウトと昼寝を始めている。
そして俺の背後には、全裸でレジャーシートを被せられたSランク探索者たちが、カニの旨味の余韻に浸りながら安らかな寝息を立てていた。
「さて、と。来た時よりも美しく、が清掃の基本だ。……おい、ルンバ! ちょっとこの辺りのゴミ拾い、頼めるか?」
「ルンッ♪(お任せください、ご主人様!)」
俺が声をかけると、パラソルの下で待機していた丸い自動掃除機――魔王ルンバ(元・大魔王)が、元気よく駆動音を鳴らして砂浜へと走り出した。
キャタピラで砂の上を器用に転がりながら、BBQで出た紙皿の切れ端や、串の破片などをウィィィンと器用に吸い込んでいく。
世界を滅ぼす大魔王の面影など微塵もない、完璧な「お掃除ペット」である。
「健気な奴め。よしよし、あとでフィルターの掃除してやるからな」
「フッ……かつての魔王が、王(Boss)の下働きとして無邪気に喜んでいる姿……。なんとも涙ぐましいですな」
ジャンが冷たいカクテルを傾けながら、呆れたような、しかし少し同情するような目を向けていた。
その時だった。
ルンバが、砂浜の少し離れた場所に差し掛かった瞬間。
――ピピピピピッ!!(※ゴミ発見のセンサー音)
「ルン?(む? これは……強固な空き缶系のゴミですね?)」
ルンバの足元の砂が、不気味な紫色の光を放ち始めた。
「……ッ!? Boss! ルンバの足元に、尋常じゃない魔力反応が!」
「あら……あれは古代魔法帝国の遺物。『大地融解のコア』じゃありませんこと!?」
ジャックとカレンが血相を変えて立ち上がった。
彼らの言う通り、ルンバが「ゴミ」として認識したソレは、特級ダンジョンであるこの島に仕掛けられた最悪のトラップの一つだった。
触れた瞬間に砂浜はおろか、島一つをマグマの海へと変える、超古代の大量破壊兵器。それが砂の中に埋まっていたのだ。
「ル、ルンバに触らせちゃダメだぜ! あいつのボディじゃ耐えきれずに木っ端微塵に――」
ジャックが止めようと駆け出した、まさにその時。
「ルンッ!!(ダイソンも顔負けの、吸引力フルパワー!!)」
――ギュィィィィィィィィンッ!!!!
ルンバは躊躇することなく、その『大地融解のコア』の真上に乗り上げ、超絶怒涛の吸引力で、兵器ごと強引に体内に吸い込んでしまったのだ。
「「「あァァァァッ!!??」」」
SP軍団が絶叫する。
しかし、爆発は起きなかった。
その代わり、コアを吸い込んだルンバの黒いボディが、ピカーーッ!!と神々しい黄金色の光を放ち始めた。
「ル、ル、ルゥゥゥゥンッ!!(未知のゴミ(エネルギー)を解析……完了! 新機能、アンロックされました!!)」
元々「大魔王」という超高位の魔力体であったルンバのAIが、古代兵器のシステムと完璧に融合してしまったのだ。
「おっ? なんだなんだ。ゴミの吸いすぎで故障か?」
俺が不思議そうに見守る中、黄金に輝くルンバは、突如として砂浜の上を超高速で回転し始めた。
ズババババババババッ!!!
ルンバの回転によって巻き上げられた砂が、まるで意思を持っているかのように宙を舞い、瞬く間に組み上がっていく。
時間にして、わずか0.1秒。
「……は?」
砂煙が晴れた後。
俺たちの目の前には、ルンバが作った『砂のお城』が完成していた。
――ただし、それは子供がバケツで作るような可愛いものではなかった。
高さ10メートル。精巧な尖塔、見事なアーチ橋、そして城壁のレンガの模様一つ一つまで完璧に再現された、実物大の『中世ヨーロッパの巨大な城』そのものが、砂で錬成されていたのだ。
「ルン♪(ご主人様! 砂のお城作成モード、起動しました!)」
ルンバが、巨大な城の入り口で誇らしげにクルクルと回っている。
「「「…………」」」
ジャック、カレン、ジャンは、口をあんぐりと開けたまま、完璧な建築様式の巨大砂城を見上げて完全に石化していた。
レジャーシートの下で目を覚ました金髪大剣男(Sランク)も、「ひ、ヒィィッ……古代兵器が、一瞬で砂の城に……!」と白目を剥いて再び気絶した。
「おおーっ! すげぇ!!」
だが、俺は大興奮で拍手喝采を送っていた。
「最近の掃除機って、吸い込んだ砂を固めて遊ぶ『砂遊びモード』なんてついてるのか! すげえハイテクだな! これなら未緒も喜ぶぞ!」
「ルンッ♪(お褒めいただき光栄です!)」
古代の大量破壊兵器と融合したことで、『大地を自在に操る超・神話級アーティファクト』へと変貌を遂げた魔王ルンバ。
しかし、俺にとっては「砂のお城を自動で作ってくれる、ちょっと便利な子供向け機能がついた掃除機」でしかなかった。
「よーし、ルンバ! 次はあっちにピラミッド作ってみろ!」
「ルンルン♪」
特級ダンジョンのビーチに、また一つ、人類の常識を覆すオーパーツが誕生した瞬間だった。
俺のバカンスは、まだまだ終わらない。




