EP 4
世界最強の探索者たち、匂いにつられてBBQに土下座する。「一杯5000円な」
ジュワァァァァァァッ……!!
「よしよし、いい焼き色だ。最後に醤油をサッと垂らして……と」
特級海域の白い砂浜で、俺はうちわをパタパタと仰ぎながら、コンロの上の特大タラバガニ(元・Sランク魔物)を見つめていた。
分厚く真っ白なカニの身の上で、濃厚な黄金色のバターが溶け出し、そこに焦がし醤油の暴力的な香ばしさが加わる。
俺の『解体(アク抜きと旨味の極限濃縮)』によって完璧に調理されたカニ肉は、もはやこの世の物とは思えないほどの、芳醇で暴力的な香りを放っていた。
「さあ、焼けたぞ! 熱いうちに食ってくれ!」
俺が紙皿に取り分けると、水着姿の未緒や居候たちが一斉に群がった。
「いっただっきまーす! ……はふっ、んんっ!? お兄ちゃん、これ甘い! カニの旨味が口の中で爆発してるよ!」
「ハラショー……! こんな美味しいカニ、ロシアの皇帝でも食べたことありません!」
「Oh……。全身の魔力回路が、歓喜の産声を上げていやがるぜ……!」
未緒とアーニャがほっぺたを押さえて悶絶し、ジャックが筋肉をピクピクさせながら涙を流す。
Sランク魔物の肉は本来、強すぎる魔力(毒)を含んでいるため、特殊な処理をしなければ食べられない。だが俺の「調理」によって毒は完璧に浄化され、純粋な『超回復のバフ効果』と『極上の旨味』だけが残されているのだ。
「ルン♪ ルン♪」
魔王ルンバまでが、こぼれたカニの汁を嬉しそうに吸引している。
「いやー、海で食べるBBQは最高だな。ほら、ジャンたちも遠慮せずにどんどん食え」
「ウィ、王! この至高の味、我が舌に深く刻み込みます!」
俺たちがワイワイとカニパーティーを満喫していた、その時だった。
「……あ、あ、ああぁぁ……」
「く、食いてぇ……。なんだこの、脳を直接殴ってくるような匂いは……!」
ズリ……ズリズリッ……。
波打ち際の向こうから、ゾンビのような不気味な足音が近づいてきた。
振り返ると、そこにいたのは、先ほど安全地帯(一般ビーチ)で俺たちを「田舎モン」「自殺志願者」とバカにしていた、金髪大剣男とその取り巻きのSランク探索者たちだった。
しかし、彼らにかつての威厳は微塵もなかった。
全員が理性を失ったように目を血走らせ、口から滝のように涎を垂らし、砂浜を四つん這いで這いずりながら近づいてくる。
「ひぃっ!? な、なんだお兄さんたち。ゾンビ映画の撮影か?」
俺がドン引きして後ずさると、金髪男はズサーッ!と俺の足元に滑り込み、額を砂に擦り付けた。完全な土下座である。
「た、頼むぅぅぅッ!! そのカニ、一口でいい! 一口でいいから食わせてくれぇぇぇッ!!」
「風に乗って漂ってくる匂いだけで、俺の持病の腰痛が治って、魔力最大値が2倍になったんだ! 頼む、お恵みをォォッ!」
エリート探索者たちが、プライドも何もなく、俺の足元で泣き叫んでいる。
「いや、お兄さんたち、さっき『Fランクのゴミ』とか言ってなかったか?」
「俺がゴミですゥゥゥッ!! 俺が底辺の塵芥ですゥゥゥッ!! だから、その神の恵み(カニ)をぉぉっ!」
金髪男は懐から、分厚い札束の山を取り出した。
「これ! この100万ドル(約1億5千万円)全部払う! だからそのカニの端っこだけでも……!」
「私はマジックアイテムを出します! だから私にも!」
札束とレアアイテムの山が、コンロの前に積み上げられていく。
「……」
「……」
俺の背後で、ジャンとカレンが冷ややかな視線を下ろしている。「王を侮辱した愚か者どもが、惨めなものだ」と言わんばかりだ。
だが、俺はオカンである。
目の前で「腹を空かせて泣いている(大)子供」を、無碍に追い返すことなどできない。
「……100万ドルなんて、そんな大金受け取れないよ。お釣りがないし」
俺はため息をつき、大量の紙皿と割り箸を取り出した。
「しょうがないな。カニはまだたくさんあるから、少し分けてやるよ」
「ほ、本当かァァァッ!?」
「その代わり、今日は海開きのお祭り価格だ。……一杯、5000円な」
「ご、5000円……!? この、世界を滅ぼすSランク魔物の超絶バフ肉が、たったの5000円!?」
「ちゃんと一列に並んで! 順番に配るから、割り込み禁止だぞ!」
俺がトングをカチカチと鳴らして指示を出すと。
「「「ハイィィィィッ!! ありがとうございます、料理長ォォォッ!!」」」
ズラァァァァァッ!
世界最高峰のSランク探索者たちが、まるで給食を待つ小学生のように、ヨダレを拭きながら見事な一列に整列した。
金髪大剣男に至っては、持っていた『ミスリル製・斬魔の大剣』を砂浜に突き刺し、その上に財布を置いて「いつでも払えます!」と直立不動で待機している。
「はい、お待たせ。熱いから気をつけてな」
「あ、あ、ああああっ……!」
紙皿に盛られた『カニのバター醤油焼き』を受け取った彼らは、震える手でそれを口に運んだ。
……パクリ。
…………。
「「「――――ッッ!!!!!(声にならない絶叫)」」」
ドゴォォォォォォンッ!!
彼らの体から、黄金色のオーラ(生命力の爆発)が天を衝く勢いで噴き出した。
あまりの美味さとチート級の回復効果に、彼らの細胞が若返り、着ていた高級水着やラッシュガードが耐えきれずに弾け飛ぶ。
「うおおおおッ! 美味いィィィッ! 宇宙が見えるゥゥゥッ!!」
「母さァァァん! 俺、生まれてきてよかったァァァッ!!」
彼らは全裸(※水着の紐だけ残っている)になりながら、砂浜をゴロゴロと転げ回り、恍惚の表情を浮かべて気絶(ヘブン状態)していった。
「……お兄ちゃん、また全裸の人が増えたね」
「……なんでこいつら、美味いもん食うとすぐ服が破れるんだろうな。不良品の水着か?」
俺はドン引きしながら、全裸で昇天しているSランク探索者たちにレジャーシートを被せてやった。
こうして、俺をバカにしていたエリートたちは、一杯5000円のカニによって完全に胃袋を屈服させられ、俺の『熱烈な信者』へと生まれ変わったのである。




