第六章 南の島(リゾートダンジョン)で慰安旅行編
福引きで当たった格安チケットで南の島へ。「お前のようなFランクが来る場所じゃない」と笑われますが?
「いやー、ハワイの風は最高だな!」
ザザァァァン……と、透き通るようなエメラルドグリーンの波が寄せては返す白い砂浜。
俺はヤシの木柄の安っぽいアロハシャツに身を包み、サングラスをクイッと押し上げて南国の太陽を見上げた。
「お兄ちゃん、ここハワイじゃないよ。パスポートいらなかったでしょ?」
「えっ? そうなの? じゃあ沖縄か。まあ海が綺麗ならどこでもいいさ」
麦わら帽子を被った未緒が呆れたようにツッコミを入れるが、俺のテンションは最高潮だった。
文化祭の後夜祭で、各国のVIPたちが「ぜひこのガラポンを回してください!」と血走った目で持ってきた福引き。
俺が適当に回すと、カランカランと黄金の玉が出てきて、見事『南の島・超VIP貸し切りバカンスチケット(ご一行様分)』を引き当てたのだ。
(※実はガラポンの中身は全て金色の玉であり、世界トップ層が「どうか我が国の領土を掃除してください」と懇願するための巧妙なワイロだったのだが、俺は全く気づいていない)
「というわけで! 本日は『株式会社・九条清掃』の記念すべき第一回・慰安旅行だ! 日頃の掃除の疲れを、今日はパァーッと癒してくれ!」
「「「ウィ(YES)、Boss!!」」」
俺の掛け声に、背後に控えていたSP軍団(世界最強の探索者たち)がビシッと直立不動で敬礼した。
彼らも一応アロハシャツや水着を着ているのだが、隠しきれない筋肉と鋭すぎる眼光のせいで、完全に『南国にバカンスに来たマフィアの幹部』にしか見えない。
「ルン♪ ルン♪」
さらに足元の砂浜では、元・大魔王である『魔王ルンバ』が、波打ち際でキャッキャと嬉しそうに砂を吸い込んでは吐き出している。可愛い奴め。
だが、俺たちがワイワイと荷物を下ろしていると。
「――おいおい。どこの田舎モンかと思えば、魔力もロクにねえ底辺じゃねえか」
突如、背後からあからさまに馬鹿にしたような声が降ってきた。
振り返ると、そこには身長2メートル近い筋骨隆々の金髪男が立っていた。
背中には、俺の身長ほどもある巨大な鉄の板(大剣)を背負い、取り巻きのビキニ美女たちをはべらせている。
「ここは『ブルーホール・リゾート』。選ばれたSランク探索者だけが入場を許される、世界最高峰の特級ダンジョンだぜ? お前みたいなオーラゼロのFランクのゴミが、遊び半分で来る場所じゃねえんだよ」
金髪男が、鼻で笑いながら俺の胸ぐら……の手前で指を止めた。
というのも、金髪男が俺に近づいた瞬間、背後にいたジャンたちSP軍団から、周囲の空気が凍りつくほどの『超絶・殺気』が放たれたからだ。
「……Boss。この粗大ゴミ、斬り刻んでサメの餌にしてもよろしいでしょうか?」
「私の氷魔法で、絶対零度のオブジェにして差し上げますわ」
ジャンとカレンが、笑顔のまま物騒なことを呟く。
金髪男は、彼らから放たれる尋常ではないプレッシャーに気づき、顔をひきつらせて一歩後ずさった。
それもそのはず。この金髪男もSランクのトップ探索者なのだが、ジャンのような『SSS級のバケモノ』から見れば、ただのチンピラに過ぎないのだから。
だが、俺は「こらこら」とジャンの頭を丸めた雑誌で軽く叩いた。
「せっかくの慰安旅行で揉め事は禁止だ。……それにしてもお兄さん、すごい体格だな。プロのサーファーか?」
「は、はぁ!? サ、サーファーだと!?」
金髪男が間抜けな声を上げる。
「背中にそんなデカい『鉄のサーフボード』背負ってるんだから、波乗りしに来たんだろ? 重そうだけど、最近のはそういうデザインなのか。……でもな、お兄さん」
俺は、金髪男の足元をジッと見つめ、小さくため息をついた。
「遊びに来るのは自由だけど、ホテルのロビーからビーチまで、その『泥だらけのサンダル』で歩いてきただろ。後ろに足跡がクッキリ残ってるぞ」
「……え?」
「公共の場を汚すのは感心しないな。俺たちみたいな清掃員の苦労も少しは考えて、次からはちゃんと入り口のマットで砂を落としてから歩くように。わかったか?」
俺がオカンモード全開で『泥汚れへの説教』を垂れると、金髪男と取り巻きの美女たちは、ポカンと口を開けて完全にフリーズしてしまった。
「な、なんだこいつ……? 俺の『ミスリル製・斬魔の大剣』をサーフボード扱いした上に、泥汚れの説教……?」
世界最高峰の探索者である自分に向かって、魔力ゼロの男が全く物怖じせずに、あろうことか『マナー違反』を注意してくる。
そのあまりのスケールの違い(アンジャッシュ)に、金髪男の脳は処理落ちを起こしていた。
「よし、じゃあ俺たちはあっちの静かな場所でパラソル広げようぜ。お兄さんも、波乗り気をつけてなー!」
「ルン♪」
俺はフリーズしている金髪男の肩をポンと叩き、荷物と魔王ルンバを引き連れて、ビーチの奥へと歩き出した。
「ま、待て! そっちは……!」
金髪男がハッと我に返り、慌てて叫ぶ。
俺が向かっていたのは、美しいビーチの端に立てられた、ドクロマークの描かれた禍々しい立て札の先だった。
そこには、赤い字でこう書かれている。
【警告:この先『遊泳禁止』。特級魔物が巣食うため、立ち入った者の生存率は0%です】
「ん? ああ、これか」
俺はその看板をまじまじと見つめ、ポンッと手を打った。
「なるほど。『ゴミの不法投棄が多いから遊泳禁止』ってことだな。最近の海はマナーが悪いから困る」
「違う! そういう意味じゃねえ!!」という金髪男の悲鳴をスルーして、俺はパラソルを肩に担ぎ直した。
「よし。じゃあ、まずは俺が海の中をピカピカに掃除して、未緒たちが安心して泳げる『プライベートビーチ』にしてやるか!」
こうして、Sランク探索者すら一歩も立ち入らない致死率100%の死の海域での、株式会社・九条清掃の理不尽なバカンスが幕を開けたのである。




