EP 5
メインイベント『学園ダンジョン攻略』。ゴミ拾い大会と勘違いしてホウキで参戦
「特製ミネストローネ、完売でーす!」
1年C組のテント前に、未緒の元気な声が響き渡った。
俺が持ち込んだ『神殺しトマト』と『クラーケンのゲソ』で作ったスープは、全裸で昇天した伊集院親子という強烈なデモンストレーション(?)もあり、瞬く間に学園中の胃袋を制圧してしまった。
「いやー、売れた売れた。みんないい食べっぷりだったな」
「フッ、王の指揮と我が包丁さばきがあれば当然の結果! 次はジャガイモのガレットでも作りましょうか!」
俺がエプロンを外して汗を拭っていると、ジャンがドヤ顔でセラミック包丁(元・聖剣)をくるくると回した。他のSPたちも、やり切ったという清々しい顔をしている。
その時、学園のグラウンドに設置された巨大なスピーカーから、華やかなファンファーレが鳴り響いた。
『――ご来場の皆様、長らくお待たせいたしました! これより、本文化祭のメインイベント、【学園地下ダンジョン・タイムアタック大会】を開催いたします!』
アナウンスが流れると同時に、会場のボルテージが一気に跳ね上がった。
「おっ、タイムアタック? なんだそれは」
「うちの学校の地下には、訓練用の人工ダンジョンがあるの。各クラスの代表パーティーがそこに入って、どれだけ早く最深部のボスを倒せるか競うんだよ。一応、これでも探索者の学校だからね」
未緒がパンフレットを指差しながら解説してくれた。なるほど、ただのお祭り騒ぎじゃなくて、日頃の訓練の成果を見せる場というわけか。
「へえ、面白そうじゃないか。未緒も出るのか?」
「ううん、私は後衛の支援職だし、うちのクラスはそういうガチの戦闘には興味ないから不参加――」
「――おい!! 底辺のゴミ清掃員!!」
未緒の言葉を遮るように、テントの前に数人の男子生徒が怒鳴り込んできた。
Aクラスの制服を着た、伊集院の取り巻き連中だ。伊集院親子が全裸で救急車に運ばれていったため、彼らが仇討ち(?)に来たらしい。
「料理でちょっとウケたからって、調子に乗ってんじゃねえぞ! 俺たち探索者の本分は『戦闘』だ! このタイムアタックで、どっちが真のエリートか白黒つけてやる!!」
「はあ……いや、俺は別に探索者じゃないし、ただの保護者なんだけど」
俺が苦笑いしながら断ろうとすると、Aクラスのリーダー格が鼻で笑った。
「逃げるのか? これだからFランクの底辺は! お前らみたいな非戦闘員のゴミが、俺たちエリートと同じ空気を吸ってること自体が我慢ならねえんだよ!」
「そうよ! ビビってんなら、今すぐここで土下座してレシピを渡しなさいよ!」
ギャーギャーと騒ぎ立てるエリート生徒たち。
彼らの背後では、様子を見に来ていた各国のVIPたちが「あ、あいつら……あの『歩く災害』に喧嘩を売っているぞ……!」「命知らずにも程がある……!」と青ざめて震えている。
だが、俺は彼らの挑発を聞いて、ある一つの『誤解』をしていた。
「……なるほど。ダンジョンでタイムアタックね」
俺は腕を組み、深く頷いた。
「最近の若い探索者は、ダンジョンの中に平気でポーションの空き瓶とか、魔物の死骸を放置して帰るからな。生態系にも悪影響だし、何より『不衛生』だ。……そういうマナーの悪さを改善するために、文化祭で『ボランティアのゴミ拾い競争』を企画するとは。この学校の教育方針、なかなか立派じゃないか」
「「「…………は?」」」
Aクラスの生徒たちが、一斉に間抜けな声を出した。
未緒が「あ、お兄ちゃんの病気が始まった」と額を押さえている。
「いいだろう、その勝負乗ってやる。清掃のプロとして、高校生に『掃除のスピード』で負けるわけにはいかないからな」
俺はそう宣言すると、バッグの中から二つのアイテムを取り出した。
一つは、柄の長い昔ながらの『竹ホウキ』。
もう一つは、大量のゴミを一度に集められるプラスチック製の『特大チリトリ』だ。
「よし、道具の準備は完璧だ。サクッと片付けてくるか」
俺がホウキを肩に担ぐと、Aクラスの生徒たちは数秒の沈黙の後、腹を抱えて爆笑し始めた。
「ギャハハハハッ!! なんだそれ! ホウキとチリトリィ!?」
「マジで清掃員じゃん! ダンジョンに掃除用具持ってくバカがどこにいるんだよ!!」
「せいぜいスライムの粘液でも拭いてろよ、底辺! 俺たちが最高記録の『30分』でクリアして、お前を笑い者にしてやるからな!」
彼らはひとしきり笑い転げた後、意気揚々とダンジョンの入り口ゲートへと向かっていった。
――しかし、彼らは気づいていなかった。
爆笑しているAクラスの生徒たちの周囲で、ジャックたちSP軍団と各国のVIPたちが、この世の終わりを見たような顔で絶望していることに。
「……Bossが、『空間断裂の神杖』と『事象呑喰の魔箱』を装備したぞ……」
「おしまいですわ……。あのホウキを一振りすれば、学園の地下ダンジョンごと、空間が『塵』となって消滅します……」
「大統領に連絡しろ! 今すぐ日本から避難するんだ! あの男は、ダンジョンを物理的に『掃き掃除(消去)』する気だぞォォォッ!!」
大人たちがパニックに陥り、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる中。
「おーい、危ないから通路の真ん中で騒ぐなよー」
俺はのんきに声をかけながら、ホウキとチリトリを手に、ダンジョンの入り口ゲートへと足を踏み入れた。
「さて。目障りな粗大ゴミ(モンスター)、一気に掃き集めるか」
ただの『清掃員』による、人類史上最速かつ最も理不尽なダンジョン攻略(ゴミ拾い)が、今まさに始まろうとしていた。




