EP 4
嫌味なエリート親子、一口食べてオーラを吹き出し昇天(圧倒的ざまぁ)
「い、いらっしゃいませー! 特製ミネストローネ、一杯500円です!」
「パンもつきますよー!」
第一探索者学園の広場。
1年C組のテントの前には、先ほどまでの閑古鳥が嘘のように、何百人もの長蛇の列ができていた。
神殺しトマトとクラーケンのゲソ、そして俺の『解体(アク取り)』が生み出した究極の芳醇な香りは、学園中の胃袋をブラックホールのように惹きつけてしまったらしい。
「すげえ美味い! なんだこれ、ミシュラン三ツ星より美味いぞ!?」
「それに、なんだか体の底から力が湧いてくる……! 古傷の痛みが消えた!?」
「魔力値が限界突破してるわ! 私、今なら一人でAランクダンジョン潜れそう!」
スープを一口飲んだ客たちは、一様に目を見開き、恍惚とした表情で涙を流していた。
そりゃそうだ。ロシアが国家予算を投じて欲しがる『不老不死の果実』と、Sランクの『深海ボス肉』の煮込みだ。500円で売っていい代物ではない。
「お兄ちゃん、鍋の底が見えてきたよ! 追加お願い!」
「おう、任せとけ。ジャン、トマト追加! ジャックは火加減そのままで!」
「「ウィ(YES)!!」」
俺たち厨房スタッフ(世界最強のエリートたち)は、汗を流しながら見事な連携でスープを量産していく。
そんな大繁盛のテントの前に、顔を真っ赤にした集団が割り込んできた。
「おい! どういうことだこれは!!」
先ほど正門で俺に絡んできた伊集院カケルと、その父親(社長)、そして嫌がらせを実行したAクラスの取り巻きたちだった。
「底辺クラスのゴミどもが、なぜこんなに客を集めている! 食材は全部腐らせてやったはずだろ!?」
「カ、カケルくん……! 声が大きいですわ!」
取り巻きの一人が慌ててカケルを止めるが、カケルは怒りで周りが見えていないようだ。
伊集院社長も、鼻をヒクつかせながら憎々しげに俺を睨みつけた。
「フン。どうせ怪しい薬物でも混ぜて、客をトランス状態にしているのだろう。この学校のスポンサーである私が、直々に食品衛生の『検査』をしてやる。その残飯を一杯寄越したまえ!」
完全に因縁である。
しかし、俺は営業スマイルを崩さなかった。
「はい、いらっしゃいませ。お客さんなら誰でも歓迎ですよ。一杯500円になります」
「ふざけるな、金を取る気か! まあいい、このスープを飲んで、すぐに保健所に通報してやる!」
カケルが500円玉を投げつけ、俺が差し出した紙コップのスープを乱暴にひったくった。社長も同様にスープを受け取る。
「こんなドブ水みたいなもん、美味いわけが……」
カケルと社長は、嘲笑いながらスープを口に含んだ。
ゴクリ。
…………。
二人の動きが、ピタリと止まった。
「……ん?」
「おや、どうしました?」
俺が首を傾げた、次の瞬間。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
「「あ、アアアァァァァァァァァァッッッ!!!」」
伊集院親子の体から、突如として『黄金のオーラ(過剰な生命エネルギー)』が間欠泉のように噴き出した。
あまりのエネルギーの奔流に、彼らが着ていた最高級のブランドスーツや制服が、内側からパンッ!と弾け飛ぶ。
「な、なんだこの、溢れ出す美味さはァァァッ!!」
「細胞が! 私の老いた細胞が、10代の頃のように若返っていくゥゥゥッ!!」
ビリビリビリッ!
ワイシャツが破れ、ズボンが裂け、伊集院親子は一瞬にして『全裸』という変態的な姿になり、天を仰いで白目を剥いた。
「クラーケンの奥深いダシが、トマトの酸味と絶妙に絡み合い、それが完璧に濾過された圧倒的な清浄感!! ああっ、母さん! 私は今、宇宙を感じているよォォォッ!!」
ガクッ。
二人は立ったまま、口からキラキラとした光の粒子(余剰魔力)を吐き出し、完全に昇天(ヘブン状態)して気絶した。全裸で。
「……うわぁ」
「き、汚い……」
「お客さん、いくら美味いからって、公衆の面前で服を脱ぐのはマナー違反ですよ」
俺はドン引きしながら、全裸で泡を吹いているエリート親子にブルーシートを被せた。
周囲の客たちも「あーあ、美味すぎてキャパオーバーしちゃったんだな」と同情(?)の目を向けている。
「な、なんだあの光景は……!?」
その時。
騒ぎを聞きつけて、学園を視察中だった各国のギルドマスターや政府高官(VIP)たちが、SPを引き連れてぞろぞろとやってきた。
彼らは全裸で倒れる伊集院親子を見て驚愕したが、その視線はすぐに、テントの奥の『厨房』へと吸い寄せられた。
「あ、ありえない……。見ろ、あの鍋の火加減を調整している男……アメリカの『雷帝』ジャック・サンダーボルトではないか!?」
「バカな! では、あそこでトマトを冷やしているのは、北欧の『氷の女帝』!? タマネギを刻んでいるのはフランスの国宝ジャン・ル・ブラン!?」
「ロシアの暗殺者まで、エプロン姿で盛り付けをしているぞ……!」
世界の頂点に立つトップエリートたちが、ただの高校の模擬店で、汗だくになって下働きをしている。
VIPたちの顔から、サーッと血の気が引いていく。
「ま、待て……! 彼らのような怪物を『アゴで使って』料理を仕切っている、あのポロシャツの男は……!」
「間違いない……。あの男こそ、日米露仏を完全に屈服させた、歩く世界最恐の災害(特異点)……『九条独立国』の王だッ!!」
ドサッ!
ドサドサドサッ!!
「「「ははぁーーーーッ!!!」」」
VIPたちが、一斉に地面に膝をつき、テントに向けて深々と土下座を始めた。
周囲の保護者や生徒たちは、何が起きているのか分からずポカンとしている。
「えっ? なんですか皆さん、いきなり土下座なんかして」
俺はお玉を持ったまま、戸惑って首を傾げた。
「あの、スープならまだありますよ? もしかして、お金落としちゃいました?」
「い、いえ! 滅相もございません!! 我らのような下賎な者が、王の御前で立っているなど、恐れ多いことでございます!!」
「どうか、我々にもその神のスープを、おこぼれで構いませんのでお恵みください!!」
各国のお偉いさんたちが、涙を流しながら500円玉を両手で掲げている。
「……お兄ちゃん。なんかもう、色々通り越してカオスだよ」
「……俺もそう思う」
未緒の引きつったツッコミに、俺は深く頷いた。
こうして、エリート学園のヒエラルキーは、一杯のミネストローネ(と俺の掃除術)によって、完全に、そして物理的に崩壊したのであった。




