EP 2
政治家の『腹黒さ(本音)』を解体してみた
「……では、このワンコイン(500円)をもって、九条独立国と日本国の『第一回・町内会協定』が結ばれたということで」
総理大臣のタナカが、震える手で500円玉をハンカチに包み、懐にしまった。
まるで聖遺物でも扱うかのような手つきだ。
「ええ、よろしくお願いします。ゴミの分別はしっかりやりますんで」
俺は麦茶を啜りながら頷いた。
これで国からの干渉は防げるだろう。俺の平穏な地下生活は守られた。
「Wait! ミスター・タナカ。抜け駆けは許さんぞ」
ジョージ大統領が、身を乗り出してきた。
その顔には、先ほどまでの驚愕は消え、百戦錬磨の政治家としての『作り笑い』が張り付いていた。
「九条氏の持つこの地下資源、そして未知の清掃技術……。これは人類全体の財産だ。日米安全保障条約に基づき、我が合衆国が『共同管理』するのが筋というものだろう?」
「お言葉ですがジョージ大統領。ここは日本の領土(地下)です。まずは我が国が専属契約を結び、その後にアメリカへ技術供与を……」
二人のトップが、柔和な笑顔で握手を交わす。
一見すると、日米の固い絆を感じさせる美しい光景だ。
だが。
俺の目には、全く違うものが見えていた。
(……うわ、なんだあれ)
俺は思わず顔をしかめた。
笑顔で言葉を交わす二人の口から、目に見えない**『黒いヘドロのようなモヤ』**が絶え間なく吐き出されていたのだ。
『日本を出し抜いて技術を独占してやる。この男は手なずけられるはずだ』という大統領の傲慢なモヤ。
『アメリカには絶対に主導権を渡さん。九条を囲い込んで、我が国の覇権を……』という総理の陰湿なモヤ。
それは、二人の腹の底に渦巻く『利権欲』『嘘』『建前』といった、政治家特有の「精神的な汚れ(ノイズ)」だった。
その真っ黒なモヤが、タバコの煙のようにリビングに充満していく。
せっかく磨き上げたオリハルコンの壁が、ドロドロの建前で曇っていく。
「ふふふ、やはり日米の絆は永遠ですね」
「ええ、世界の平和(我が国の利益)のために」
モヤアァァァ……。
俺の中で、何かが限界を迎えた。
ドンッ!
俺は麦茶のコップを、わざと音を立ててテーブルに置いた。
ビクッ!と二人の肩が跳ねる。
「……あの、すいません」
俺は低い声で言った。
「お客さん。うち、新築なんで……部屋の中で『汚いもの』吐き出すの、やめてもらえます?」
「え……?」
「汚いもの、とは……?」
ポカンとする二人。
当たり前だ。彼らには自分たちの吐き出している『建前という名のヘドロ』が見えていないのだから。
「もういいです。俺が換気しますから」
俺はため息をつき、二人の間に向けて右手をかざした。
対象:言語コミュニケーションにおける『虚飾』『欺瞞』『隠蔽』の概念構造。
処理:フィルターを通し、不純物(嘘)のみを強制分離・消臭。
「――『概念解体(建前フィルター)』」
シュゴォォォォォォッ!!
リビングの空気が、巨大な換気扇に吸い込まれるように一気に澄み渡った。
壁にこびりついていた黒いモヤが一瞬で消滅し、新築の清浄な空気が戻る。
「……っ!?」
その瞬間、ジョージ大統領と田中総理の表情が、劇的に変化した。
張り付いていた作り笑いが剥がれ落ち、顔が真っ赤になり、目が血走る。
まるで、被っていた分厚い仮面を無理やり引っぺがされたかのように。
「……あー、クソッ! 息苦しいんだよさっきから!」
突然、ジョージ大統領がネクタイを引きちぎり、ソファにふんぞり返った。
「なんだよ『共同管理』って! 本音は全部アメリカのモノにしたいに決まってんだろ! お前ら日本人はいつもヘラヘラ笑ってて気味が悪いんだよ! 腹の中じゃ俺たちのこと金づるとしか思ってねえくせに!」
「はぁ!? なんだとこのヤンキー野郎!」
田中総理も立ち上がり、大統領に指を突きつけた。
「こっちだって好きでヘラヘラしてんじゃねえよ! お前らがすぐ関税だの基地問題だの圧力かけてくるから、媚び売ってやってんだろ! 本当はアメリカのハンバーガーより、おにぎりの方が百倍美味いんだよバカヤロー!」
「ああっ!? ハンバーガー舐めんな! 俺だって本当は日本のSushiとアニメが大好きなんだよ! 毎晩シークレットサービス隠れて魔法少女のアニメ見て泣いてんだよ!」
「俺だって……俺だって、総理大臣なんて辞めて、田舎で盆栽いじりてえんだよぉぉぉっ!!」
地下帝国に、世界トップ二人の絶叫(本音)がこだました。
彼らは嘘や建前を完全に失い、子供のように純粋な本音だけで殴り合い(口論)を始めたのだ。
「Boss……」
奥で見ていたジャックが、青ざめた顔で呟いた。
「アンタ……人間の『心』まで洗っちまったのか……? 政治家から『建前』を奪うなんて、それ、ただのオッサンじゃねえか……」
「いや、部屋が臭かったからファブリーズしただけだけど」
俺は不思議そうに首を傾げた。
それにしても、魔法少女アニメで泣く大統領ってどうなんだ。
建前という鎧を失ったトップ二人は、互いの胸ぐらを掴み合いながら、涙と鼻水で顔をグチャグチャにしていた。
「お前……魔法少女、何期が好きなんだよ……ヒック」
「決まってんだろ……無印の最終回だよ……!」
「……俺もだよ、バカヤローッ!!」
ガシィィィィッ!!
そしてなぜか、二人は熱い抱擁を交わし始めた。
建前を取り払って本音をぶつけ合った結果、奇妙な『真の友情』が芽生えてしまったらしい。
「よし、空気が綺麗になったな」
俺は満足げに頷き、冷たくなった麦茶を飲み干した。
こうして、泥沼化するはずだった国際利権争いは、俺の消臭一発によって、魔法少女アニメを語り合う平和なオッサンたちの親睦会へと変貌を遂げたのである。




