EP 9
ダンジョンを『地下100階建て』に増築(解体)しました
「よし、資材はいっぱいあるな。それじゃ、サクッと間取りを作っていくか」
俺は、さっきまで『古代ゴーレム』だった砂利の山を前に、腕まくりをした。
この地下空間は無駄にだだっ広いが、居住用としては仕切りがない。いわゆるワンルーム(推定ドーム球場3個分)だ。
これじゃプライバシーがないし、何より暖房効率が悪い。
「Boss……。一応言っておくが、その砂利、ただの石じゃねえぞ。神話の金属『オリハルコン』と『ヒヒイロカネ』が混ざってる。城が建つどころか、国が買えるレベルの超高級素材だ」
ジャックが、足元のキラキラ光る砂利を震える手で掬い上げながら言った。
「ヒヒイロカネ? ああ、なんか赤っぽい石だな。レンガ代わりにちょうどいい」
「……Oh、My God。価値観の崩壊だ」
ジャックは頭を抱え、カレンは「さすが師匠! 素材の真価を見抜く慧眼!」と的外れな拍手をしている。
俺はデッキブラシを指揮棒のように構え、広大な地下空間の「壁」と「床」を睨んだ。
イメージするのは、快適なマンション。
いや、どうせタダの土地だ。もっとデカくてもいい。
俺は脳内で、このダンジョン全体の構造をスキャンした。
地下深くへと続く、何層にも重なった巨大な迷宮構造。
「……よし、床をぶち抜いて、下まで繋げるか」
俺は、足元の分厚い岩盤(迷宮の床)に向けて、ブラシを突き立てた。
「――『構造解体・再構築』!」
ドゴォォォォォォンッ!!
凄まじい轟音が地下空間に響き渡った。
破壊ではない。再編だ。
何万トンという岩盤が、まるでテトリスのブロックのように綺麗に分離し、空中で形を変えていく。
同時に、集めておいた「オリハルコンの砂利」が溶け出し、新たな柱や壁として組み上がっていく。
「な、なんだ!? 地面が沈んで……いや、空間が広がっている!?」
ジャックが悲鳴を上げた。
俺たちが立っていた床の中央が、巨大な吹き抜けとなって遥か下層まで貫通したのだ。
その吹き抜けに沿って、螺旋状の階段と、各階層への広大なフロアが形成されていく。
1層、10層、50層……。
迷宮の「壁」や「罠」として存在していた無駄な構造物を全て『解体』し、快適な居住空間(フローリング張り)へと再構築していく。
照明の代わりに、倒したモンスターから取れた「特級魔石」を天井に埋め込むと、シャンデリアのように優しく発光した。
キュイイイイン……!
数分後。
光と轟音が収まった時、そこには――。
「……できた」
俺は額の汗を拭った。
見下ろせば、地底の底まで続く、煌びやかな『地下100階建ての超高層(深層)マンション』が完成していた。
各階には、オリハルコン製の頑丈な防音ドアが完備されている。
「……Crazy……。たった数分で、神の迷宮を、巨大なビルディングに変えちまった……」
ジャックが膝から崩れ落ちた。
カレンも「ああっ、師匠の創られたこの神殿……ここに住めるなんて、私は果報者です!」と床に頬ずりしている。
「よし、間取りの割り当てだ。ジャック、お前は騒がしいから地下99階な」
「Yeah! サンキューBoss! 一番広いペントハウス(最下層)だな!」
「カレンは地下98階だ。勝手に上の階(俺の部屋)に上がってくるなよ」
「そんな! 毎朝のお世話はどうすれば!」
文句を言い合う二人を尻目に、俺は満足げにうなずいた。
これで、六畳一間の酸欠アパートから解放される。
「お兄ちゃーん? 下からすごい音したけど、何やって……えっ?」
そこへ、上のアパート(押し入れ)から、ハシゴを伝って未緒が降りてきた。
彼女は、眼下に広がる「地下100階建ての超豪華マンション(シャンデリア付き)」を見て、完全にフリーズした。
「……お兄ちゃん。これ、何?」
「俺たちの新居だ。広いだろ? 未緒の部屋は地下1階な。防音完璧だから、推しのライブ映像も大音量で流せるぞ」
俺はドヤ顔で言った。
だが、未緒の顔は引きつっていた。
「そういう問題じゃない!!」
未緒が俺の胸ぐらを掴んで揺さぶった。
「これ、建築基準法とか大丈夫なの!? 勝手に地下100階も掘って、地盤沈下とかしないの!? てか、これ絶対、固定資産税ヤバいよ!」
「あ……」
俺は盲点を突かれて固まった。
固定資産税。
こんなオリハルコンだらけの100LDK(地下)、もし役所にバレたら、一体いくら請求されるんだ?
「だ、大丈夫だろ。地下室は容積率の緩和措置があるって、ネットの受け売りで聞いたことあるし……。それに、外からは見えない隠し部屋だし」
「誤魔化せる規模じゃないでしょバカ! こんなの、人工衛星とか魔力探知機から見たら一発でバレるわよ!」
未緒の言う通りだった。
俺はただ「部屋を広くしたかっただけ」なのだが、特級ダンジョンを丸ごと「俺色」に書き換えたことによる魔力波紋は、すでに地上へと漏れ出していたのである。
◇
同時刻。
ワシントンD.C.、ホワイトハウス地下の戦略司令室。
そして、東京の首相官邸。
世界中の「魔力観測所」で、異常を知らせるレッドアラートが鳴り響いていた。
『大統領! 日本の東京にて、史上最大クラスの魔力変動を観測!』
『特級ダンジョンが……消滅しました! いえ、構造そのものが書き換えられ、全く未知の「何か」に変貌しています!』
『震源地は……あの九条湊の居住アパートです!』
報告を受けた各国首脳たちは、戦慄と共に立ち上がった。
「また、あの清掃員(九条)か……!」
「彼はいったい、自分のアパートの地下で何を造り出したというのだ……大量破壊兵器の工場か!? それとも独立国家か!?」
世界中がパニックに陥る中。
張本人である俺は、地下1階のリビング(元ボス部屋)で、快適になった特大ソファに寝転がり、鼻歌交じりにテレビを見ていた。
「いやぁ、やっぱ広い部屋は最高だなー」
世界を巻き込む大騒動が、アパートの玄関先まで迫っているとも知らずに。




