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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 8

押し入れの奥から『カビ(魔力)』の臭いがする

「よし、まずは中の荷物を全部出すぞ。ジャック、そこの段ボール頼む」

「Aye, Boss! 任せてくれ!」

 大家さんに怒られた直後。俺たちは六畳一間の拡張計画――もとい、押し入れの掃除を開始した。

 ジャックが軽々と、俺の腰の高さまである段ボール箱を3つ同時に持ち上げる。さすがSSSランクの筋力だ。引越し業者として雇えば大儲けできそうである。

「お兄ちゃん、これ何? 『漆黒の黙示録ノート』って書いてあるけど」

「ああっ!? それは触るな未緒! 俺の高校時代のパンドラの箱だ!」

 未緒が引っ張り出してきた黒歴史ノートを慌てて奪い取る。

 危ない危ない。ダンジョンの魔物よりよっぽど凶悪なトラウマが封印されているのだ。

 カレンが不思議そうに首を傾げているが、説明する気はない。

「ふぅ……。これで押し入れは空っぽだな」

 俺は空になった押し入れの床板をコンコンと叩いた。

 やはり、妙だ。

 ベニヤ板の下から、普通じゃない冷気と、ツンと鼻を突くような臭いが漏れ出している。

「……随分と湿気てるな。カビ臭い」

「Boss。これ、ただのカビじゃねえぞ」

 ジャックがサングラスの奥の目を細め、押し入れの奥を睨みつけた。

 カレンも、いつになく真剣な表情で杖を握りしめている。

「ええ。これは……凄まじい濃度の『魔力マナ』の腐敗臭ですわ。それに、この微かな振動……。間違いありません」

 カレンがごくりと息を呑んだ。

「この床下には、かつて国一つを滅ぼしたと言われる『特級指定・超古代ダンジョン』のゲートが眠っています……!」

「超古代ダンジョン?」

 俺は聞き返した。

 なんでも、東京の地下には未発見のダンジョンが無数にあり、特にヤバい奴は政府がコンクリートで蓋をして見なかったことにしているらしい。

 どうやら、うちのアパートはその「蓋」の上に建っていたようだ。大家さん、家賃安かったの絶対そのせいだろ。

「Dangerだぜ、Boss。こんな濃密な魔力、俺の故郷アメリカのグランドキャニオン・ダンジョンクラスだ。うかつに開けたら、東京中が魔物に溢れかえるぞ!」

 ジャックが雷のオーラを纏いながら警告する。

 未緒も「ええっ、そんなヤバいのが床下に!?」と怯えて俺の背中に隠れた。

「……ヤバいのか?」

「ええ! 絶対に開けてはいけま――」

 カレンが制止しようとした、その時。

 バリッ。

「――よし、開いたぞ」

 俺はデッキブラシの柄をバールのように使い、押し入れの床板(ベニヤ板)を無造作にひっぺがした。

「「「開けたぁぁぁぁっ!?」」」

 三人の絶叫が六畳一間に響き渡る。

 床板の下には、幾重にも張り巡らされた禍々しい血文字の「封印結界」と、その中央で渦巻く漆黒のポータル(ゲート)があった。

「あー、やっぱり。換気が悪いから、カビ(魔力)がびっしり生えてるじゃないか」

 俺は鼻をつまんだ。

 封印結界? 知るか。俺にとってはただの「カビ汚れ」だ。

 こんなものが床下にあったら、ダニが湧いてしょうがない。

「とりあえず、この邪魔なシール(結界)剥がすか」

「や、やめろBoss! それは古代の賢者たちが命と引き換えに張った絶対封印――!」

 ジャックの静止も聞かず、俺はデッキブラシで血文字の結界をゴシゴシと擦った。

「――『解体クリーニング』」

 シュワァァァァッ……。

 何百年も東京の地下を守り続けてきた絶対封印が、マイペットをかけられた油汚れのように、一瞬で溶けて消滅した。

 あまりのあっけなさに、ジャックとカレンが口から魂を出しそうになっている。

「よし、綺麗になった。じゃ、ちょっと下の様子見てくるわ」

 俺は漆黒のポータル(通気口)を覗き込んだ。

 下へと続く、果てしなく広い石造りの空間が見える。

「……お兄ちゃん、行くの? やめといた方が……」

「大丈夫だ。ちょっと床下収納のサイズ測ってくるだけだから。……カレン、ジャック、お前らも来い。荷物持ちだ」

「「は、はいぃぃっ……!」」

 世界最高峰のSランクとSSSランクが、まるでドナドナされる子牛のように、俺の背中について震えながらゲートをくぐった。

 ◇

 ヒュゥゥゥゥ……。

 ポータルを抜けると、そこはアパートの床下とは到底思えない、巨大な地下神殿のような空間だった。

 天井は数十メートルの高さがあり、太い石柱が林立している。

 そして、その空間を埋め尽くすように、無数の「目」が暗闇の中で光っていた。

『グルルルル……』

『侵入者……排除スルーー』

 岩石でできた巨大なゴーレム。

 炎を纏った魔犬。

 数百年ぶりに封印を解かれ、腹を空かせた古代のモンスターたちが、一斉にこちらへ殺気を向けてくる。

「Oh、Shit……。やっぱり古代のバケモノの巣窟じゃねえか……!」

「マズいですわ師匠! この数と質……私たち二人でも、全滅させるには三日はかかります!」

 ジャックとカレンが武器を構え、背中合わせで臨戦態勢をとる。

 だが、俺は彼らの間をすり抜け、前に出た。

「……広いな」

 俺は純粋に感動していた。

「この広さ、軽く100LDKはあるぞ。いや、階層が下にも続いてるなら、それ以上か」

 家賃6万円のボロアパートの地下に、こんな優良タワマン(地下だけど)物件が眠っていたとは。

 ここにカレンとジャックの部屋を作れば、六畳一間の酸欠からはおさらばだ。未緒の専用防音ルーム(推し活部屋)だって作れる。

 ただ、一つだけ問題がある。

「前の住人モンスターの残した『粗大ゴミ』が多すぎるな」

 俺はデッキブラシを構えた。

 唸り声を上げて迫り来る古代ゴーレムたち。

 彼らは強大な魔力を帯びているが、俺から見れば「石ころ」と「ホコリ」の集合体にすぎない。

「引っ越しの基本は、まず掃き掃除からだ」

 俺は、広大な地下空間に向けて、大きくブラシを薙ぎ払った。

「邪魔だ。――『空間解体フロア・スイープ』」

 カッ!!!

 俺のブラシから放たれた衝撃波が、床を這うようにして放射状に広がった。

 ズザザザザザァァァァッ!!

 凄まじい音が響く。

 衝撃波に触れた瞬間、何トンもある古代ゴーレムたちが、まるでチリトリに集められるゴミのように、一瞬で「砂利」へと分解された。

 炎の魔犬は「ただの火種」となり、壁の松明へと吸収されていく。

 数秒後。

 100体以上いた古代モンスターたちは、壁際に綺麗にまとめられた「砂利の山(最高級の建築資材)」へと変わっていた。

「……え?」

 カレンが杖を取り落とした。

「……Crazy……」

 ジャックがサングラスを割った。

「よし、掃き掃除完了。綺麗なもんだろ?」

 俺は満足げに頷き、広大な空間を見渡した。

 これで心置きなくリフォーム(増築)ができる。

「さて、間取りはどうするか……。あ、お前ら、自分の部屋の広さ希望ある?」

「「……(白目)」」

 世界最強の二人は、完全に思考停止していた。

 こうして、超古代ダンジョンは、あっという間に九条家の「私有地(新居)」として接収されたのである。

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