表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/64

第三章 東京湾・幽霊船浄化

Sランク居候、洗濯機と戦い敗北する

 ドガァァァンッ!!

 日曜日の朝。

 俺、九条湊の安眠は、核爆発のような轟音によって『解体』された。

「……敵襲か!?」

 俺はガバッと跳ね起きた。

 アパートが揺れている。壁がミシミシと悲鳴を上げている。

 まさか、またスタンピード? それとも政府の強行突入?

「お兄ちゃん! 台所! 台所がやばい!」

 隣の部屋から未緒が飛び込んできた。パジャマ姿で顔面蒼白だ。

「台所? ガス爆発でもしたのか!?」

「違う! カレンさんが……カレンさんが朝ごはん作ろうとして……!」

 嫌な予感しかしない。

 俺はリビングへと走った。

 そこには、地獄が広がっていた。

「くっ……! なんて硬い皮なの……! これでは師匠の教え(極意)に届かない……!」

 キッチンの中心で、Sランク探索者『氷の女帝』カレン・オルステッドが、鬼の形相で包丁を構えていた。

 彼女が対峙しているのは、ドラゴンでも魔王でもない。

 スーパーで特売だった**「カボチャ」**だ。

「はぁぁぁっ! 氷剣絶刀・雪月花!」

 カレンが気合と共に包丁(魔力コーティング済み)を振り下ろす。

 ズダンッ!!

 カボチャが見事に両断された。

 ……その下のまな板も。

 ……そして、ステンレスの流し台も。

「……あ」

 真っ二つになった流し台から、プシューッ!と水道管の水が噴き出す。

 アパートの台所が、一瞬で噴水広場になった。

「カレンさぁぁぁぁぁん!!」

 俺は絶叫しながら、元栓を閉めに走った。

 ◇

 水浸しになったリビングを雑巾(解体スキルで水分除去)で掃除した後。

 俺は正座したカレンを見下ろしていた。

 彼女は、濡れたYシャツが肌に張り付くのも気にせず、真剣な眼差しで俺を見上げている。

「……で? 何の真似ですか、これは」

「修行です、師匠!」

 カレンが即答した。

「師匠の『解体』は、対象の構造を理解し、最小限の力で分離させる神業……。それを習得するには、日常の『料理』こそが最大の修行になると考えました!」

「……その結果が、流し台の切断か?」

「はい! カボチャの硬度に、私の剣気が勝ってしまいました! まだまだ未熟です!」

 違う、そうじゃない。

 力の加減ってものを覚えろ。

「はぁ……。弁償代、給料から引いとくからな」

「はい! Sランク報酬の全額を差し出します!」

「(……流し台が純金で買えちゃうな)」

 俺は頭を抱えた。

 数日前、彼女が「弟子にしてくれ」と押しかけてきて以来、我が家はこの調子だ。

 Sランクの非常識と、お嬢様育ちの天然が合わさり、最強に見える(物理的に)。

「もういい、料理は禁止だ。俺がやる」

「そんな! では、洗濯をさせてください!」

 カレンが立ち上がった。

「洗濯なら、剣を使わないので安全です! 任せてください、汚れた服を『浄化』すればいいのですよね!」

 嫌な予感がした。

 だが、止める間もなく、カレンは洗面所へと消えていった。

 数分後。

 ガタガタガタガタガタッ!!

 洗面所から、再び異音が響いた。

 洗濯機が脱水モードに入り、激しく振動している音だ。

 うちの洗濯機は古いから、ちょっと音がうるさいのだ。

「師匠! 大変です!」

 カレンの悲鳴。

 俺と未緒が駆けつけると、カレンが洗濯機に向かって杖を構えていた。

「この魔導具(洗濯機)、暴走しています! 内部で凄まじい回転エネルギーが発生しています! このままでは爆発するかも!」

「それ脱水! ただの遠心力!」

「ええい、鎮まれ! 絶対零度アブソリュート・ゼロ!」

 カキィィィンッ!

 俺のツッコミは間に合わなかった。

 カレンの杖から放たれた極大冷気が、洗濯機を丸ごと包み込んだ。

 一瞬で、回転していた洗濯槽も、中の水も、俺のパンツも、全てが氷のオブジェへと変わった。

 シーン……と静まり返る洗面所。

「ふぅ……。なんとか制圧しました」

 カレンが額の汗を拭う。

 目の前には、完全に沈黙した(物理的に機能停止した)洗濯機の氷像。

「…………」

 俺は無言で、カレンの肩に手を置いた。

「……出て行ってくれないか?」

「嫌です! なぜですか師匠!? 暴走を止めたのに!」

「止めたんじゃなくて殺したんだよ家電を!」

 未緒が横で「あーあ、買い替えだねこれ」と冷めた目で呟いている。

 これが、世界最強のSランク探索者との同居生活のリアルだ。

 俺の平穏は、今日も粉々に『解体』されていく。

 ◇

 そんなドタバタな朝食(コンビニ弁当)を終えた頃。

 テレビのニュース速報が、新たな「非日常」を告げた。

『――緊急ニュースです。本日未明、東京湾沖に巨大な影が出現しました』

 画面に映し出されたのは、霧のかかった東京湾。

 その海上に、ボロボロに朽ち果てた、無数の古びた帆船が浮かんでいる。

『政府はこれを特級指定ダンジョン「腐敗の幽霊船団ゴースト・フリート」と認定。海上自衛隊が迎撃に向かいましたが、船から発生する「腐敗ガス」により接近できず、被害が拡大しています』

 映像の中で、護衛艦が黒い霧に巻かれ、船体が錆びついていく様子が映る。

「あら、アンデッド系のダンジョンですね」

 カレンがトーストをかじりながら(今度は焦がした)、興味なさそうに言った。

「物理無効の霊体ゴーストと、腐食属性のガス……。相性が悪いわね。普通の剣や銃弾じゃ、傷一つつかないわ」

「へぇ、大変だなー」

 俺は他人事のようにコーヒーを啜った。

 俺はただの清掃業者(自称)だ。海の平和は、偉い人たちに任せておけばいい。

 ピンポーン。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

 今度はノックではない。

 ドアスコープを覗くと、そこには脂汗をかいた背広の男たち――政府の高官らしき集団が、深々と頭を下げていた。

「……九条湊先生! どうか、国をお救いください!」

 ドア越しに聞こえる悲痛な叫び。

「居留守使っていいか?」

「ダメに決まってるでしょバカ兄貴」

 未緒に背中を蹴られ、俺は渋々ドアを開けた。

 どうやら、洗濯機を壊された程度では済まない、もっと大きな「汚れ仕事」が舞い込んできたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ