EP 9
ダンジョンコアを『無限カレー製造機』にリフォームしました
「ごちそうさまでした……」
未緒が弁当箱を空にした頃、校庭の騒ぎは収束に向かっていた。
スライムは高級化粧水になり、巨人は資源ゴミになった。
残るは、校庭の中央で不気味に脈動する紫色の結晶体――『変異ダンジョンコア』だけだ。
「さてと。最後の『汚れの元』を片付けるか」
湊は空になった弁当箱を受け取り、デッキブラシを担ぎ直した。
「ちょ、ちょっと待って!」
ボロボロのカレンが、瓦礫の山を越えて走ってきた。
「あれはダンジョンコアよ! うかつに触ると魔力が暴走して、この辺一帯が吹き飛ぶわ!」
「え? 爆発するの? 面倒くさいな」
湊は眉をひそめた。
爆発されたら、未緒の学校がなくなる。それは困る。
かといって、このまま放置すればまたスライムが湧いてくる。
「……要は、中身の『設定』が悪いんだろ?」
湊はコアの前にしゃがみ込んだ。
紫色の光が明滅している。
湊の目には、その構造が透けて見えた。
『機能:大気中のマナを吸収し、モンスター(害悪)として実体化して排出する』
なるほど。
まるで、汚れた水を吸って泥水を吐き出すポンプだ。
なら、フィルターを変えればいい。
「お兄ちゃん、何する気?」
未緒が不安そうに窓から顔を出す。
「いや、ちょっとリフォームをな。未緒、学校の給食で何が好きだ?」
「え? 急に何? ……カレーかな。金曜日のカレーは美味しいし」
「よし、カレーだな」
湊は頷いた。
マナは万能のエネルギーだ。
スライムになれるなら、カレーにだってなれるはずだ(暴論)。
「よし、ちょっといじるぞ」
湊はコアに手をかざした。
カレンが「ひぃっ!?」と悲鳴を上げて伏せる。
「――『解体・再構築』」
キュイイイイン……!
コアが眩い光を放った。
湊は脳内で、コアの設計図を書き換えていく。
『モンスター生成回路』を切断し、『食材生成回路』に繋ぎ直す。
出力されるデータは『スライム』ではなく、『最高級ビーフカレー(甘口)』。
ガション、ガション、ウィーン……。
紫色の結晶体が、ドロドロに溶け、そして形を変えていく。
禍々しい棘がなくなり、滑らかな金属光沢を帯び、そして――
ポンッ。
軽い音と共に、再構築が完了した。
そこにあったのは、もはやダンジョンコアではない。
巨大な寸胴鍋のようなフォルムに、蛇口がついた、ピカピカの**「謎の給水機」**だった。
「……できた」
湊が蛇口をひねる。
トクトクトク……。
蛇口から流れ出たのは、湯気を立てる黄金色の液体。
スパイシーで、それでいて食欲をそそる芳醇な香り。
「カレーだ」
湊は指で少し舐めた。
マナをたっぷり含んだ、滋養強壮効果抜群の特製カレーだ。
一口食べれば元気百倍。スライムの酸で溶けた服も治るかもしれない(嘘)。
「……は?」
カレンが顔を上げた。
爆発音の代わりに、カレーの匂いが漂っている。
「はい、清掃完了っと」
湊は満足げに手をパンパンと払った。
「これ、学校に寄付しますね。蛇口ひねれば無限に出るんで、給食費の足しにしてください」
その時、校舎の裏から、ハゲ頭の中年男性が転がり出てきた。
この学校の校長だ。
「お、おおお……! 我が校が……助かった……!」
校長は涙と鼻水を垂れ流しながら、湊の足元にすがりついた。
「ありがとうございます! あなたは神ですか!? 仏ですか!?」
「いえ、ただの清掃業者です」
湊は即答した。
そして、ママチャリに跨る。
「じゃ、俺は次の現場があるんで。……あ、そのカレー、煮込まなくても美味しいですよ」
キコキコキコ……。
湊は風のように去っていった。
残されたのは、ピカピカになった校舎と、大量の資源ゴミと、そして校庭のど真ん中に鎮座する『無限カレーサーバー』だけ。
『カレーwwwwww』
『ダンジョンコアって食べ物だったのか』
『リフォームの匠』
『この学校、倍率爆上がりするぞ』
『給食費無料確定演出』
『清掃業者(創造神)』
『カレン様、カレーの匂いにつられて起きてきたw』
後日。
この学校のカレーは「食べると偏差値が上がる」「彼女ができる」などの都市伝説となり、全国から入学希望者が殺到することになるのだが、それはまた別の話。




