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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 6

「すいません、清掃業者の九条です(大嘘)」

 校舎の入り口を塞ぐように、黒い粘液の壁――変異スライムの群れが波打っている。

 その絶望的な光景を前に、カレンは震える声で問いかけた。

「あ、あなた……それで戦うつもり?」

 彼女の視線の先には、エプロン姿の男――九条湊が握りしめる武器があった。

 それは聖剣でも、魔杖でもない。

 そこらへんの用務員室から適当に持ってきたと思われる、使い古されたデッキブラシだった。

「戦う? いやいや」

 湊は心底不思議そうな顔をした。

「掃除だよ、掃除。見てみろよこれ」

 彼はスライムの群れを指差した。

「未緒の学校、衛生管理どうなってんだ? こんなにカビと汚れ(ヘドロ)が溜まってるなんて。これじゃ給食がマズくなる」

「……カビ?」

 カレンは耳を疑った。

 あれは『変異種ミュータント』だ。物理攻撃を無効化し、S級魔法すら吸収する災害指定モンスターだ。

 それを、カビ?

「ま、待って! あれは物理攻撃が効かないのよ! そのブラシじゃ……!」

 カレンの制止も聞かず、湊はスタスタとスライムの群れに歩み寄った。

 スライムたちが「餌が来た」とばかりに触手を伸ばす。

「うわ、汚ねっ。撥ねるなよ」

 湊は顔をしかめ、デッキブラシを構えた。

 スライムが襲いかかる――その寸前。

「――そこ、邪魔」

 シュッ。

 ただの床掃除の動きだった。

 湊がデッキブラシで地面を掃いた、その瞬間。

「――『解体スクラブ』」

 ジュワァッ!!

 ブラシの毛先が触れた空間ごときめ細かく分解された。

 襲いかかってきたスライムの触手が、一瞬で「ただの水」と「キラキラした粒子」に分離して霧散したのだ。

「ギ……?」

 スライムの本体が、困惑したように震える。

 物理攻撃ならすり抜けるはずだ。

 だが、これは攻撃ではない。

 **「床」と「汚れ」を分子レベルで選別し、汚れだけを強制的に剥離させる「清掃」**だ。

「よし、落ちるな。結構頑固だけど」

 湊は満足げに頷くと、リズム良くブラシを動かし始めた。

 シュッ、シュッ、サッサッ。

 軽快なリズムと共に、次々とスライムが消滅していく。

 ある者は純水に変わり、ある者は高級美容液ローションの原材料となって地面に水溜まりを作る。

「えっ……ええっ!?」

 カレンは腰を抜かしたまま、その光景を呆然と見上げていた。

 私の氷魔法でも倒せなかったのに。

 私のミスリル剣でも斬れなかったのに。

 なんで、あんなボロいデッキブラシで!?

「あ、そこの隅っこも汚れてるな」

 湊は鼻歌交じりに、校舎の壁に張り付いていた巨大スライムをブラシでゴシゴシと擦った。

 断末魔も上げずに、スライムは綺麗な水となって流れ落ちた。

 後には、ピカピカに磨き上げられた校舎の壁だけが残る。

「……新品みたいになった」

 カレンが呟く。

 その様子は、校舎の上から報道部のカメラによって全世界へ配信されていた。

『ファッ!?』

『スライム消えたぞ!?』

『攻撃魔法? いや、ただの掃除だろこれ』

『デッキブラシ最強説』

『あの黒いスライム、物理無効だぞ? なんでブラシで擦って死ぬんだよwww』

『主:「汚れなんで」 スライム:「解せぬ」』

『てか、あの美容液みたいなドロップ品、めっちゃ高そう』

 視聴者数:50万人突破。

 湊は校門付近のスライムをあらかた片付けると、額の汗を拭った。

「ふぅ。とりあえず入り口は確保したか」

 彼はカレンの方を振り返った。

 カレンはまだ、地面に座り込んで震えている。服はボロボロで、肌が露出している状態だ。

「あ、お姉さん。大丈夫ですか?」

 湊は自分の着ていたパーカーを脱ぎ、カレンにバサッとかけてやった。

 無神経なようでいて、妙に優しい手つき。

「あ、ありがとう……。あなたは、一体……?」

 カレンが上目遣いで尋ねる。

 その瞳には、昨日の敵意など微塵もない。あるのは、圧倒的な強者への畏怖と、かすかな熱情。

(やべっ、身バレしたらまた面倒なことになる)

 湊は瞬時に思考を巡らせた。

 昨日の今日だ。ここで「九条湊です」と名乗れば、また自衛隊に囲まれる。

 今はただ、妹に弁当を届けたいだけなのに。

 誤魔化そう。

 俺はここに、仕事で来たことにしよう。

「あー、俺ですか? 俺は……そう」

 湊はデッキブラシを担ぎ直し、爽やかな営業スマイルを作った。

「たまたま通りがかった、『清掃業者』の九条です。学校から依頼を受けまして」

「……清掃業者?」

「ええ。カビ取り専門の。……じゃ、まだ校内に汚れが残ってるみたいなんで、失礼します!」

 湊はそれだけ言い残すと、ママチャリを置き去りにして、デッキブラシ片手に校舎の中へと走っていった。

「待って! 名前は!? 連絡先は!?」

 カレンの声は届かない。

 彼女は湊のパーカーを抱きしめ、残り香(唐揚げと柔軟剤の匂い)に顔を埋めた。

「清掃業者……。素敵……」

 完全に落ちていた。

 一方、コメント欄はお祭り騒ぎだった。

『清掃業者wwwww』

『そんなわけあるか!』

『嘘つけ昨日の解体師だろwww』

『【速報】世界最強の職業:清掃員』

『カレン様、チョロすぎない?』

『パーカーの匂い嗅いでるぞ、あいつ』

 こうして、「謎の清掃員」という新たな都市伝説が爆誕した。

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