EP 3
能力測定器を『解体』したら、ギルドが停電しました
ギルドの地下にある魔力測定室。
ここは、最新鋭の魔導機器が並ぶ、探索者たちの「格付けチェック」会場だ。
「さあ、入りなさいよ。偽物さん」
カレンが腕組みをして、俺を促す。
部屋の中央には、巨大な水晶玉が設置されていた。その周囲を複雑な魔術回路と冷却装置が取り囲んでいる。
『ギガント・クリスタル』。国家予算を投じて開発された、S級魔導士の全力魔法すら測定可能という化け物マシンだ。
「えっと、これに手を置けばいいんですか?」
「ええ。少しでも魔力を流せば、数値が表示されるわ。……まあ、Fランクのあなたじゃ、反応すらしないでしょうけど」
カレンが鼻で笑う。
担当の試験官(中年男性)も、面倒くさそうにあくびをしている。
「はいはい、ちゃっちゃと終わらせてねー。後ろつかえてるから」
完全にナメられている。
まあいい。さっさと終わらせて帰ろう。
俺は水晶玉の前に立ち、右手をかざした。
「……よし。いけ、俺の魔力」
んーっ、と念じてみる。
……シーン。
水晶玉は微動だにしない。数値表示も「0」のままだ。
「プッ……あははは! やっぱりね!」
カレンが爆笑した。
「魔力ゼロ! 一般人以下じゃない! これでよく『解体師』なんて名乗れたものね!」
「いや、おかしいな……」
俺は首を傾げた。
昨日のドラゴン解体で、魔力の使い方はなんとなく掴んだはずだ。体の中には、確かに熱いものが渦巻いている。
なのに、なぜ外に出ない?
(……まさか)
俺は気づいた。
俺の『解体』スキルは、対象を「分解」することに特化している。
つまり、「魔力を放出する」こと自体が苦手なのだ。
「おい試験官、もういいでしょ? こいつは不合格よ」
「ですねー。はい、次の方ー」
試験官が手元のスイッチを押そうとした、その時。
「待ってください! もう一回! もう一回だけお願いします!」
俺は必死に食い下がった。
ここでFランクのままじゃ、高難易度の依頼が受けられない。稼ぎが増えない。未緒の推し活資金が足りなくなる!
「チッ、往生際の悪い……。いいだろう、特別にあと一回だけだ」
「ただし! 次は本気でやれよ? 手加減したら即終了だ」
試験官がイライラしながら、操作盤のレバーを最大まで引き上げた。
『測定モード:フルパワー』のランプが点灯する。
「本気、ですね……わかりました」
俺は深呼吸した。
魔力を出すのが苦手なら、別の方法でアプローチするしかない。
俺の得意分野で。
俺は水晶玉をじっと見つめた。
意識を集中させる。
すると、水晶の内部に、複雑な魔術的な「構造」が見えてきた。
魔力を感知するセンサー、数値を計算する術式、そして――
(……なんだこれ?)
俺は奇妙な「壁」を見つけた。
測定結果が一定以上になると、強制的に数値を頭打ちにするような「リミッター(安全装置)」の術式だ。
(これが邪魔で、俺の魔力がうまく測れないのか?)
俺はそう解釈した。
邪魔なものがあるなら、どうするか?
決まっている。
「……どいてくれ」
俺は水晶玉に手を触れた。
対象は、水晶そのものではなく、内部の「リミッター術式」のみ。
「――『解体』」
パキンッ。
小さな音がした。
目に見えない「安全装置」が砕け散った音だ。
直後。
ドクンッ!!
水晶玉が、真っ赤に脈打った。
俺の体内で渦巻いていた行き場のない魔力が、リミッターの決壊したダムから一気に奔流となって流れ込んだのだ。
ブォォォォン!!
冷却装置が悲鳴を上げ、警告ブザーが鳴り響く。
「えっ、ちょ、なに!? 数値が……測定不能!?」
「おい馬鹿! レバー戻せ! オーバーフローするぞ!」
試験官たちが慌てふためく。
数値表示パネルの数字が、高速でカウントアップしていく。
999……1000……5000……10000……!
「え、ちょ、まっ……!」
カレンの顔が引きつる。
そして、限界が訪れた。
バギィィィンッ!!
轟音と共に、巨大な水晶玉が内側から破裂した。
魔力の奔流が衝撃波となって部屋中を駆け巡る。
「きゃあああっ!?」
「うわあああ!」
カレンと試験官たちが吹き飛ばされる。
照明が明滅し、バチバチと火花が散り――
プツン。
ギルド本部の全ての灯りが消えた。
真っ暗闇。
「……あーあ」
非常灯の赤い光の中、俺は一人、粉々になった測定器の残骸(キラキラした砂)の中心で立ち尽くしていた。
「やっちまった……。これ、弁償かな……」
億単位の借金が増えた予感がした。
ガタッ、と瓦礫の中からカレンが這い出てくる。
その美しいプラチナブロンドは爆発でアフロのように逆立ち、顔は煤で真っ黒になっていた。
「……あなた、なにしたの?」
地の底から響くような、低い声。
「えっと……全力でやれって言われたんで、ちょっと張り切りすぎちゃったかなー、なんて」
「ふざけないで!!」
カレンが絶叫した。
「魔力が出ないからって、機械を物理的に破壊して誤魔化すなんて! 最低よ! 探索者の風上にも置けないわ!」
「……はい?」
俺は耳を疑った。
いや、今のは魔力のオーバーフローで……。
「やっぱりあなたは偽物ね! 本物の解体師様なら、こんな野蛮なことはしないわ!」
カレンはアフロヘアーを揺らしながら、涙目で俺を睨みつけた。
「もういい! あなたの昇格なんて絶対に認めない! ギルド長に報告して、出入り禁止にしてやるんだから!」
そう叫び捨て、彼女は走り去っていった。
……どうやら、また誤解が深まったらしい。
「はぁ……。帰って未緒に慰めてもらおう……」
俺はとぼとぼと、暗闇のギルドを後にした。
背後では、復旧作業に追われる職員たちの怒号が響いていた。




