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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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12/21

EP 2

Sランク『氷の女帝』は、実は俺のガチ勢でした

 数時間後。

 バイトを終えた俺は、重い足取りで探索者ギルドの東京支部へと向かっていた。

 本当は行きたくない。

 だが、店長に「テレビでお前のことやってたぞ。ギルドから呼び出し食らってるって」と教えられ、逃げ回るのも限界だと悟ったからだ。

 逃げれば逃げるほど、罪が重くなる気がする。

「……とりあえず、マスクと帽子で変装していくか」

 俺はコンビニで買った安物の変装セットを身につけ、ギルドの自動ドアをくぐった。

 ザワザワ……。

 ロビーは異様な熱気に包まれていた。

 大型モニターには昨日の俺の配信ダイジェストが流れ、探索者たちが興奮気味に議論している。

「おい見たかよ、あの壁抜け!」

「あのドラゴン解体、芸術だろ」

「噂じゃ、政府が10億でスカウトしてるらしいぞ」

 ……話が盛られている。10億ってなんだ。

 俺は冷や汗をかきながら、なるべく目立たないように受付へ向かった。

 受付嬢――昨日まで俺を無視していた女性だ――が、電話対応に追われている。

「あ、あの……呼び出しがあった九条ですが……」

「少々お待ちください! 今、問い合わせが殺到してて……え? 九条?」

 受付嬢が弾かれたように顔を上げた。

 俺の顔(マスク姿)を凝視し、そして息を飲む。

「く、九条湊様!? ご本人様ですか!?」

「しーっ! 声がでかいです!」

 遅かった。

 「九条」という単語に、ロビー中の視線が突き刺さる。

「おい、九条だってよ!」

「あの『解体師』か!?」

「どこだ!?」

 野次馬が一斉に押し寄せようとした、その時だ。

「――どきなさい」

 凛とした、だが絶対零度のように冷たい声が響いた。

 一瞬で空気が凍りつく。

 人混みがモーゼの海のように割れ、一人の女性が歩み出てきた。

 プラチナブロンドの長髪。青い瞳。

 今朝、コンビニで見かけたSランク探索者、『氷の女帝』カレン・オルステッドだ。

(げっ、Sランク……。また会っちゃったよ)

 彼女はカツカツとヒールの音を響かせ、俺の目の前で立ち止まった。

 その瞳は、値踏みするように俺を見下ろしている。

「あなたが、九条湊?」

「あ、はい。そうですけど……」

「……」

 カレンは無言で俺の周りを一周した。

 ヨレヨレのパーカー。安物のジーンズ。コンビニのビニール袋(廃棄弁当入り)。

 そして、猫背で自信なさげな態度。

 彼女は、深いため息をついた。

「……嘘つき」

「はい?」

 カレンが柳眉りゅうびを逆立て、軽蔑のこもった視線を俺に叩きつけた。

「あなたが『解体師様』なわけないでしょ? この詐欺師」

「……はぁ?」

 俺は呆気にとられた。

 いや、本人なんですが。免許証見せようか?

「とぼけないで。私は見たのよ、昨日の配信を」

 カレンはスマホを取り出し、画面を突きつけてきた。

 そこには、ドラゴンを瞬殺し、クールに(実は疲れていただけ)立ち去る俺の姿が映っている。

「画面の中のあの方は、威風堂々としていて、気品に満ち溢れ、指先一つで世界を変える『本物の強者』だったわ!」

 カレンの頬が紅潮し、瞳が潤んでいる。

 あ、これヤバい人だ。

「それに引き換え、なによあなた。魔力も感じない。覇気もない。服のセンスも最悪。コンビニ弁当の匂いがする」

「うっ、それは……」

「あの方の名を騙って、女の子にモテようとしてるだけでしょ? Fランクのクズが」

 ボロクソに言われた。

 いや、確かに俺はFランクだし、オーラなんてないけど。

「あの、俺が本人だっていう証拠は……」

「黙りなさい! これ以上、あの方の名誉を汚すなら、私が相手になるわよ?」

 パキパキパキ……。

 カレンの周囲に、氷の結晶が浮かび上がる。

 本気の殺気だ。

 ギルド内がパニックになる。

「おい、女帝がキレたぞ!」

「偽物が処刑される!」

「やっぱあいつ偽物かよw 見た目ショボいもんな」

 周囲の探索者たちも、カレンに同調して俺を嘲笑い始めた。

 あー、もう面倒くさい。

 俺はため息をついた。

「わかりましたよ。俺は偽物です。ただの同姓同名のファンです。これでいいですか?」

「……フン。最初からそう言えばいいのよ」

 カレンは氷を消し、勝ち誇ったように腕を組んだ。

「二度と『解体師』を名乗らないことね。……あの方は、私のような高潔な魂を持つ者だけが理解できる、至高の存在なんだから」

 そう言って、彼女は髪をかき上げ、颯爽と去っていこうとした。

 その背中からは、「私こそが一番の理解者ファン」という強烈な自負オーラが出ている。

(……いや、あんたが一番理解してないよ)

 俺は心の中でツッコミを入れた。

 だが、誤解されたおかげで注目は逸れた。

 今のうちに用事を済ませよう。

「あの、すいません。ランク昇格の手続きに来たんですけど……」

「あ、はい! では、魔力測定室へどうぞ!」

 受付嬢に案内され、俺は奥の部屋へと向かった。

 だが、運命は俺を放っておいてくれない。

「ちょっと待って」

 カレンが立ち止まり、振り返った。

「あなた、昇格試験を受けるの?」

「……まあ、一応」

「なら、私が立ち会うわ」

 カレンはニヤリと笑った。

「偽物がどんな無様な数値スコアを出すか、見届けてあげる。……不正ができないようにね」

(うわぁ……ロックオンされた……)

 俺は天を仰いだ。

 ただ、生活のためにランクを上げたいだけなのに。

 どうしてこうなった。

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