表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【なろう版】徒花の咲かせ方 ~欠陥オメガ宰相とワケありアルファ騎士団長の偽り番契約~  作者: 貴葵音々子@カクヨムコン10短編賞受賞
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/27

13 番になられたという噂は事実なんですね!

 ◇ ◇ ◇



 禁書庫は書庫の地下にある。

 ロベリアの侍女から授かった一輪の赤薔薇を司書長に渡せば、すぐに鍵を用意された。赤薔薇は前女王の象徴。しかも離宮にしか咲いていない珍しい品種だったため、ロベリアからの許諾を得ていることを聡明な司書長はすぐ理解できたのだろう。

 彼から預かった鍵で鉄柵の扉を開けると、薄暗い階段が暗がりへ続いていた。鍵と一緒に渡された明かりをアスカディアがかざす。それは淡く光る植物を詰めたランタンだった。書庫内は火気厳禁なのだ。


「蓄光植物とは珍しいな」

「ああ。確か北の森で採れるマナを含んだ植物だったか。ミシェラ父様が読み聞かせてくれた話によく出てきた」


 黄緑色に淡く発光する幻想的で美しい多肉質な植物を眺め、ミオーレは幼い頃の記憶を辿る。

 ミオーレの生みの父であるミシェラは異国出身のオメガで、グラングレイスでは珍しい御伽噺をたくさん語り聞かせてくれた。中でもミオーレのお気に入りだったのが、大陸北の広大な森に住むという妖精族のお話。自然豊かな森にはマナが豊富で、今も不思議な力を扱える者が存在するらしい。蓄光植物のような魅力的な道具もたくさん登場して、子ども心をくすぐられたのを覚えている。

 事故の後は両親との記憶を意図的に遠ざけていたが、今回は自然に蘇った。アスカディアと一緒にいる安心感があるからだろうか。


「俺が先に行く。ミオーレ、手を」


 ランタンを持っていないほうの手を当然のごとく差し出され、ミオーレは不思議そうに瞬きを繰り返した。


「人目もないのに、ここで番のフリをする必要があるのか?」

「…………」


 ものすごいしかめっ面をされたので、渋々手を取る。配慮のつもりだったのだが、彼のご機嫌の針が何を基準に上下するのか、よくわからない。

 ぼんやりとした明かりの中、先導する背中を追う。冷たい石が敷き詰められた階段内部は肌寒く、手すりもない。少しでも離れると足元がおぼつかなくなってしまう。だがアスカディアは一段ずつゆっくりと、ミオーレの歩調に合わせてエスコートしてくれた。

 足音と互いの息づかいが木霊する空間に、アスカディアの少し強張った声が響く。


「……さっきの大臣の件だが」

「うん?」

「ああいういかがわしいことは、よくされるのか?」

「あー……新人の頃はよくあったけど、最近は滅多にないな。でも最悪の事態になる前に全部自分で対処できたし、むしろ脅せるカードが増えてラッキーだった」


 アルファが牛耳る政界でのし上がるには、それくらいの強かさが必要だった。だからと言って自分から色仕掛けをしたことはないが、使える材料は遠慮なく使わせてもらう主義だ。不埒な考えで醜悪な手を伸ばした者たちは、今や全員ミオーレの意のままにどうとでもできる。それがどうかしたのだろうか。


「ラッキーなわけあるか。今度同じような目に遭ったら俺に言え」

「どうして?」

「そいつの首を叩き斬る」

「私はとっくに成人してるから、もう斬首刑の必要はないよ。それに君は騎士団長なんだから、さっきみたいに外で横柄な態度を取るのは控えないと」

「それでも言え。自分の番に手を出されて何もしないなんて、不自然に見えるだろ」


 なるほど、確かに。今は形ばかりだがアスカディアの庇護下にある。彼を立てる意味でも、頼ったほうが得策か。


「わかった。でも尻を触られたくらいで剣は抜くなよ」

「触られるのか?」

「た、たまにな」


 ミオーレをよく知らない外交相手なんかは、オメガだとわかるとすぐちょっかいをかけてくる。だからって、こうして間近で殺気を放つのはやめてほしい。外交に支障をきたしたら困るので、やっぱり言わないでおこうか。

 そんなやり取りをしながら、ふたりで慎重に階段を下ること数分。入り口と同じ鉄柵の扉が現れた。司書長から預かったもう一本の鍵で解錠し、中へ踏み入る。

 照明はないが、部屋の中央に置かれた机の真上に天窓があった。書庫の床から吹き抜けになっているらしい。上階の明かりを上手く取り込み、そこだけ柔らかな日差しが照らす。

 少しカビた匂いがする内部はさほど広くなく、四方の壁を書架が天井まで埋め尽くしている。そこには表に出せない歴史や封印された呪術など、容易に触れられない記録が眠っている。

 蓄光植物のランタンで顔の前を照らし書架を順に見ていたアスカディアが、足を止めた。


「あった、ロベリア様の封蝋だ」


 アスカディアが取り出したのは、麻紐で括られた書類の束。赤薔薇の封蝋が押されている。中身を確認すべく、唯一日差しが届く机に移動した。

 封蝋を破って麻紐を解き、彼女がしまい込んでいた深淵を、ふたり並んで覗き見る。


「研究員のリストのようだな」

「薬屋に、祈祷師に、外科医まで……どうやらライネル様はあらゆる医学者をかき集めていたらしい」


 古来より病は悪霊によるもので、祈りで清められるとされてきた。ほんの少し前までは占星術で病気の原因を探ることも当たり前だった。肉体を切り貼りするため長らく異端とされていた外科医まで集めているのを見るに、当時としては最先端の研究と言っていいだろう。彼らが自ら進んで研究に名乗りを上げたのか、はたまた鎖に繋がれて従事していたのかは定かでないが。


「ここに載っている者はもう始末されてるだろうな。マダムもそう言っていたし……」

「直接的に関わった関係者は殺せても、出資者はどうかな」


 ミオーレは別のリストを指で叩いた。そこには研究の資金源となった商業組織や貴族の名前がずらりと並んでいる。

 ライネルは差別的な統治で臣民の反感を多く買っていた。反逆を警戒して国庫ではない資金源を使い、秘密裏に研究を進めていたのだろう。だからこれまで明るみに出なかったのだ。


「直接的に関わった者は殺せても、組織に所属する全員を手にかけることはできない。そして組織は生き物だ。名前とトップを挿げ替えていくらでも生き延びる」

「じゃあリストにある団体の後継組織が研究を引き継いだ可能性は高いな」

「うん。それに花筐の館で使われた例のヒート誘発剤の出所も、もしかしたらこのリストに繋がるかもしれない」


 ライネルはオメガのフェロモンを取り除く研究をしていた。研究を知る者がそれを応用してフェロモンを抽出し、ヒートの誘発剤を開発したとしたら。そしてヒートになったオメガを使い、魔獣を意図的に狂暴化させることを目的としていたら――。

 全ては仮説の段階に過ぎないが、事は一刻を争う。


「薬を使ったあの青年に話を聞こう。どこで手に入れたのかわかれば、リストの裏付けにもなる」


 ミオーレの提案に頷き合ったふたりは書類を一旦棚へ戻し、禁書庫を出た。

 行きと同じようにアスカディアから手を差し出されたので、今度は大人しくその手を取る。だが違っていたのは、階段を上り切った先で若い騎士がひとり、待ち構えていたことだ。


「団長、やっと見つけましたよ! 司書長からここだって聞いて待ってたんです。朝からずっと探してたんです、か、ら……」


 少年と青年の狭間の空気をまとう騎士団員の語気が段々とたどたどしくなる。彼の視線は、ミオーレとアスカディアの握られたままの手へ釘付けになっていた。

 周囲へ番アピールをするにはこれが正解なのだが、どうにも気恥ずかしくなってしまって、ミオーレはそそくさと手を放す。


「も、もしかして自分、おふたりの逢瀬の邪魔をしてしまいましたか!?」

「ええと……そ、それはそうなんだが、逢瀬ではなくて仕事で急いでいて……」

「やっぱり! 番になられたという噂は事実なんですね!」


 そこじゃない。こっちは急いでいると言っているのに、青年はキラキラした瞳で件の番を交互に見やった。ロシュと同じ純真さをひしひしと感じて、ミオーレはわずかに口角を引き攣らせる。

 すると青年の熱烈な視界からミオーレを隠すように、アスカディアがぬっと立ち塞がった。


「それで、用件は? 何があった」

「そ、そうでした! 実は花筐の館で捕えた例の男なんですが、御父上のスティレイ公が騎士団塔で『息子を釈放しろ!』と大暴れしてまして……」


 それはまさに、今ほど話を聞こうとしていた人物のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ