木枯らしの吹く日に君へ
木枯らしが吹き荒れる季節だった。
病院の屋上から見下ろす街路樹は、すっかり葉を落とし、冬の訪れを告げていた。冷たい風が強く吹くたび、乾いた枝が悲鳴のような音を立てる。
少し寂しい音色だ。
一樹は、背中にリュックを背負い直し、七海の病室へと急いだ。
今日は七海の誕生日。
そして、明日はいよいよ彼女の手術の日だった。
病室のドアをノックすると、中から七海の弱々しい声が聞こえた。
「……どうぞ」
七海は窓の外をぼんやりと眺めていた。
いつもは明るい彼女の顔から笑顔は消え、大きな瞳には不安の色が浮かんでいる。
「七海、誕生日おめでとう」
一樹は笑顔でそう言うと、リュックから小さな箱を取り出した。
「これ、プレゼント」
七海は目を丸くして箱を受け取った。
丁寧に包装紙を破ると、中から美しい木製のオルゴールが現れた。
蓋には繊細な花の彫刻が施されている。
「オルゴール……」
七海は呟いた。
一樹が促すと、七海は蓋を開けた。
流れてきたのは、二人にとって思い出深い曲のメロディ。
「あのね、一樹……私、怖い」七海は震える声で言った。
「明日の手術、本当にうまくいくかな……」
一樹は七海のベッドサイドに歩み寄り、彼女の手を優しく握った。
「大丈夫だよ、七海」
一樹は真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「俺がいる。このオルゴールも、ずっと七海のそばにある。怖くなったら、いつでも蓋を開けて。このメロディが、七海を守ってくれるから」
七海は深く頷き、一樹の言葉を合言葉のように胸に刻み込んだ。
翌朝、七海はオルゴールを胸に抱いて手術室へと運ばれていった。
一樹は手術室の前の待合室で、ただひたすら祈り続けた。
オルゴールの優しい音色が、七海に届いていることを信じて。
しかし、祈りは届かなかった。
数時間後、医師から告げられた言葉は、残酷な現実だった。
手術は失敗に終わり、七海は帰らぬ人となった。
一樹は、七海が最期まで抱きしめていたオルゴールを手に、静まり返った病室の窓辺に立っていた。
外は相変わらず木枯らしが吹き荒れている。
そっとオルゴールの蓋を開けると、思い出のメロディが鳴り響いた。
その音色はもう、希望の光ではなく、七海を失った世界のあまりにも冷たい空気を、虚しく震わせるだけだった。
一樹は、いつまでも鳴り続けるオルゴールを握りしめ、流れる涙を止めることができなかった。




