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第七章 合コン地獄編

大学生活の一幕、合コン。美咲は「失敗系ダイエット女子」としてネットで知られつつも、現実の場ではどう映るのか。笑われ、いじられ、爆食姿が拡散され……まさに“合コン地獄”。しかしその姿さえ人に笑顔を与え、フォロワーはさらに増えていく。

秋学期が始まって間もない土曜の夜。

 美咲は部屋で鏡の前に立ち、ため息をついていた。


「……似合わない」


 目の前に映るのは、少しタイトなネイビーのワンピース。ウエストのリボンが強調していて、ちょっと苦しい。普段は伸びるジャージにスニーカーで過ごす彼女にとって、これは戦闘服みたいなものだった。


(なんで私が合コンなんて……)


 きっかけは親友の里奈の一本のLINEだ。


> 「お願い!どうしても人数足りないの!頼む、美咲~!!」




 最初は断固拒否したが、しつこいスタンプと「友達だよね?」の圧に負け、結局「仕方ないな」と返してしまった。


「でも……よりによって合コンかぁ……。私、ただでさえダイエット失敗キャラで拡散されてるのに……」


 口をとがらせながらも、髪を結び直し、メイクをいつもより濃くした。

(せめて笑われないように……!)



---


 駅前の居酒屋に到着すると、すでに里奈と男性陣三人が席に座っていた。

 ライトに照らされた店内はカジュアルなのに洒落ていて、壁にはワインボトルがずらり。

(うわ……私、浮いてない?)


「やっほー美咲!こっち!」

 里奈の明るい声に導かれて席に着くと、男子たちが次々に自己紹介してきた。


「経済学部の四年でーす」

「ITベンチャーの内定もらいました」

「サッカーサークル入ってます」


 みんなキラキラしていた。

 美咲は小さな声で「文学部です……」とだけ答えた。


「へぇ、文学部!いいじゃん!どんなことしてるの?」と一人が優しく聞いてくる。


「えっ、えっと……読書とか……あとSNS……?」


「SNS?インフルエンサー的な?」


「いや、ちょっと……配信とか……ダイエットとか……」


 その瞬間、里奈がにやりと笑って口を挟んだ。

「この子ね、実は“失敗系ダイエット女子”でちょっと有名なんだよ!」


「え!?」「まじ?」「見たことあるかも!」


 男子たちは一斉にスマホを取り出し、検索を始めた。


「これ!?あ、ほんとにケーキ食べてるw」

「スクワット20回で倒れそうになってる動画www」


「やめてーー!!!」

 美咲は両手で顔を覆ったが、もう遅い。男子たちは大爆笑。



---


 乾杯の声が響き、料理がテーブルに並び始めた。

 唐揚げ、ポテトフライ、チーズタッカルビ、そして大皿のカルパッチョ。

(あああ……やばい……全部おいしそう……!でも合コンだからって食べすぎたら……)


 悩む間もなく、箸は勝手に動いた。

「美咲ちゃん、食べっぷりいいね!」と隣の男子が笑う。


「ほ、褒めてるのかな……?」


「うん、遠慮しないところが好き」


 嬉しいような恥ずかしいような。

(やっぱり食べすぎかも……!でも止まらない……!)



---


 場が盛り上がってきた頃、誰かが王様ゲームを提案した。

「よっしゃ、王様だーれだ!」


 美咲が引いた棒には「王」と書かれていた。

「え!?私!?!?」


「王様~命令してください!」と男子たち。

「えっと……じゃあ、三番と五番は……唐揚げ一気食い!」


「おー!いいね!」


 だが番号を確認すると、五番は美咲自身だった。

「え!?私!?!?!?」


 場は爆笑。結局、美咲は唐揚げを両頬に詰め込み、モゴモゴと「おいひい~!」と叫んだ。

 その瞬間、里奈がこっそりスマホで写真を撮り、SNSに投稿した。


> 「#合コンなう #失敗女子が唐揚げ爆食」




 わずか数分でリツイートが数千件を超えた。


「速報w」

「期待を裏切らないwww」

「合コンで爆食は草」


 机の下で震えるスマホを握りしめ、美咲は青ざめた。


(うわぁぁぁ……これ全国配信されてる!?)



---


 その後もゲームは続き、美咲は「全員にモノマネ披露」と命じられ、なぜか唐揚げをくわえながら犬の鳴き声を真似するというカオスな姿を晒した。男子も女子も涙を流して笑い、店員までチラチラ見に来る始末だった。


 お開きの頃には、美咲はテーブルに突っ伏していた。

「もう帰りたい……」


 だがスマホを開いて驚いた。フォロワー数がさらに二千人以上増えている。


「なんで……!? 私、ただ恥かいただけなのに……」


 コメントを読み進めると、胸がじんと温かくなった。


「合コンで爆食してても楽しそうでいい」

「笑ってる美咲が好き」

「ダイエットより幸せそうな顔が一番かわいい」


 美咲は夜風に吹かれながら呟いた。

「……失敗しても、笑ってくれる人がいるなら、それって……幸せかも」


この章では、美咲が「現実でもネットでも同じく失敗して笑われる」場面を描いた。本人にとっては苦い経験でも、誰かの笑いに変わり、応援に変わる。彼女は少しずつ「失敗してもいい自分」を肯定できるようになってきた。


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