表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

第五章 ゼミ旅行と温泉地獄

ゼミ旅行。美咲は「今回は太らない」と息巻いて出発するが、出発30分で早くも崩壊。お菓子、ご当地まんじゅう、豪華な宴会料理……誘惑に次々と負け、SNSは実況スレが立つほどの大盛り上がり。そして極めつけは温泉タオル事件。SNSには流れなかったが、ゼミ仲間の間で永遠に語られる伝説となった。

夏の期末テストが終わり、ゼミ恒例の旅行シーズンがやってきた。行き先は温泉地で、二泊三日のんびり旅。発表された瞬間から、美咲の頭の中では「旅行=太る」という恐怖がよぎっていた。


(いやいや、今回は違う! 私はダイエット中なんだから! 旅行先でも食べすぎないし、絶対に太らない!)


 SNSにもしっかり宣言した。


> 「ゼミ旅行いってきます!

ご当地グルメに負けない!今回は太らない旅行にします!

#ダイエット女子 #鉄の意志」




 すぐにコメントが並ぶ。

「無理でしょw」

「旅先のグルメに勝てる人類はいない」

「フラグたったな」


 心ない応援(?)に唇を尖らせながらも、美咲はキャリーバッグを引いて集合場所に向かった。



---


 出発して一時間。バスの中ではさっそくお菓子交換大会が始まっていた。ポッキー、じゃがりこ、ポテチにチョコ。みんなが袋を回すたび、美咲の視線はお菓子の海を泳ぎ続けた。


「……ひとつだけ、ひとくちだけ……」


 ポッキーをつまんだ瞬間、隣の沙耶がスマホを構えてパシャリ。


> 『#フラグ回収はやすぎ #旅行開始30分でアウト』




「ちょっ!? まだ一本だから!セーフだから!」

「一本食べたら終わりだよ、美咲」


 車内は笑い声に包まれ、美咲は早くも旅先ダイエットの計画が崩れかけていた。



---


 旅館に到着してからは、もっとひどかった。

「名物の温泉まんじゅうだよー!」と手渡され、ほかほかの湯気と甘い香りに負けて口に放り込む。

「うまっ!」と叫んだ瞬間、後輩の男子がにやりとスマホを掲げる。


> 『ご当地まんじゅう秒で完食 #我慢とは #ゼミ旅行』




 夕食の宴会はさらにカオスだった。ずらりと並ぶ料理、刺身、しゃぶしゃぶ、揚げ物。最初は野菜中心に皿を作っていた美咲も、気づけば肉や天ぷらを山盛りにしていた。


「うっまー!もう無理!ダイエットは帰ってから!」

「出ました名言w」


 フォロワーたちも即座に反応する。

「知ってた」

「もう帰らなくても無理では?」

「旅行実況ありがとう」


 気づけば「美咲旅行実況スレ」まで立ち上がり、見知らぬ人まで「次は何食べるの?」とコメントしていた。



---


 そして翌朝――。


 ゼミの仲間たちと浴衣姿で大浴場に向かう美咲は、心の中で強く念じていた。


(今日は絶対に恥かかない……!)


 バスタオルをしっかり巻き付け、二重三重に折り込んでチェック完了。これなら外れない、と自信を持って湯船へ足を入れた。


 ところが。


「ひゃっ!? ちょ、ちょっと待って!!」


 お湯に浸かった瞬間、タオルの端がじわじわ緩み始めたのだ。汗と湯気で滑って、布地がずりずりと下がっていく。


「やばいやばい、美咲先輩沈没してる!」

「ちょっ、笑いすぎて助けられない!」


 沙耶も後輩たちも腹を抱えて大爆笑。美咲は慌ててしゃがみ込み、胸の前でタオルを抱きしめて死守する。


「やだーー!誰か予備タオル早くーー!」


 仲間が新しいタオルを投げてくれて事なきを得たが、この大騒ぎは完全に「ゼミの伝説」として刻まれた。以後、飲み会のたびに「あのタオル戦争」の話が蒸し返されることになる。



---


 風呂上がり。冷たい牛乳を飲み干しながら、美咲は赤い顔でぼやいた。

「……ほんと、なんで私ってこうなの?」


 沙耶が肩を叩いて笑う。

「でもさ、美咲がいるから旅行が毎回楽しいんだよ。あんたの失敗って、みんなにとっては思い出なんだよ」


 美咲は少し黙り込み、やがて小さく笑った。

「……じゃあ、まあいっか」


 ご当地グルメに負け、宴会で食べすぎ、温泉でタオルにすら裏切られた。

 でも、失敗するたびに仲間が笑い、楽しい時間が広がっていく。


 ――完璧じゃなくてもいい。失敗しても、笑い合えるなら、それだけで十分。


 美咲はそう心の中で呟きながら、どこか幸せそうに息をついた。


ダイエットに失敗し続ける美咲だが、その失敗は仲間との笑いとなり、絆を深めるものへと変わっていく。SNSでは「もう無理だろ」と突っ込まれ、ゼミ内では「タオル戦争」として語り草に。恥ずかしさの中に芽生える「でも楽しいからいいや」という小さな幸福感――それが第五章の核心だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ