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第十章 恋とSNSとダイエット

文化祭の喧騒が過ぎ去り、日常へ戻った美咲に思いがけない一通のメッセージが届く。彼女にとっては初めての「デート」の誘い。痩せたい、綺麗になりたい、失敗せずに挑みたい──その気持ちが再び彼女をSNSとダイエットの渦へと引きずり込む。だが、その奮闘の行方はやはり波乱含みで、失敗の中に小さな成功が混ざり込みながら、予想外の一日が幕を開けるのだった。

文化祭が終わって数日後、美咲は部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。スマホの画面には、一通のメッセージが浮かんでいる。

『今度、よかったら映画でも行きませんか?』


その瞬間、心臓が跳ね上がり、頭の中が真っ白になった。


「え、え、ええ!?これってデート!?恋愛イベントきちゃった!?私、全然痩せてないんですけど!?!?」


ベッドに倒れ込み、布団を抱きしめてバタバタと暴れる。そんな彼女を冷静に見つめているのは机に放置されたチョコパイの袋だった。

(……いや待て。ここで痩せればいいんだ!デートまで一週間!奇跡のダイエットを成功させれば!)


決意を込め、美咲はスマホを構えてSNSに宣言を投稿する。

「緊急ダイエットチャレンジ!デートまでに-3kg! #失敗したら公開土下座」


すぐにコメントがつく。

「無理ゲーきたw」「またフラグ立てたな」「これで成功したら逆に尊敬する」


笑い混じりの反応に火がつき、美咲は拳を握りしめた。


翌日から、美咲の戦いが始まった。朝はスムージー、昼はサラダチキン、夜は豆腐と味噌汁。完璧なメニュー……のはずだった。だがカフェに寄ったとき、山盛りホイップのパンケーキを前にして理性は崩壊する。


「一口だけ……」


そう呟いたが、皿はあっという間に空っぽ。SNSに「ごめん、やっちゃった」と投稿すると、コメントは荒れに荒れた。

「はい終了」「一口=一皿説」「また太ったな」


三日目、服選びで悲劇が起こった。鏡の前でワンピースのチャックを上げようとした瞬間、途中で止まる。無理やり引っ張った瞬間、布が破ける嫌な音が響いた。

「ぎゃあああ!」


慌てて陽菜にLINEを送り、ショッピングに同行してもらうことに。試着室で服を着替え続ける美咲を、陽菜は笑いながら撮影し、こっそりSNSに投稿した。

「#ダイエット女子の試着地獄」

コメント欄は爆笑で埋め尽くされる。

「チャック戦争に敗北」

「布の方が痩せるの早そう」


それでも、デート当日。美咲は奇跡的に髪もメイクも上手くいった。鏡の中の自分を見て小さくガッツポーズをする。

(……今日の私、いけるかも!)


待ち合わせ場所に現れた彼は驚いたように笑った。

「美咲さん……すごく似合ってます」

「えっ!?そ、そう?ありがと!」


緊張で手のひらは汗だくだったが、心の奥は少しだけ誇らしい。


最初の行き先は映画館。ポップコーンの香りに目がくらんだ美咲は、勢いでラージサイズを注文してしまう。

「映画といえばこれでしょ!」

彼は少し戸惑ったが、隣に座ると、美咲は夢中でポップコーンを食べ続けた。気づけば映画の半分を過ぎた時点でカップは空に。

「……もうない」

「僕も結構食べたけど……美咲さん、すごいね」


笑顔でごまかしたが、後日この様子は偶然隣に座っていた女子高生に撮られており、「#秒速ポップコーン姫」として拡散される羽目になる。


映画の後はおしゃれなカフェ。テーブルに運ばれてきたのは、花束のように盛られた巨大パフェだった。

(やばい……これ絶対映えるやつ……!)


SNS封印のはずだったが、結局スマホを取り出して撮影してしまう。

「奇跡のデートパフェ!でも食べちゃダメなやつ! #一口だけ」


コメントは即座に荒れた。

「一口フラグw」「また完食コース」

その通り、美咲はスプーンを止められず、あっという間に食べ切ってしまった。彼は苦笑しながら「元気でいいですね」と言ってくれる。


夕方、なぜか二人はスイーツ食べ放題の店に吸い込まれていた。

「やっぱりこういうのってシェアした方が楽しいよね!」

「……半分以上、美咲さんが食べてますけど」


SNSでは再び実況祭り。

「デートで食べ放題w」

「男子、完全に呆れてない?」

「でも仲良さそうで草」


制限時間いっぱい食べ続けた美咲は、帰り道でお腹を抱えて動けなくなった。

「だめ……もう歩けない……」

「大丈夫ですか!?タクシー呼びます?」


彼に支えられながら夜道を歩く。失敗の連続だったのに、不思議と胸の奥は温かかった。


別れ際、彼は照れたように言った。

「今日、すごく楽しかったです。美咲さんって……失敗しても全力で楽しんでるのが素敵だと思います」


その言葉に、美咲の心臓がまた跳ねた。


帰宅後、SNSに投稿する。

「今日の私は……失敗したけど幸せでした! #恋もダイエットも爆発だ」


コメント欄は荒れ放題。

「リア充爆発しろ」

「失敗して幸せって何w」

「お前が楽しそうならまあいいか」


通知が鳴り止まない中、美咲は布団に潜り込み、頬を緩めた。失敗しても、こんなにも幸せを感じられるなんて。

この章では、美咲が「恋」を通してこれまで以上に強く自分を変えたいと願う姿を描いた。しかし現実は、またもや失敗の連続。けれど、失敗さえも笑い合い、受け止めてくれる誰かの存在が、彼女の心を温めていく。SNSに揶揄されても、からかわれても、彼女は幸せを感じていた。失敗は相変わらずだけれど、彼女の物語は確かに一歩、前へ進んでいた。

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