うどんと機械犬は日本の夢を見る
「うどん……というのは何だね?」
日本製の高品質なものです。
「ほう、日本製なら買っても損はないな。日本は歴史が長くて、礼儀正しくて、製品の質が良いからめったに壊れないことはみんな子どもの頃から知っている。一つ買おう……」
うどんは日本製ということ以外、わたしもよく知らない。一日働けば20ドルもらえるというから、昨日からうどんの売り子を引き受けただけだ。
「ねえ、このうどんって、アニメによく出てくるあれなの?」
よく知りませんが、日本製の高品質なものです。
「わたしには三つの大きな夢があってね、その一つが日本へ行くことなの」
はあ、そうですか。
「日本へ行ったら高校生になってね、アニメみたいに制服を着たり、ブカツドウをしたり、学校の屋上で友達とランチしたりするのが夢なの(後ろの席のクラスメイトに恋をしたりね)」
へえ、アニメが何かは知りませんが、素敵ですね。残り二つの夢というのは?
「ふふ……それは秘密よ。うどんを一つ買うわ」
うどんは私の日給と同じで20ドルもする。しかし客と適当に会話を合わせるだけでよく売れるのだ。
「今週はよく売れたから、お前にもボーナスでうどんを一つやるよ」
雇い主はそう言いながら、私にうどんを渡す。
現物支給よりもお金のほうがいいのにと思ったが、私は愛想笑いをしながら雇い主に礼を言った。
街外れにある小屋へ帰ると、機械犬がしっぽを振りながら私を出迎える。
「おかえりなさい」
機械犬はゴミ捨て場から拾ってきたやつで、ちょっと修理をしたら動いたり喋ったりするようになった。
「おや、手に持っているのは最近話題になっている日本製のうどんですか? ボクも日本製だから、なんだか兄弟みたいだな」
欲しいならやるよ、と言ってうどんを渡すと、機械犬は目を輝かせながら小屋の中を飛び回るので、一発殴って動きを止めた。
数日後、仕事を終えて小屋へ帰ると、うどんがとことこと私の足元に近寄ってきた。
「こいつに、駆動装置やAIなんかを入れて動くようにしておきましたよ」
機械犬は得意げにそう説明する。
「あたし、うどんちゃん。おこづかいをちょうだい……」
うどんに渡した1ドルのおこづかいがいろいろあって増えていき、ついには私と機械犬とうどんが日本へ渡って冒険を始めることになるのだが、その話はまだ先の……。
「そんな夢みたいなこと、あるわけないじゃないですか」
機械犬はわりと現実的なのである。