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1-8 異世界《ゲーム》と現実に振り回される高校生

前回の続きです。

ゲームプレイ中の主人公の部屋に母親がやってくる場面になります。

 巧実の拠点に向かう一行に、偶然にも生徒一人を連行する担任教師の望月先生と出会う。

 望月先生は生徒指導の一環と言うが、何故か巧実だけは疑惑で見て思うことがある。

(この前の進路相談といい、今の生活指導といい、最近の望月先生の様子が……)

 ところが、生活指導の一環と聞いて紬久美は何の疑いもなく望月に労う。

「ご苦労様、さすがは教育委員長の娘でございます」

 紬久美の発言を聞いた瞬間、意外な事実を知って少し驚く巧実。

 驚く巧実を見た紬久美は、四人を集めて耳打ちで説明と私見を言う。

「知らないの? 望月先生の父親、教育委員会の現委員長よ。あなた達は「氷の女王」と思っているけど、父親の顔に泥を塗らないように徹していると思うわ」

 紬久美の説明と私見を聞いた巧実は、魔女を連想する衣装姿の望月先生を静かに見守ることしか出来なかった。

 望月先生は右手でこめかみを押さえ頭痛の症状を見せるが笑顔で、

「皆さん、ゲームで交遊するのも大事だけど勉強も忘れずにね。ゴールデンウイーク開けの一週間後、中間テスト控えているから」

 と言い残し黒装束姿の生徒と共に立ち去っていった。

 そのとき、望月先生と共に立ち去る黒装束姿の生徒の後ろ姿から四人と同し背負っているデバイスポートにメモリーデバイスが一つ刺さっているのを発見する巧実。

 その上、去って行く望月の笑顔が何処となく冷ややかに見え頭痛の兆候を見せるのが妙に気になり心の中で交錯する。

(ゲーム酔い……? このゲーム、相当やりこんでいる……?)

 しかし、紬久美が巧実の肩を軽く叩いて、

「私達も出発しましょ。ほらぁ、ボーっと立っていない」

 と言って催促してきたので、疑問に思いながら宗明が変身する戦闘偵察車に搭乗し自分の拠点に向かう巧実であった。

 数分後、自分の拠点に到着した巧実は戦闘偵察車に変身する宗明を拠点の敷地内に停車。

「おいっ、僕だけ置いてけぼりっ? 本多っ、せめて変身を解除してくれっ!」

 と宗明の声が聞こえるが、ゲーム初心者である女子三人組を真っ先に案内する巧実は、

「わりぃ、三人の案内が先だっ!」

 と言い残し女子三人組と共に去って行った。

 巧実の拠点は、外見上は小高い丘にポツンと立つ一軒家。

 周辺には、様々な野菜を栽培する段々畑が一軒家から見下ろすように広がっている。

「至ってシンプルな家ね。強者ゲーマーと聞いて、もっと派手だと思っていたわ」

 と言ってガッカリする紬久美の反応を見て巧実は、

「それっ、家に入ってから感想を言って貰いたいモノだ。諸君」

 と言い返し不敵な笑みを浮かべて案内する。

 女子三人組は、不敵な笑みを浮かべる巧実を警戒しながらも家に入る。

 ところが、掘っ立て小屋みたいに粗雑な内装に首を傾げる女子三人組。

「これっ、カムフラージュ。本当の玄関は地下階段だから」

 と言って巧実は、手招きして地下に繋がる階段入り口へと案内する。

 階段を降りると、地下空間は有名な某アニメやSF映画を彷彿させるような世界が広がり驚愕する女子三人組。

「地下のコンセプトは、ロストテクノロジーが手付かずで残るSF母艦ってイメージ」

 と言って自慢する巧実に、外の世界とは正反対の内装に驚愕する女子三人組。

「タク兄っ、どうやって作ったの? これっ?」

 と思わず言い出してしまい驚く彩に、アイテムリストから手の平サイズのキューブ状の土を取り出して説明する巧実。

「こいつは、アイテム回収用のスコップを使って回収した土ブロック。家などを建設する際、ブロックを積み重ねて建てている」

「ブロック? じゃあ、扉や窓もブロックで出来ているの?」

 と気になった早希が質問すると、

「惜しい。扉や窓などは、鉄やガラスなどの素材を作業台で製作できる。レベルが上がれば、製作できるアイテムが増えるだけでなく武器の修復やアップグレートが出来る」

 と言って説明する巧実は女子三人組を工房室に案内。

 工房室には、様々な道具と鉄で出来た作業台がある。

「彩っ、主武装メインウエポンのグローブを出して」

 と巧実が指示したので、壊れかけたグローブを差し出す彩は不思議そうな顔をしている。

 グローブを受け取った巧実は、鉄の作業台に設置して何やら作業を始める。

 すると、壊れかけたグローブが一瞬で傷一つ無い新品へと修復される。

 彩は、修復されたグローブを再び装着して感触を確かめると目を丸くして驚く。

「このように、修復すれば元通りに使用が出来る」

 と巧実が説明すると、女子三人組は改めてゲームの世界にいることを実感する。

 そんな中、別の女性の声が割って入るように聞こえてくる。

「巧実っ、彩ちゃんのスニーカーが玄関にあるけどっ?」

「やっ、やばっ! かっ、母さんだっ!」

 と言って焦る巧実を見て、彩が気まずそうな表情で思い出す。

「ゴっ、ゴメン……。今日、香苗カナエオバさんから店の手伝い頼まれて……」

 すると、居合わせた人達が慌て出す。

「彩っ、それっ、早く言ってくれっ! まずい、母さんの足音が近づいてくるっ!」

「本多君っ、何が何でも絶対に喋っちゃダメっ! 例え思わず喋っても、頭がおかしいと思われ信じてくれないから絶対に喋っちゃダメっ! リーダーの命令よ、これはっ!」

「多分、俺が言っても信じてくれないから大丈夫だっ! 会長っ!」

「巧実っち、アンタのお母さんが来たら大変だから対応しないとヤバいって!」

「多賀谷っ、そんなこと分かっているっ! とりあえず、みんなは拠点で待機ってことでっ! 絶対、絶対に拠点にある物を弄るなよっ!」

 と念を押すように言って巧実は、ゲーム機を隠すように慌てて振り向く。

 振り向くと、鬼のように怖い顔で怒っている女性が立っていた。

 鬼のような怖い顔した女性は、くせ毛が少しある長い髪をポニーテールのように束ね体にフィットしたジーンズ姿で活発感がある。

「かっ、母さんっ! いきなり、俺の部屋に入ってくるなよっ!」

 と言って驚く巧実だが、仁王立ちの女性の耳には言い訳としか聞こえてこない。

「なにが、勝手に入ってこないでよっ! 彩ちゃん知らない? 連絡が取れないのよ」

 と言って不満そうな表情で聞いてくる女性は、巧実の母親で名は香苗カナエ

 香苗は担任教師である望月と同世代で、現在は一階のもんじゃ焼きなどの鉄板焼き専門店の店長をしながら家を切り盛りしている。

(一応、店主はジッチャン。だが、三年ほど前に失踪してからは事実上の店主だけど)

 と思う巧実は、怖い顔の香苗を静観する。

「巧実、早く言いなさい! あなたの部屋に来ているの分かっているから!」

 と言って問い詰める香苗に、慌てふためくように返事をする巧実。

「そっ、そうだ! 彩のヤツ、部活がある事を思い出して窓から出て行った。全く、スニーカー置き忘れてしょうがないヤツだな。アッ、アハハハッ」

「バレバレよっ! 見え透いたウソ、笑って言わないでっ!」

 と言って必要以上に問い詰める香苗は、容赦する気はないようだ。

 そんな中、巧実が後ろに隠している自前のゲーム機から彩の声が聞こえてくる。

「ボクのスニーカー、後で家に届けてーっ! ゴメン、部活があるの忘れてたーっ!」

 彩の声が聞こえた瞬間、早苗の怖い顔が急に残念な表情に変化し、

「彩ちゃん、陸上部だったわよね。それなら、仕方ないわ」

 と言って急に冷静になり、ホッと一安心の巧実は胸を撫で下ろす。

 もし、彩の声がなかったら香苗の怒り任せの感情に振り回されたに違いない。

 胸を撫で下ろす巧実だが、災難はこれで終わりではなかった。

「そうだ、どうせ暇でしょ。だったら、手伝いなさい。巧実っ!」

 と言って香苗は、猫掴みのように巧実の着ているシャツの襟後ろを掴み強引に連れ出す。

「えっ、えぇぇぇっ! かっ、勝手に決めつけないでくれっ! 俺だって用事がっ!」

 と言い返し抵抗する巧実だが、耳に届くことはなく強引に一階の店舗に連れ出しウキウキ気分で自己中な発言をする香苗。

「今っ、人手が足りないから裏方バックヤードお願い。いくら接客が苦手でも、裏方なら巧実でも出来るでしょう」

 早苗の気の変わり方は、まるで天候が変わりやすく予測不能な山脈そのもの。

 何度も自己主張して必死に逃れようとする巧実だが、傲慢な香苗の耳に届くことなく一階へと連れて行かれるのであった。

 机の上にはスリープ中の携帯ゲーム機と、外の世界の状況が分からず慌て出す女子三人組の声が聞こえてくる。

 その画面には、ゲームタイトル「Gods of Sanddox(神々の砂場)」とメーカーブランド「YouKユーキエンタープライズ」の待機画面が映るのみ。


ご覧いただき有り難うございます。

次回は来週の火曜日の予定です。

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