1-7 ゲーム世界の港町
前回の続きです。
港町に到着後の話になります。
夕方、地図に示した町に辿り着いた一行。
地図に示した町は海に面した港町で、様々な町人やプレイヤーが行き交っている。
港町に到着した一行だが、巧実以外の四人には明らかな差があった。
女子三人組は背伸びなどをして終始リラックスに対して、下僕のような扱いを受ける宗明はというと変身を解除されたというのに足取りはふらつきヘトヘト状態。
どうやら、町に辿り着いた時点で巧実が宗明の変身を解除したようだ。
「次、変なこと企てたら承知しないからな」
と淡々と言って眉間に青筋を立てる巧実を見て、身の危険を感じた宗明は必要以上に説明を求めるのを止め大人しくするだけだった。
宗明の大人しくする様を見た巧実は、やれやれとした表情で仲間達を宿屋に案内する。
「今日は宿屋で一泊。夜が明けたら、買い物をして俺の拠点に移動するぞ」
と言って引率する先生役に徹する巧実は、四人を宿屋に案内する。
その後、四人は巧実と共に宿屋で一晩過ごすのであった。
一夜が明け、買い出しをする巧実は女子三人組に衣服を要求されると、
「今、この中で金があるのは俺だけ……。仕方ない、今回だけだぞ」
と言って淡々とした表情で立ち寄ることが少ない防具屋を案内するとアイコンを開く。
そのとき、何を考えたのか早希は甘えるように猫なで声で巧実にお願いしてきた。
「あーし達三人、女の子でしょ。だから、お願いっ。ねっ」
すると、紬久美と彩が便乗して無言で巧実に迫ってくる。
女子三人組の要求に困りながらも初心者を考慮した巧実は、
「こっ、今回だけ……。今回だけだぞ……」
と恥ずかしそうに言って金貨などを多めに渡してしまう。
すると、女子三人組は喜んで案内された防具屋の中に入っていった。
宗明も女子三人組に便乗しようと防具屋に入店しようとしたとき、
「お前、意味ないだろう。機械人、防具を装備しても変化ない筈だ」
と巧実が淡々と言って肩を掴み強引に引き留める。
宗明が恐る恐る振り向くと、怖い巧実の顔を見て防具屋に入店するのを止めた。
一分後、防具屋から出てきた女子三人組は衣装チェンジを巧実と宗明に披露する。
紬久美の衣装は、某ゲームやアニメの定番である太ももが露わになるほどのスカート丈が短めな目の覚める黄緑の衣装に丈夫な革製の胸当てを装備した姿。
「シンプルすぎるわね。もっと、オシャレなのはないの?」
と言って不満そうな紬久美の顔を見て、宥めるように説明する巧実。
「悪いけど、海外のエルフのキャラはスカートかなり長く露出度は皆無だぞ。それに、魔法金属以外の金属系の防具装備できないから仕方ない」
早希の衣装は、如何にも女盗賊のイメージがピッタリなフード付きの皮ベストを着たヘソ出しの服装で軽量の鉄の腰当てで防御力を増している。
「大人のお姉さんってイメージにしましたっ!」
と言って大はしゃぎの早希に、巧実は「妥当だな」と至って冷静な表情を見せる。
(大はしゃぎしなければ、もっと似合うけどな)
と言いたいことを心の中で留める巧実は、
「似合ってます。似合ってますよ」
と淡々と言って早希を煽てて上機嫌を崩さないように徹する。
そして、彩の衣装はヘソ出しのボーイッシュな服装だが露出度が少し高めに見える。
早希はダメージ加工がしてある体にフィットした黒のデニム生地のレギンズに対して、彩は太ももが露わなパステルブルーのショートパンツ。
「試合でセパレートを着ているけど、やっぱり恥ずかしい……」
と言ってモジモジする彩の姿を見た巧実は、
「にっ、似合うよ……。彩らしくて、カワイイ……」
と言って顔を赤くして褒める。
すると、嬉しそうな彩は必要以上に巧実に迫り何度も聞きたがる。
そんな中、巧実は隣にいる宗明の視線が気になり、
「彩っ、防具屋で格闘家用の防具を買った? 装備すれば、少しマシになる」
と言って何気なくアドバイスを送る。
すると、彩は空手家の上着のようなパステルブルーの防具を装着する。
「あーっ、あーし達がコーディネートしたのに勿体ないっ!」
と早希が文句を言ってきたとき、視線で宗明の方を指す巧実。
それを察した紬久美は、視線を使って無言で宗明に圧力を掛ける。
紬久美の圧力を感じた宗明は、目を背けることしか出来なかった。
「さて、俺の地下拠点に移動する。おいっ、下僕っ! 回れー右っ!」
と言って強要する巧実に、不満の宗明は反論しようと握り拳で殴り掛かろうとする。
ところが、女子三人組の威圧的な視線が突き刺さり仕方なく巧実に無言で従う宗明。
その背中は情けなく見える巧実だが、
「分かればいい。自分の立場、分かっていれば」
と言って心情を察することなく宗明の背中にメモリデバイスのような物を差し込む。
すると、宗明の体は再びイタリアの戦闘偵察車に変身する。
「ところで、巧実っちが宗明の背中に差し込んだUSBメモリって何っ?」
と早希が不思議そうな顔で説明を求めたので、手持ちのメモリデバイスを一つ取り出して説明する巧実。
「これには、様々なエフェクトが入っている。コイツに差したのは、機械人の特殊能力の変身を利用したモノだ。偶然、小さなランドセルのようなモノが見えたので」
そのとき、彩は巧実の背中には何も背負っていないことに気がつき説明を求める。
「でも、タク兄だけランドセルがないのは何故っ? もしかして、ボクの背中にもっ!」
すると、頷いた巧実は主装備である大薙刀を取り出すと、
「普通の仕様だと、主装備の中心部にデバイスポートがあるのみだけど、背中の小さなランドセルみたいなのは初めて見る。しかも、見た感じでは外せそうでない」
と説明と同時に自分の思っていたことを言い述べる。
巧実の説明を聞いた女子三人組は、気になって手持ちの主装備を取り出し確認する。
巧実の説明通り、紬久美の弓の中央部と早希の短剣の鍔の部分にデバイスポートとスマホを彷彿させる画面を発見する。
「ボク、手ぶらで何もないけど? タク兄っ?」
と彩は言って、辺りを見渡しデバイスポートを探す。
その様子に巧実は、彩の左手を取ってグローブの甲の部分を指差す。
「前にも言ったけど、彩は格闘家だから拳や蹴りが武器だって」
彩はグローブを見ると、巧実の言われた通りにデバイスポートを発見して安堵する。
そんな中、巧実は気になってイタリアの戦闘偵察車に変身中の宗明に聞き出す。
「吉良っ、お前の武器はっ? まさか、振り回し過ぎて壊れたとでも?」
すると、宗明は巧実に言われたことが図星のようで気恥ずかしく答える。
「今、大ハンマーが耐久力0で……」
宗明の返答を聞いた巧実は、ため息を吐いて女子三人組に説明する。
「一応、主武装は耐久力0でもアイテムリストからは消えない。しかし、耐久力0になるとお飾り状態となり素手のみで戦う羽目になる」
巧実の説明を聞いた紬久美と早希は、手にしている武器が自分の生命線だと感じる。
だが、彩は説明を聞いても理解することが出来ず巧実に質問する。
「タク兄っ、ボクの主武装はグローブだよっ? 耐久力って関係ないはずじゃ?」
彩の疑問を聞いて確かにと思う紬久美と早希の二人だが、
「先日、このバカと対戦してグローブの耐久力が落ちているはず。もし、耐久力無くなったら攻撃力ダウンになる」
と説明して分かり易く説明する巧実。
巧実の説明を聞いた彩は、グローブにひび割れのようなエフェクトを発見し言葉を失う。
「では、これから俺の拠点に向かう。俺の拠点は一山越えた先だ」
と巧実が言うと、再び長旅を強いられるのかと思い項垂れる宗明。
項垂れる宗明に女子三人組を代表して早希が、
「役得だよ、役得っ。あーし達のために頑張っちゃって」
と言って戦闘偵察車に変身中の宗明のボディーを撫でて励ます。
そんな中、如何にも魔術師を連想させる容姿の担任である望月が黒いローブを纏った一人引き連れ素通りする。
「あらっ、望月せんせーっ。ゲーム、プレイしてるーっ」
と声を掛ける早希に、望月が振り向いて巧実達五人に笑顔で返事をする。
「生活指導の一環よ。この子、恥ずかしがり屋で」
その返答を聞いた四人は、ゲームの世界でも教師の目が光っていると知り自分達の現状を知られたら不味いと危機感を感じる。
そんな中、巧実だけは目の前にいる望月と黒装束の生徒を見て、
(たしか、担任の望月陽子って母さんから友人と聞いたような……。でも、黒装束の生徒は誰だっ?)
と疑問に思い何故か怪しむように警戒するのであった。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。