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1-6 新たな遭難者

前回の続きです。

事件直後に新たな被害者と遭遇する話になります。

 洞穴で一夜を過ごした四人、集めた草木で作った寝床は枯れ草の塊と化していた。

「この寝床、一度設置して寝たら枯れて使用できない。再び採取すると、干し草となって肥料の素材か屋根瓦の代わりにしか使い道はない」

 と説明する巧実は、干し草と焚き火で残った木灰を採取する。

 どうやら、集めた干し草と木灰は畑の肥料として使うようだ。

 洞穴から出ると輝く朝日で目が眩み、周囲を見渡せば広大な草原が広がる。

 再び、村や町に向かって歩き始める四人。

 そんな中、紬久美ツグミは心に納めていた苛立ちを巧実に言い放つ。

「ねえっ、私達いつまで歩かせるつもり? 町の影すら見えないじゃないっ!」

 紬久美の一言に反応した早希や彩も、歩き続ける巧実に文句を言い出した。

「確かに、紬久美の言い分は一理ある。同じ景色ばっかりでつまんなーい、あーし」

「いくら陸上部のボクでも、歩き続けて疲れたよ。それに、何も食べてない」

 三人の文句を黙って聞いた巧実は、手の平サイズの野イチゴを見つけ摘み取ると、

「野イチゴで空腹を満たそう。一応、みんなのアイテムリストにパンが二・三個あると思うけど、サバイバル状態の今は残しておいた方がいい」

 と言ってアドバイスをする巧実だが、三人は我先に野イチゴのある草原に向かって腹ごしらえをする。

 巧実は、自分が所持している地図を広げ現在地を確認している。

「ところで、町までどのくらいっ?」

 と早希は食べながら言って、地図を広げる巧実に問い掛ける。

 すると、巧実は険しい表情で三人に返答する。

「この世界の時間だと三日くらい……。正直、馬などの乗り物があれば楽になるけど……」

 巧実の返答を聞いた三人は、まだ歩き続けるのかと愕然と肩を落とす。

「仕方ない、初期地点が悪すぎる。せめて、大河があれば川下りできるのだが……」

 と言って巧実は、何もない広大な草原地帯を見渡し落胆する。

「みんなの感覚は一日だと思うけど、現実世界の俺は十分も経過していないぞ」

 と言って巧実が説明すると、三人の感覚は長く感じていることに気づかされる。

 同時に、早希は軽い気持ちで紬久美や彩を誘ったことに後悔し始めた。

 そんな中、草原を見渡す巧実は遠くからやってくる人影に気がつき背負っている大薙刀を抜刀して構え臨戦態勢。

 巧実の臨戦態勢を見た瞬間、装備が不十分な女子三人組は身を寄せ合うしか出来ない。

 ところが、巧実の見た人影は助けを求めるように近づいてくる。

 そして、姿形がハッキリすると機械とゴーレムが混ざり合った異様な大男の姿で誰が見てもホラー要素満載の姿をしている。

「きっ、きゃあぁぁぁ! モっ、モンスターっ?」

 と言って恐怖で顔が強張る紬久美と、同様に怖くて身を寄せ合う早希と彩。

 だが、大薙刀を構える巧実は至って冷静で身を寄せ合う女子三人に説明しながら問う。

機械人メカニクスという種族。設定では、文明が滅んで生き残ったロボットが独自の進化した意思を持ったことになっている。でも、コイツ誰だっ?」

 すると、機械人メカニクスの大男は助けを求めるように返事をしてきた。

「ぼっ、僕だよっ! いつも、ゲーム同好会に勧誘している吉良だよっ!」

 返事を聞いた四人は、吉良の変わり果てた姿に居合わせた誰もが驚きの余り「えぇぇぇっ!」と思わず大声を出してしまう。

「もっ、もしかして、吉良もゲーム画面のアイコンを触ったのか?」

 と巧実が問い掛けると、静かに頷き被害に遭ったことを証言する吉良。

「僕が転送された場所は砂漠地帯で、飲まず食わず彷徨って抜け出したところで君達と合流した。もしかして、お前もアイコンを触れたのか? 本多っ?」

 すると、巧実は首を横に振って自分は違うと主張すると、

「怪しいチャットが届いたけど保留中。今は、三人を町まで道案内している最中だよ」

 と言って厄介者のような目で宗明を見ている。

 そんな中、いきなり宗明は四人に提案を持ち掛ける。

「そうだ、この中でリーダーを決めたらどうだろう? 集まっただけでは何をすればいいのか分からないだろう?」

 宗明の提案を聞いた早希は同感と思い、

「だったら、プレイ時間が長く情報を持っている巧実っちにピッタリじゃない!」

 と言うと紬久美や彩も提案に賛同する。

 ところが、巧実は首を横に振ってリーダー役を拒否する。

「悪いが、これ以上の面倒事に関わりたくない。パスだ、パス1っ!」

 と巧実が不満そうに言うと、何を考えたのか宗明は彩を指差すと、

「だったら、そこの格闘家の女の子と対戦して勝ったら僕がリーダーだ!」

 と言って対戦を仕掛けてきた。

 当然、メカ音痴の上にゲームの経験が皆無である素人の彩は嫌がり困惑する。

 だが、宗明は容赦なく彩に対戦を始めてしまう。

 彩は分からぬまま、宗明の攻撃を必死に避け交わすことしか出来ない。

「きったねーぞ、吉良のヤローッ! アイツ、自分より弱い相手を捕まえ対戦して仲間を増やす姑息な手をよく使ってくるっ! だから、俺が勧誘を断る理由がコレなんだよっ!」

 と言う巧実は、何とかして割り込もうと試みる。

 しかし、割り込む隙が無く仲裁することが出来ない。

「どうするのっ! このままでは、クズ明がリーダーになっちゃうよ!」

 と言って、早希が必要以上に催促してきた。

 焦る巧実の目に、彩の背中に五角形のランドセルのような機械を偶然に発見する。

 よく見たら、小さなランドセル中央にデバイスを差し込む穴を発見し何かが閃く。

「会長、交渉したいことがある。この対戦、俺が彩にレクチャーするのは?」

 と言って交渉を持ち掛ける巧実に、疑問に思った紬久美は警戒しながら用件を聞き出す。

「まさか、とんでもない報酬をふっかけないわよね? 今の私達、お金は無いわよ」

 すると、待ってましたと言わんばかりに要求する巧実。

「金ではない、報酬は会長がリーダー役。俺っ、人をまとめるの苦手だから」

「仕方ないわね。呑むわ、その要求……」

 と返事をして紬久美が応じると、交渉成立と言わんばかりに彩に指示を出す巧実。

「彩っ、何とかして吉良から間合いを離してこっちにっ! レクチャーするっ!」

 彩は首を傾げながらも、自分のすばしっこさを利用して動き回り宗明を翻弄する。

 動きの遅い宗明は、拳を振り回して当てようとするが素早い彩に一発も当たらない。

 最悪なことに、宗明の振り下ろした拳が地面に突き刺さり引き抜けなくなった。

 その隙を利用して巧実のいる場所に来た彩は、

「タク兄っ、何か手があるのっ?」

 と不思議そうな顔で問い掛けてくる。

 すると、巧実は何も言わず彩を強引に振り向かせて背中の穴に何かを差し込む。

 背中に何かを差し込まれた彩は、体中に電気が一瞬走ったような痺れる感覚に襲われる。

 その間、巧実は大薙刀を地面に差してゲーセンの筐体のコンパネに変形させ構える。

「なななっ、何コレっ? 体が勝手に動いているけどっ?」

 と言って混乱する彩だが、怒りで眉間に青筋を立てる巧実は、

「ネカマは俺のポリシーに反するけど、今回ばかりは関係なしだ」

 と言って操作すると、自分の意思とは関係なく彩の体は格闘ゲームに出てきそうな女性武闘家のような機敏な動きを見せる。

 その間、地面から拳を引き抜いた宗明は再び彩に襲い掛かる。

 ところが、巧実に操られる彩は宗明の攻撃をアッサリと避け意図も簡単に返り討ち。

「流石、ゲーマーの巧実っちらしいレクチャーね」

 と言って感心する早稀と、勝ちを確信して余裕の笑みで静かに見届ける紬久美。

 一分後、うつ伏せで気絶する宗明を巧実達四人が取り囲む。

「お見事っ、本多君。引き受けるわ、リーダー役」

 と言って気絶中の宗明の頭を踏みつける紬久美に、仁王立ちで見下ろす巧実は口に出す。

「弱いくせに、悪知恵ばっかり使いやがって。ホント、セコすぎるヤツだな」

 宗明を倒した彩だが、何がどうなっているのか分からず巧実に何度も説明を求める。

 だが、彩に説明を求められても宥めるだけの巧実は何かが閃き提案を持ち掛ける。

「そうだっ! コイツを使えば、三日くらいの長旅を今日の夕方までに短縮できるぞ」

 女子三人組は、気になって巧実の提案を耳打ちで聞き出す。

「それっ、採用っ!」

 と紬久美が快諾すると、気絶する宗明の背中のスロットに何かを差し込む巧実であった。

 昼下がり、意識を取り戻した宗明はイタリアの戦闘偵察車に変身していることに驚く。

 しかも、中には不機嫌で運転する巧実と女子三人組が楽しくおしゃべりしている。

「なっ、なななっ、何じゃこりゃ! 一体、何がどうなってっ? おいっ、本多っ!」

 と大声で叫んで説明を求める宗明だが、

「お前が彩に吹っ掛けた対戦、お前が負けただけだ。下僕だ、今日から俺らのっ!」

 と言って巧実は眉間にシワを寄せ運転するだけで必要以上に説明する事は無い。

 当然、女子三人組にも説明を求める宗明だが説明する者は誰一人として無視される。

 唯一、宗明が知ることは巧実の運転で町に向かうことのみだった。

ご覧いただき有り難うございます。

次回は来週の火曜日の予定です。

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