1-5 疑問だらけの関係
前回の続きになります。
1-1の直後の話です。
「でっ、聞かなくても分かるけど……。結局、彩と同様に誤って「YES」のアイコンに触れたと」
と巧実が問い質すと、女子三人組は頷いて間違いないと主張する。
すると、ため息を吐いて頭を抱えたい気分の巧実だが仕方なく机の上の携帯ゲーム機を手にする。
起動したゲーム機の画面にいる三人の女の子達を見る巧実は、ゴールデンウィーク前で早稀の依頼を思い返す。
「そう言えば、多賀谷から「初心者の女の子達に人気ゲームのレクチャーをして」って頼まれたけど……。まさか、お前達だったんかいっ!」
と言って巧実は、ゲーム画面にいる早希に問い質す。
すると、ボイスチャットから早希の声が嬉しそうに返事をする。
「ピンポーンっ! やっぱ、強者に教えて貰うのが一番よねーっ!」
早希の一言で頭を抱える巧実は、「とんでもない疫病神に捕まってしまった」と言いたそうに項垂れた表情を見せる。
紬久美は、項垂れる巧実を見て怒りを爆発するように八つ当たりする。
「こうなったら、私達が脱出するために手を貸しなさいっ! 本多君っ!」
抑えきれない怒りを露わにする紬久美に、無理難題を押し付けられた気分で困惑する巧実はゲームの世界から出す方法なんて当然知らない。
紬久美のヒステリックな怒りを早希は親密になって、
「紬久美っ、そんな怖い顔したら誰だってドン引きしちゃうって。現に、巧実っちだって脱出する方法なんて知らないはずだよ」
と言って宥めるように説得してくる。
早希の説得で我を取り戻した紬久美は、冷静になって画面の向こうにいる巧実に謝る。
「少し、頭を冷やすべきだったわ。ゴメン、知るはずの無いことを押し付けて……」
紬久美の謝罪で一安心の巧実だが、気になる問題は他にも浮上する。
「気になったけど、何でゲーム機を……? しかも、ゲームをやらないはずの人が?」
と言って気になった巧実は、ゲーム画面の三人に理由を聞き出そうとする。
巧実の疑問を聞いた紬久美と彩は気まずそうな素振りを見せるが、早希だけは相変わらず明るくやる気満々の素振りを見せる。
やる気に満ちた早希を見た巧実は、確証に近づいたと思い再び聞き出す。
「もしかして、誘ったのは多賀谷か?」
「ピンポーンっ。だって、あーし一人だけは面白くないでしょ!」
と早希の即答を聞いた巧実は、頭痛の種が増えた気分で思わず頭を抱えてしまう。
頭を抱える巧実を見た早希は、自分の置かれた状況を気にする素振りを見せず明るく振りまいて声を掛ける。
「なーにっ頭を抱えて悲壮感に慕っているのよ! 死んでないから、悲壮感に浸ってないでポジティブに生きましょうっ! ポジティブにっ!」
だが、巧実は紬久美と彩に同じような疑問を仕掛ける。
すると、真っ先に返答したのは顔馴染みの彩である。
「ゲーム機は、去年ボクの誕生日にお父さんから……。始めたかったのは、クラスメイトや部活の仲間達がゲームのことで盛り上がっているのを見て……」
と正直に話す彩の声は辛そうで、余程話したくなかったと巧実は察する。
「メカ音痴の彩でも、仲間外れになりたくなかったのかプレイを始める理由と」
と巧実が心を見透かすように話し掛けると、彩はモジモジして頷くことしか出来ない。
それに対して、プライドの高い紬久美はというとそっぽを向いて黙秘を貫いている。
ところが、早希が先日の雑誌撮影での出来事を紬久美に変わって話す。
「そう言えば、先日の雑誌撮影で付き添って読モ達と会話に混じったら、紬久美の父親が経営している会社のことで話題になって」
「ちょ、まっ、待ちなさい、早希っ! そのこと、本多君に話すのは絶対にダメっ!」
と言って紬久美はポーカーフェイスが崩れ慌て出すと、巧実は紬久美の父親が経営するゲーム会社のことを思い出す。
「YouKエンタープライズ、生徒会長の父親が代表を務めるゲーム会社。十年ほど前にオンラインRPGのゲームを世に送り出して世界的にヒットし、世界中に会社の名が知れ渡るようになった」
巧実の説明を聞いた瞬間、紬久美は気まずくなりフリーズ状態。
フリーズ状態の紬久美を無視するように早希の証言は続く。
「読モの女の子から、「もしかしてゲーム強いの?」と紬久美に聞いて来たの。紬久美ったら、自分が弱いのに見栄張っちゃって。だから、巧実っちに鍛えて貰おうと思って」
早希の証言を聞いた巧実は、紬久美から聞かなくても何となく想像が出来た。
「なるほど、自分が弱いのに見栄張って引けない状況に追い込まれた。だから、多賀谷が俺を誘ったのは素人同然のゲームの腕を鍛えて貰おうという魂胆があったというわけか」
巧実の言い述べたことを聞いて、図星なのか顔を赤くして黙秘を続ける紬久美。
知られたくなかったことを知られて黙り込む紬久美、疑問が確信へと変わり納得して余裕の笑みを浮かべる巧実。
だが、紬久美がゲーム機を何処で手に入れたのか謎が残っている。
観念したのか、問われる前に仕方なく自供する紬久美。
「オンラインストアーで手に入れたわ……。これだけは言っておく、読モのギャラから捻出したわよ。これは、自分のお金で購入したの。私のはっ!」
まるで、「お父さんにおねだりして購入してない」と言わんばかりに主張しプライドの高い紬久美らしさが見られる。
それに対して、早希は両親からプレゼントで貰ったが事情が違う。
「あーしの場合は、右膝の大怪我で長期入院したでしょ。親が暇つぶしにと思ってプレゼントされたの。最初っ、ゲームに興味がなかったから手を出さなかったけど」
早希の場合、長期の入院生活を強いられ不憫に思った両親から慰めになると思いゲーム機をプレゼントしたようだ。
だが、素人三人をほっとくわけにはいかず巧実は自分のアバターを出現させる。
「さっすが、装備が充実しているーっ! 巧実っちのアバター!」
と言って喜ぶ早希だが、巧実は冷静な態度を崩していない。
「悪いけど、今は俺の指示に従ってくれ。ここで、死にたくなければ」
と淡々と言って、自分のアバターを操作してアドバイザー役に徹する巧実。
紬久美は不満そうな顔を見せると、アドバイザー役の巧実に文句を言う。
「私達の服、今すぐ何とか出来ないの? まるで、原始人か浮浪者みたいじゃない!」
紬久美の不満を聞く巧実は、首を横に振ってため息交じりで言い返す。
「残念だけど、町に着くまでガマンして。今は、サバイバルだから何も出来ない」
装備が充実している巧実に比べて、三人の来ている服は麻のような丈夫な布で出来た作りが簡単なものでベルト代わりの紐で縛っている。
「一応、着ている服は防具だが耐久力が無くなると壊れて消滅する。そうなると、どうなるか想像できる?」
と巧実が説明すると、想像だけで言わずとも理解し赤面して大人しくなる三人。
大人しくなった三人を見て一安心の巧実は、
「まず、石や小枝を拾って基本的な道具を作った方がいい」
と言って地面に落ちている手頃な石や小枝を拾い始める。
巧実の行動を見た三人は、疑問に思いながら手頃な石や小枝を拾う。
手頃な石や小枝を拾った巧実は、アイテムボックスを開いて作りが簡単な石斧とピッケルを完成させ三人に見せると説明する。
「一応、素材を集める際に使用する道具だが硬い素材を採取するとすぐ壊れる。作業台と素材が揃えれば、強い防具を作成できる上に主装備を強化することも出来る。もちろん、上級のアイテムなどを作ることが出来る」
巧実の説明を聞いた三人は、見様見真似で自分のツールを制作する。
不思議なことに、巧実と同様に石斧とピッケルが簡単に出来上がる。
「まずは、石斧で枝や雑草を採取しよう。最低限のサバイバルツールを制作して、村や町を目指して歩いて目指す」
と言って石斧を振り払いながら歩き始める巧実。
疑問に思いながら三人は、巧実の後について行く形で歩き始める。
歩き始めて五分以上が経過すると、周辺は暗くなり始め日が沈み始める。
日が沈み始めたことを気づいた巧実は、近場の洞穴を見つけると三人を誘導する。
「野宿は危険だ。今は、洞穴に隠れて日が昇るまでやり過ごす」
と巧実に言われた三人は、後を付けるように洞穴に入る。
三人全員が洞穴に入るのを確認すると、巧実は洞穴の入り口付近にフェンスゲートやドアを作成して塞ぎ洞穴を部屋にする。
「これで、モンスターが入ってこないはず。後は、焚き火か松明で光源を確保だな」
と言いながら集めた枝などを地面に設置、自分のアイテムボックスから焚き火に必要な火打ち石などを取り出す巧実。
「悪いが、町に到着するまでガマンだ。俺が火を付ける」
と言って巧実は、枝などで完成させた焚き火に火を付けると洞穴が明るくなる。
ゲーム内の女子三人組は焚き火の揺らぐ炎を静かに見つめ、不安な面持ちで同じゲームをプレイする巧実と共に初日の夜を過ごすしかなかった。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。