4-11 現実世界へ
前回の続きになります。
今回の事件の元凶を退治してからの続きになります。
大薙刀を突き刺して消滅プログラムを注入する巧実、暴走OSメシアの本体に変化を目の当たりにする。
なんと、これまで記憶を奪った人物へと次々と変化して風に吹かれた砂のように崩れ始める暴走OSメシアの本体。
その中に、不良三人組と望月先生の姿が巧実の目に入る。
さらに、渦中の人物である宇喜多の姿に変化してトドメを刺した巧実に苦しみながら問い掛けてくる。
「なっ、何故だ……? 混沌とした不安定な世界、完全な我の存在が必要の筈なのに……。何故、我を拒む……?」
すると、巧実は険しい顔を崩すことなく暴走OSの問いに返答する。
「あんたが神だというのなら、雲の上で静かに見守っていればいい。俺は、あんたの願望を叶えるために貫いただけだ」
「我が管理すれば、幾度も繰り返される愚かな争いや幾度も繰り返される過去の過ちを犯すこともなくなるはずだというのに……」
と苦しみながら主張を言う暴走OSに、真顔で完全否定する巧実。
「どんなに優秀な独裁者が支配しても、どんなに絶対的な権力を誇る王が君臨しても、結局は些細な出来事や僅かなほころびで世の中は必ず変わり始める。現に、歴史が証明している。今、この世界に必要なのは絶大な管理者ではなく共感して意見を言い合う理解者だ」
巧実の大薙刀に貫かれ苦しんでいるというのに、相手の心理を揺さぶる悪足掻きを言い出す暴走OSメシア。
「このままでは、お主も無事では済まぬ……。我を倒せば、お主は取り残される……。どうする、お主はこの後どうする……?」
「残念だが、その心配は不要だっ!」
と即座に言う巧実は、大薙刀を手放すことなく確実に仕留めるべく深々と突き刺す。
巧実の一言で自分の敗北だと悟った暴走OSメシアは、
「今回は……我の負けだ……。だが、これだけは忘れるな。そう遠くない日に人類以上の賢者が必ず現れる。その中に、我と同じ結論を出す者が……。ぐわぁぁぁっ!」
と言い残し野球ボールのサイズまで急に小さくなる暴走OSメシア。
そして、ビッグバンのように大爆発を引き起こし暴走OSメシアは消滅する。
その爆風は凄まじく、巧実の体はブラックホールのような渦から吹き飛ばされる。
本体が消滅と同時に、巨大化した暴走OSの端末は風に吹き飛ばされた砂のように跡形もなく崩れ去る。
巧実が吹き飛ばされる様子を目の当たりにした紬久美は、翼竜を急旋回させて救い出そうスピードを上げる。
ところが、紬久美や仲間達の体からルーン文字のような光の糸が出現する。
「なっ、何コレっ? こんな大事なときにっ?」
と言って困惑する紬久美だが、何故か自分の体が遠くへ飛ばされる感覚に襲われる。
紬久美の目に、プレイでエディットした自分のアバターが離れて行く光景が入る。
それでも手を伸ばして救い出そうとするが、目映い光に視覚を奪われ巧実から離れて行くのであった……。
しばらくして、視力が復活すると目の前に広がるのは真っ暗な闇。
何故か肌寒く感じた紬久美は自分の身形を見ると、太ももが露わなホットパンツとキャミソールの部屋着姿。
気になって耳を触ったら、エルフ特有の尖った耳ではなく一般的な人の耳に戻っていた。
そんな中、宗明の声が紬久美の耳に届いてくる。
「みんな、僕の姿が元に戻っているっ!」
その一言に反応した紬久美や仲間達は、宗明のいる人工の池に集合する。
気になったのか、水面を鏡にして自分の姿を確認すると誰もが失踪前の姿に戻っている。
彩は巧実の自室に駆け寄る当時の服装へ、早希はタンクトップとホットパンツの部屋着姿、未琴はロングのワンピースタイプの部屋着姿。
そして、真っ先に自分の姿に確認した宗明はジーンズを中心とした外行き姿で仲間の中では唯一スニーカーを履いている。
元の姿に戻ったことで、現実世界に戻ったことを確信する紬久美や仲間達。
「でも……、ここ何処……?」
と言って早希は、不安な表情で周囲を見渡すと誰もが反応して見渡し始める。
周囲を見渡したとき、何処かで見慣れたロゴマークの大看板を発見する紬久美。
「YouKエンタープライズ……? もしかして、パパの会社……?」
周囲が明るくなると、紬久美が見慣れた建物と中央付近の庭園が広がる。
頭上には、プロジェクターから映し出されるゲーム画面と動かない自分達のアバターと壊れた石像の群れに加え巨大戦艦の残骸が残っている。
そして、会社の社長でもあり父親である智晴の姿が目に入った紬久美は思わず駆け寄り、
「ごっ、ゴメンナサイっ! 心配させて本当にゴメンナサイっ、パパっ!」
と言って抱きついて何度も謝る。
智晴は、何も言わず子供のように泣きじゃくる紬久美の頭を撫で微笑む。
よく見ると、失踪者の関係者が本社前に集合している。
紬久美のように駆け寄る者もいれば、気まずくなって逃げ出そうとする者も現れる。
泣きながら再会を喜び合う者達もいれば、叱られて肩身の狭い思いを強いられる者達。
そして、追いかけっこを繰り広げる者達。
再会を喜び合う中、全く動かない巧実のアバターを見て不安な表情見せる紬久美は、
「たっ、巧実君が、ゲームの中に取り残されてっ!」
と父親である智晴に必死に訴える。
ところが、笑顔を見せる智晴はゆっくり首を後ろに振り向いた。
なんと、智晴の視線の先には業務用のゲーム機の前に立つ巧実の姿が紬久美や仲間達の目に入る。
「実は、社長から口止めされて……」
と言って困った表情を見せる巧実を見た瞬間、勝手に消滅プログラムのデバイスメモリを奪って暴走OS消滅に自ら志願したのが何故か聞かなくても理解する仲間達。
「だったら早く言ってよ、このバカヲタクっ! 私達、どれだけ心配したかっ!」
と言って怒る紬久美だが、安堵したのか目を潤ませる。
そんな中、真っ先に巧実の懐に飛びついた彩はポカポカと胸板を何度も叩きながら涙混じりに文句を言う。
「バカッ、バカバカっ! ボクっ、タク兄が一生戻ってこないのかと……」
「イッ、イテテッ! 彩っ、チョットは手加減してくれ……」
と言って彩の頭を撫でる巧実は、周囲を見渡し失踪した人々が無事に現実世界に戻ってきたことを実感する。
気がつけば、辺りは暗くビル群の窓に明かりが灯る。
事件に巻き込まれて一週間くらいだが、不思議なことにゲームの世界に転送された人々は一年どころか二年以上の時が経過したのかと錯覚している。
しかし、現実世界では一週間程度の時間しか経過していない。
この一週間、現実世界との板挟み状態でゲームをプレイしながら事件解決のために色々と動き回って奮闘してきた巧実。
その様子を見守っていた香苗は、
「巧実、家に帰ったら何が食べたい? 奮発するからっ!」
と言って髪型が崩れるくらいに巧実の頭を思いっきり撫でる。
「チョット、首が変になるから止めてって。母さんっ!」
と言いながらも困りながらも笑顔を見せる巧実は、気になってスマホの画面を確認する。
スマホの画面を見たとき、あの事件の元凶である謎のチャットが何事もなかったように消滅している。
しかも、その履歴などの痕跡すら全く残っていない。
間違いなく、暴走OSメシアを討伐したことで全てが消えたに違いない。
当然、どのようにしてゲームの世界に転送が出来たのか。
そして、偶然とは故どのようにして現実世界に戻れるのか原理すら謎を残したまま……。
「いやっ、知らない方がマシな気がする……。今の俺達には、手に負えない代物かも……」
と言って巧実は、このままロストテクノロジーになることを心から望んだ。
そんな中、周囲を見渡して祖父である重信の姿がいないことに気がつく巧実は、
「あれっ、ジッチャンの姿が……? 絶対、現実世界に戻ってきている筈なのに……?」
と言って泣きじゃくる彩を抱いて慰めながら目で追い掛ける。
そのとき、背後から重信の怒号が巧実の背後から聞こえてくる。
「この若造が、未完成のデータを盗んで勝手に売ったから大事に発展したのじゃぞっ!」
当然、宇喜多が怒号で反論する。
「お前みたいな老いぼれに若造と呼ばれたくないっ! 少しは、販売延期の対応で苦労するこっちの身にもなれっ!」
気になって振り向くと、会社のエントランス前で三年前に失踪した当時の服装をした重信とスーツ姿の宇喜多が面と面と向き合っていがみ合っている。
現実世界に戻って解決したかと思ったら、また揉め事に巻き込まれるのかと頭を抱える巧実は仲間達と共に固唾を呑んで様子を見ることしか出来なかった……。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。




