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1-4 事件の始まり

前回の続きになります。

1-1の手前になる話です。

 ゴールデンウイーク初日、強引な早稀の依頼を受けた巧実は自室で通信を待ち受ける。

 巧実の住む家は、窓を開けると東京スカイツリーが見え近場では浅草寺がある。

(早希のチャットでは、メンバーは三人で全員が女の子。しかも、ゲームは世界中で流行っているサンドボックス型RPGゲームと聞いているけど……)

 と思う巧実は、何処か浮かない顔で乗る気ではなかった。

 乗る気でない巧実は、自室の窓を開けてスカイツリーが見える青空を眺める。

 三階建ての家は、鉄筋コンクリートと木造のハイブリッドで一階は母が経営する鉄板焼き専門店、二階と三階はリビングなどの生活空間である。

 本来、三階は父の仕事場兼書斎であったが仕事で世界中を飛び回り帰宅するのは年に四・五回程度で、今は巧実の自室として使用されている。

 巧実の自室は、畳が敷かれた和室で助っ人屋で手に入れたバイト代で購入したゲーミングパソコンや様々なゲーム機が机の上に置かれ彼がゲーマーである事を物語っている。

 本棚には教科書や参考書に加え、誰も見向きもしなさそうな専門書が収められている。

 その中に、父の書斎であった名残として数冊の建築関係の書籍が残されている。

 巧実は手持ちの携帯ゲーム機を起動して、早希のボイスチャットが来るのを待ち続ける。

 ところが、予定の時間が来たというのにチャットが来ない。

(まさか、早希のヤツ忘れたわけじゃないだろうな? それにしても、遅くなるなら一言連絡ぐらい入れて欲しいけど……)

 と思う巧実の表情は険しく、早希の依頼がウソではないかと疑っている。

 そんな中、彩が青ざめた表情で巧実の部屋に雪崩れ込むように突然入ってきた。

 突然入ってきた彩を見て巧実は驚いて、

「ちょ、チョット待てっ! 彩、何があったのか? まさか、勉強教えてっ?」

 と言って動揺を隠せない状態で聞き出そうとする。

 ところが、彩の返答は巧実だけで無く一般の常識では想像できない内容だった。

「かっ、会長と、早希さんが……、ゲームの中に……!」

 と彩は息を切らせて話すと、巧実は理解できず頭の中が混乱する。

 彩の話したことを疑う巧実は疑問に思って、

「彩っ、いくらメカ音痴で脳筋でもあり得ない話だ。もしかしたら、うたた寝している最中に変な夢でビックリしたんじゃ?」

 と言って疑うように再び聞き出す。

 そんな中、ゲーム機のボイスチャットから女性の声が聞こえている。

「本多君、信じられないけど本当よ。全て」

 なんと、声の主は普段から巧実を目の敵にする生徒会長の紬久美である。

 紬久美の声を聞いた瞬間、ゲーム嫌いの筈なのに何故ボイスチャットをしているのか疑問で頭の中がパニックになる巧実。

 さらに、追い打ちを掛けるようにボイスチャットに早希の声が聞こえてくる。

「巧実っち、最近ウワサの都市伝説みたいな事件に巻き込まれたみたい。あーし達っ!」

 都市伝説とワードを聞いた瞬間、何かを思い出す巧実は疑う素振りを見せながらも最近聞いた噂を疑問に思ったのか首を傾げながら話す。

「もしかして、プレイしている最中に届いた謎のチャットを開いたら突然消えるヤツっ? たしか、販売している会社側は「都市伝説」と言ってデマを主張しているけど?」

 巧実の噂話を聞いた彩は慌てふためきながらも手持ちの携帯型のゲーム機を取り出し、

「これっ、このチャットがゲームしている最中に突然来たのっ!」

 と言って画面のチャットに指を差して強調する。

 そのとき、アイコンを偶然に触ってしまったらしくゲーム機から目映い光を放ちルーン文字に似た光の文字が彩を繭のように包み込む。

 光のルーン文字に包み込まれた彩は、頭がパニック状態で身動きが取れない。

 彩の異変に気づいた巧実は彩を助け出そうと手を伸ばすが、光の文字から謎の電気を突然放ち救出を阻止する。

 それでも、巧実は彩を救出しようと必死に手を伸ばす。

 彩も必死になって手を伸ばして巧実の手を掴もうとするが、光の文字が壁のように阻み掴むことが出来ない。

 無情にも光の文字が、包み込む彩を足下から光へと変換して消し去って行く。

 光となって消えゆく彩、無我夢中で手を伸ばし救出しようとする巧実。

 だが、無情にも彩は光の文字の出所である携帯ゲーム機へと消えてしまった。

 その光景を目撃した巧実の足下に残されてもの、彩が持ってきた携帯型のゲーム機のみ。

「まっ、まさか、デマだと思っていた都市伝説が本当だなんて……」

 と思わず言ってしまう巧実は、呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

 そんな中、ボイスチャットから彩の声が聞こえてくる。

「たっ、タク兄っ、ボクどうしちゃったの? 教えて、ここ何処なのっ?」

 声を聞いた瞬間、彩はパニック状態で状況が把握できていない。

 巧実はボイスチャットで彩に必死に話し掛ける。

「とにかく今は落ち着いて、彩っ! 周囲の状況はっ? 他に誰がいるっ?」

 すると、彩は不安な声で周囲の状況を話し出す。

「うん、辺りは木々のある草原で大きな川もあるけど……。って、誰っ? 知らない人達がボクのところに近寄ってくるっ!」

 彩の驚く声に反応した巧実だが、彩が何処にいるのか想像が出来ない。

 そんな中、ボイスチャットから紬久美の声が聞こえ驚く彩に話し掛けてくる。

「今は信じられないけど、今の私と早希よ」

 そのとき、巧実は疑いながらも予定していたゲームを起動すると異なる種族の女性キャラ三人が大きな河川のある草原に立ち尽くす。

「もっ、もしかしてっ、会長っ? その隣が、多賀谷っ?」

 と言って巧実は三人の女性キャラを見た瞬間、驚きで何がどうなっているのか理解することが出来ない状態。

 それでも、深呼吸して状況の把握に徹した巧実は三人の女性キャラの容姿を観察する。

 一人は三人の中では背丈があり先細りの長い耳が特徴で弓を背負う金髪のストレートロングな女性、もう一人は一般的な背丈で褐色の女性で髪はピンクのサイドポニーで腰にショートソードをぶら下げている。

 そして、最後の一人は少し小柄で身軽そうなボーイッシュなショートヘアの女性で携帯する装備は何もない。

 巧実は戦々恐々の面持ちで、種族の違う三人を一人一人言い当てる。

「ハイエルフの女の子は、もしかして生徒会長っ? でも、何でゲーム嫌いの会長がっ?」

「そうよ、あなたとは因縁のある生徒会長よ。言わないで、人をお化けみたいに」

 と紬久美は、巧実の質問に不服そうに返事をする。

 次に、褐色の女盗賊シーフが誰か言い当てる巧実。

「盗賊姿の女の子って、多賀谷かっ?」

「ピンポーン、やっぱり勘がいいわね。巧実っち!」

 と速攻で返事をして、異常な状況にも拘わらず明るくキャピキャピしている早希。

 聞き敵情だというのに空気を読まない早希のポジティブ思考に、「どこにエネルギーが有り余っている?」と聞きたくなるくらい偏頭痛に襲われる巧実。

「そして、リーブットの格闘家女子は彩か……」

 と言って巧実は、ゲームキャラとなった彩の姿を見て困惑した表情を見せる。

 巧実の声に反応した彩は、理解できないのか不安な声で返事をする。

「なっ、何っ、リーブットって? それに、ボクだけ手ぶらなのはどうしてっ?」

 巧実は彩の疑問に答えるように画面の向こうの三人に話し掛ける。

「リーブットは小柄で動きの素早い種族。たしか、英単語で機敏の『ニンブル』と足の『フット』を掛け合わせて早口で言ったのが由来と何処かで耳にした事が……」

「タク兄っ、何でボクだけ手ぶら? 会長や早希さんは何かしら武器持っているのに?」

「それは、彩のキャラが格闘家を選択したからだよ。その証拠に、今装着しているオープンフィンガーグローブが彩の主武装メインウエポンだ」

 巧実の説明を聞いた彩は自分の装着している両手のグローブを見ながら、

「……これが、ボクの主装備……?」

 と言って顔を曇らせ先行きの不安を募らせる。

「一応、蹴り技も武器の一つ。けど、何で格闘家を選択したっ?」

 と言って巧実が心配で聞き出そうとすると、彩は恥ずかしそうに返事をする。

「ボク、スマホの機能を満足に扱えないくらいメカ音痴でしょ。だから、格闘家だったら難しい武器を扱わずに済むと思って……」

 現実世界にいる巧実は、話を聞いて脳筋の彩らしいと思って笑いを堪える。

 だが、本題は信じられない出来事を巧実は間近で目撃したこと。

 今も目を疑う巧実は、映画のワンシーンを振り返るように否応なく思い返してしまう。

 足下に残された彩のゲーム機、巧実のゲーム機から聞こえる三人の女子の声、巧実が事件に巻き込まれた初日の出来事と同時に、現実とゲームの世界を行き交う日々の始まりであった……。


ご覧いただき有り難うございます。

次回は来週の火曜日を予定しています。

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