2-10 黒装束の正体
この章の最終回になります。
主人公が先に潜入した仲間達を救出する回となっています。
チヌークに変身中の宗明を残した巧実は、巨大な飛行物体と化した地下拠点の真っ平らなカタパルトの空いているマンホールから潜入する。
地下拠点の主である巧実にとって、拠点内の通路を通り抜けるのは容易く紬久美達三人や祖父である重信の向かう先が想像できたが思わぬ障害が待ち受けていた。
それは、紬久美達三人のレイアウト変更などの勝手な改造で迷路化した通路。
「彼奴ら、俺がいない間に好き勝手にイジりやがって……」
と不満を呟きながらも、現状を考慮して何処へ向かっているのか見当がつく巧実。
「恐らく、艦橋か機関室ってとこかな。とにかく、合流しなければ」
と言って、焦りを見せながらも艦橋に向かう巧実は足音を立てることはなかった。
何故か主装備の大薙刀ではなく、普段から副武装として愛用している小回りの利く短剣を手にして自分の脳内にあるレイアウト図を頼りに先に潜入した女子三人組と重信と合流を目指す。
しかし、迷路化した通路が行く手を阻む。
焦る巧実、迷路のような拠点内の通路、無情にも時間だけが過ぎる。
警戒しながら拠点内を探索すると、自分の臀部に何か柔らかい何かが偶然に当たり短剣を向ける巧実。
「たっ、タク兄っ、剣こっちに向けないでっ! 危ないからっ!」
と思わず言って注意する彩の声で、緊張の糸が少しほどける巧実は思わず喋る。
「なんだ、彩か……。こっちこそ驚かさないでくれ……」
どうやら、探索中に彩のお尻に偶然当たったようだ。
だが、彩以外の仲間のことが心配になって巧実は合流したばかりの彩に聞く。
「彩っ、ジッチャンやリーダー達はっ? まさか、はぐれたとかっ?」
すると、彩は首を横に振って返事をする。
「隣の部屋に隠れているよ。行き先、分からなくなって……」
まさか、改造した本人達が迷子になるとは驚きを通り越して唖然とするしかない巧実。
逆に考えたら、身の安全を優先したおかげで間に合ったと思える。
「現実世界で、望月先生が俺と母さんの目の前で消えたっ! もしかしたら、ゲームの世界に出現しているに違いないっ!」
と言って、現実世界での出来事を簡潔に説明する巧実。
目を疑って驚く彩は、一大事と判断して仲間達が身を隠している部屋に案内する。
何とか合流できた巧実の目には、気まずそうな顔の紬久美と不安な表情の早希。
そして、相変わらず重苦しい表情を前髪で隠している重信が立ち尽くす。
彩が巧実から聞いた現実世界での出来事をみんなに話した瞬間、紬久美と早希は驚きの余り言葉を失い重信は顔を曇らせる。
「巧実っ、詳しく聞きたいが緊急事態じゃ! とにかく、先を急がねばっ!」
と重信が言葉に出すが、何処へ行けばいいのか全く見当がつかない。
巧実は、気まずそうな顔をしている紬久美に自分が去った後のことを聞き出す。
すると、紬久美は気まずい表情で温泉スパ施設に改装することを話し出す。
「最上階のスイッチだらけでガラス張りの大部屋、眺望がいいから温泉スパ施設に改装すれば最高のリフレッシュになると思って未琴に計画を打ち明けたの。まさか、この地下拠点が本当に浮かぶなんて思っていなかったから」
話を聞いて巧実は、頭痛がしてきて複雑な表情を見せながらも再び紬久美に聞き出す。
「はぁ、艦橋を温泉スパ施設……。でっ、計画を話した後どうしたっ?」
「宗明君が収穫の追いつけなくて手伝いに……。そのとき、未琴さんが内装の解体を志願したので任せていったわ」
と紬久美が話した瞬間、拠点が浮上した原因が艦橋だと確信した巧実は武器を主装備である大薙刀に切り替え最上部を目指す。
レイアウトが変わっても、最上部の艦橋のルートは分かるのか迷いがない。
潜入した女子三人組や重信も、迷いのない巧実の後を追う形で最上部を目指す。
数分後、最上階の艦橋に辿り着くと黒装束の人物に襲われ尻餅をついた状態で後退りする望月先生の様子が目に入る。
その光景を目の当たりにした女子三人組と重信は望月先生を救出しようとするが、何故か巧実が静止するように我先に出て黒装束姿の人物へ奇襲を仕掛ける。
黒装束の人物は巧実の奇襲に気がつき、手にしている大剣を上段に構え振り下ろす。
ところが、上段から振り下ろす大剣が天井に引っ掛かり身動きが奪われた。
好気と思った巧実は、大薙刀の石突きで鳩尾を狙い強烈な突きを入れる。
当然、強烈に鳩尾を突かれた黒装束姿の人物は腹部を押さえながら床にうずくまる。
「ありがとう、本多君。助かったわ……」
と望月先生が言って笑顔で感謝するが、巧実は穂先を向け険しい目で睨み付ける。
女子三人組は最初、巧実が血迷ったと思って身を乗り出すように飛び出す。
そのとき、巧実は穂先を向けながら疑いの目で望月先生に問い質す。
「現実世界、自宅の店舗で消えたとき残されたスマホにゲーム画面が映っていた。先生、他人を多く巻き込んで何を企んでいるっ?」
巧実の発言を聞いた彩は、詳しくは聞いてないが現実世界で起きた事件を思い出すと危険を察知したのか武器を構える巧実の背後に隠れるように身構える。
彩の回避行動に困惑する紬久美と早希の二人は、誰が正しいのか誰が危険なのか分からず困惑した表情を見せる。
そのとき、望月先生がゆっくりと立ち上がり長い黒髪が銀髪へと次第に変化する。
目が赤く輝いた瞬間、機械的な口調で望月先生は喋る。
「出でよ、我が僕達。この船を占拠するのだ」
すると、望月先生の背後から空間の歪みが発生して覆面を被った謎の人達が姿を現す。
(不味い、分が悪すぎる……!)
と思って危険を察知した巧実は蹲る黒装束の人物の腕を鷲掴みにして、自分の後ろに隠れる彩を庇うような形でジリジリと右横に移動する。
移動先の床には、一メートル四方の繋ぎ目が薄らと見える。
巧実が何をしようと察知した重信は、呆然と立ち尽くす紬久美と早希の二人の手を掴んで素早く移動する。
一メートル四方に集まると巧実は床に仕込んだスイッチを押した瞬間、急に床が抜け落下するように下降する。
万が一を備えて、巧実は拠点の建設時に脱出用のエレベータを設置していたのだ。
「拠点を放棄っ、みんな脱出するっ!」
と言ってエレベータが急に止まると、手元のレバーを引いて脱出ハッチを開く巧実。
手元のレバーを引くと爆風でハッチが吹き飛び、女子三人組は突然の状況に悲鳴を上げる暇無く目を丸くするしかない。
ハッチが吹き飛んだ瞬間、巧実は黒装束姿の人物を肩に担ぎ上げると外へ駆け出す。
無意識に外へ出る女子三人組、守るような形で追従する重信。
外に出ると、待機していたチヌークに変身する宗明に急いで乗り込む。
「脱出だっ! 急いで浮上しろ、吉良っ!」
と巧実が叫ぶと、切羽詰まった状況を理解して浮上する宗明。
拠点を離れると、肩に担いだ黒装束姿の人物を静かに下ろし強引に黒装束を引き剥がす。
すると、引き剥がした黒装束からビキニアーマー姿の女剣士が姿を現す。
居合わせた仲間達は驚くが、意外と冷静な巧実は謎の女剣士のヘルムを取り去る。
取り去られたヘルムから意識を失っている未琴の素顔が現れ、黒装束姿の人物の正体が身近にいたなんて誰もが想定外で言葉を失う。
だが、巧実の口から今回の事件の核心に触れる意外なことを言い出す。
「恐らく、誰かの影武者ってとこかな。謎が残るけど、望月先生が鍵を握っている筈」
巧実の発言で、騒然となる仲間達は言葉を失う。
そんな中、未琴が赤く淀んだ目を開いて起き上がろうとする。
巧実は、未琴の背中に挿入されたデバイスメモリを強引に引き抜く。
すると、未琴の体が電気に痺れたように小刻みに震え再び意識を失い倒れる。
巧実の手には、重信と同様の謎のデバイスメモリ。
「これで、立花を洗脳したに違いない。再び目覚めたら、洗脳が解ける筈だけど」
と巧実が自分の推測を話すと、仲間の誰もが固唾を呑んでデバイスメモリを見る。
その時、デバイスメモリが急に赤く点滅する。
危険を感じた巧実は、離れ行く拠点に目掛けてデバイスメモリを投げ捨てた。
一分後、カタパルトに巨大な落雷で巨大な風穴が開き拠点が墜落する。
墜落する拠点を見下ろし巧実は、思考停止中の紬久美に代わって宗明に指示を出す。
「出来るだけ遠くに、山岳地帯の谷間か洞窟などに身を隠すぞ」
宗明は何も聞くことなく、変身したチヌークで墜落する拠点から離脱するのであった。
こうして、逃げ延びた仲間達は洞窟内で焚き火を囲んで肩を落とす。
「ゴメン、ログアウトして様子を見てくる。詳しくは、再びログインしてから」
と言う巧実は、現実世界の状況が気になりログアウトする。
ログアウトした巧実は、何故か背後に異様なオーラを感じて恐る恐る振り向く。
背後には、仁王立ちで怖い顔で巧実を睨み付ける香苗の姿であった。
「巧実っ、詳しく聞くから正直に答えなさい」
と言って問い詰める異様な圧力の香苗の姿に、言い逃れできる状況でないと観念して今までの出来事を正直に話すしかない巧実であった。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。
次回は番外編です。




