表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ハッピーエンド



 世界から、人が消えた。


 比喩ではない。


 道路にも車一台通っていない。路線が混在していて終日賑わっている駅にも、人はいない。先ほど商業施設も覗いた。が、結果は同じ。


 これは夢か? と思い頬を(いじ)るが、じわりと感じる痛みが、現実であると示している。


 今の状況が全く()み取れない俺は、必死に記憶を呼び起こす。


 しかし、出てくるのは変わりもない日常の映像だけだった。


 仕事を終え、帰宅をして、残業だらけの日々の鬱憤をビールの泡で解消し——気付けばここにいる。


 知らぬ間に、世界は俺一人になっていた。


 その時、背後から高いとも低いとも分別できない声がする。


「やーっと見つけましたよ」


 虚無感に(さいな)まれ始めていた俺は、即座に振り返る。


 そこには、優しい笑みを浮かべた紳士服姿の若い男が立っていて、彼は自らのことを「死神」と名乗った。


「いやー、本人が気づかないうちに死ぬと、人間界でも、黄泉(よみ)でもないところに魂が彷徨(さまよ)っちゃうことがあるんですよ。分かりやすく言うと——そうですね、『バグる』って言葉あるでしょ、あんな感じです」


 表情を崩さないまま滞りなく、彼は述べ続ける。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俺は理解できないまま、慌てて彼の口から歌のように出てくる言葉を制止した。


「死ぬとか、黄泉とか、なんの話だよ?」


「あぁ、あなたは車を運転していて、交差点で衝突事故に遭い、即死されたんです。すみません、それを最初に伝えるべきでしたね」


 今俺は、何を謝られたんだ? 俺が死んだだって?


 死、という単語が頭の中で渦巻く。


「いくら悩まれても、事実は事実ですから」


 いや、いきなりそんなこと言われても。俺だってまだ——まだ?


 まだ……なんだ? 俺には、やりたいこともなければ、大切な存在もいない。


 ただの社畜でしかないのだから、生きることに未練など、あるはずなかった。


 あの世で暮らせるなら、その方がよっぽど幸せかもしれない。


「俺はずっと、この世界で彷徨ったままなのか?」


 提供された事実を受け入れた俺は、率直な疑問を彼にぶつける。


「いえ、今しがたあなたに死を自覚させたので、もう間もなく成仏できますよ」


 その答えを聞いた俺は、久々に高揚感を得る。


「そうか、こんな孤独な世界はこりごりだ。早く天国へ案内してくれ」


 そこで彼は初めて、表情を転換させて俺に接し始めた。


「んー、それは無理ですね。あなた、飲酒運転したでしょ? それで信号無視をしたところに、相手の車がドーン、と。向こうの方も死んでるので、立派な殺人なんですよ。あ、人間界の法律なんて関係ありませんよ。大事なのは、あなたの行いが『起因』となって、人が死んだか否か、ですから。さぁ、地獄へ行きましょう。安心してください、あなたの罪は比較的軽いですから、ざっと千年もすれば、天国に行けますよ」





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


感想や☆☆☆☆☆の評価をもらえると、作者、とても喜びますので、お手数ですがよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ