夜ふかしペンギンの配信生活は終了しました
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「あなた、目にシロクマができてるわよ」
「ああ、ちょっと仕事がいそがしいせいペン」
オレは嫁ペンギンにウソをついてしまったペン。
オレはどこにでもいる社畜のペンギンだペン。南極の大手商社に勤めているペン。
素敵な嫁と見事にプロポーズして結婚でき、充実した日々を送っているペン。
けれど、お嫁さんに隠していることがあるペン……。
『あ、しゃちペンさん! いらっしゃーい』
配信アプリ上で話しかけてくれる、元気いっぱいの桃色のペンギンガール。
この配信アプリ『ネッピー』(ネットピープルの略)にハマって早数ヶ月――。
過酷な南極のペンギン社会の癒やし、それがお気に入りの配信者モモペンさん(仮称)。
『しゃちペンさん! いつもモモペンを応援してくれてありがとー!』
▽『今月も☆2バッジ止まりの課金でごめんペン』
『ううん! リアルだいじに! そーんなこと気にしちゃダメだよ、しゃちペンさん!』
モモペンさんはとても素敵な人なんだペン。
けれどオレはガチ恋してるわけじゃないペン。あくまで愛しているのは嫁ペンだペン。
しかし――、それはそれ、これはこれペン。
推し活くらい今どきのペンギン社会、そんなに珍しいことじゃないペン。
けれど……どこか後ろめたさがあるペン。
「……あなた、やっぱり寝不足よね?」
「そ、そうペン?」
「じーーーー……」
視線が鋭いペン。
まるで海中の小魚をくちばしで捕らえて狩る直前のようだペン。
オレは恐怖したペン。
モモペンさんと毎日、ベッドの中で語らっていることがバレそうだペン――!
ごごご、誤解しないでほしいペン!
モモペンさんとはなんにもないペン! 課金だって一ヶ月に小魚10匹分までペン。
けど、けどぉ……。
寝不足になるまで、ピンク色のメスペンギンとおしゃべりしてるのは事実ペン……。
「ゲームのやりすぎ、気をつけてね」
「は、はい、気をつけるペン」
オレは夕食の魚をおえーっと吐き出しそうになるほど追い詰められたペン。
今はまだスマホでゲームをしていると思ってくれてるペン。
もしバレたらと思ったら生きた心地がしないペン。
でも、やめられない、とまらないんだペン――!
ある日のことペン。
オレはとても疲れていて、うっかり配信中に寝てしまったペン。
『あれ? しゃちペンさん寝ちゃったのかな? おーい?』
オレは睡魔に負けたペン。
夜ふかしせずに寝るのはむしろ良いことだペン。
できればずっと楽しく配信を聴いていたかったけど、やむをえないことペン。
でも――。
やさしい嫁ペンギンは、オレのことを心配して、寝室に様子を見に来てくれたんだペン。
ぺち、ぺち、ぺち、ぺち。
廊下を歩く嫁ペンの足音が、オレの悪夢の中で響いたペン。
翌朝のことだペン。
「――ねえ、あなた」
「な、なにペン?」
「ねえ、だれ? あのピンクのうるさいメスペンギン」
オレは凍りついたペン。
南極の氷の大地に住むペンギンだって、血も凍る恐怖を味わうことがあるんだペン。
『ねえハムスターさん、最近、しゃちペンさん来ないね? どうしたのかなぁ?』
▽「さぁ? 夜ふかしせずに寝てるんじゃない?」
■しゃちペンさんが入室しました。
『あ、しゃちペンさん! いらっしゃーい! こんモモー! 元気ー?』
▽「こんモモー」▽「こんモモー」
▽「……元気ですよ、とっても」
『しゃちペンさん? あれ? しゃちペン、さん……だよね?』
▽「はじめまして。嫁ペンです」
■夜ふかしペンギンの配信生活は終了しました
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