5.ニケの事情。
なんか夜っぽい話なので、夜に更新しときます。
次回更新は、7時に。
「ふえ~……もう、呑めないよほほほほほ」
「寝言を言いながら、気味の悪い声で笑ってる……」
すっかり暗くなった頃合い。
いよいよニケは完全に出来上がってしまったので、私は両親の待つ宿へ帰るに帰れなくなっていた。すると、そんなこちらを見かねたのか。ダスクさんが呆れたように笑いながら、声をかけてくれた。
「お前さんは、もう帰りな。子供には過ぎた時間だ」
「あ、また! そうやって子供扱いするんですか!?」
「扱いもなにも、お前さんはまだ十五だろうが」
「……むー…………」
それにあえて食って掛かると、意外に良い反応をしてくれる。
思いの外に、根の良い人なのかもしれない。
「おい、起きろ。そろそろ帰るぞ、ニケ」
「やあ……! 一人にしないでー……!」
「……ったく、寝ぼけてやがる」
そんな彼が肩を叩くと、ニケはしな垂れかかるように絡んでいた。
ずいぶんと慣れた様子なので、私はふと訊ねる。
「ニケさん、ってもう冒険者になって長いんですか?」
「ん……?」
すると、ダスクさんは首を傾げつつ答えた。
「いいや、そうでもねぇさ。経歴も一切不明――話に聞いているのは、冒険者になるまで世界各地を転々としていた、ってことだけだな」
「世界を転々、ですか?」
「あぁ、そうさ。……言っちゃなんだが、ハーフエルフだからな」
そこで私は引っかかりを覚え、重ねて訊ねてみる。
「ハーフエルフだと、どうして?」
「……お前、意外と世間知らずか」
「え……?」
その問いかけに対して、眉をひそめたダスクさん。
彼は周囲の視線を確認してから、私だけに聞こえる声量でこう語った。
「俺はそうでもねぇが、ハーフエルフって人種は忌み嫌われているんだ。場所によっちゃ、見つかり次第に火炙り、ってこともあり得る」
「そんな……!」
思いもしない話に、思わず声を上げる。
でもすぐに、口を手で覆って周囲を確認した。
どうやら他の冒険者の人々は、自分たちの酒に夢中らしい。
「そんな中で、冒険者ってのは良くも悪くも実力主義社会だ。力さえあれば重宝こそされ、邪険にされることは滅多にない。それでも、なかなかパーティーは組めないらしいが」
「…………ニケは、ずっと一人なんですか?」
「あー……そうだな。夜になると、決まって浴びるように飲んでるよ」
「…………」
そこで不意に、彼女が酔っ払いながら口にした言葉を思い出した。
『一人にしないで』
もしかしたらそれは、ニケの抱えている本音なのかもしれない。
私は彼女の言葉を反芻しながら、考えた。そして、
「だったら、私とパーティーを組めば問題ないですね!」――と。
ほとんど間を置かず、そう宣言していた。
元々そのつもりだった。というのもあるけど、それ以上に放っておけない。
「へっ……お前さん――いや、アリス。そうだな、俺からも頼むぜ」
「任せてください!!」
すると、どこかダスクさんも嬉しそうにそう返した。
私は拳を強く握り、しっかりと頷く。
こうして、冒険者初日の夜は更けていく。
達成感と疲労感、そして若干の悲哀さえ感じながら――。
「それじゃ、相棒の後始末を頼むぜ。……アリス?」
「……ほえ?」
「俺はこの後また、少し仕事がある。それじゃあな!」
「ちょっと!? ダスクさん、それはないですよぉ!?」
この一瞬だけ、微かに後悔してしまったけど。
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