2.冒険者登録と、規格外の魔法。
「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですけど」
「ん、なんだい嬢ちゃん。ここは女の子がくる場所じゃねぇよ?」
王都の冒険者ギルド。
その受付にいた男性に声をかけると、あっさりとあしらわれてしまった。相手は私から目を逸らすと、何やら娯楽誌のようなものに視線を落とす。鼻の下を伸ばしているので、きっとイヤらしい内容であるに違いなかった。
「冒険者登録をお願いします!!」
「あー! うるせぇな、こっちは忙しいんだ!!」
「さっきから、だらしない顔をしてるだけじゃないですか!?」
それでも、このまま引き下がるわけにはいかない。
私が強く声を上げると、受付の人は苛立ちを隠さずに怒鳴った。だけど、やはりその程度で帰るわけにもいかない。そう思って言い返すと、男性は舌を打った。
そして、乱暴に一枚の紙を叩きつける。
「ここに名前と年齢、使える技能を書け」
「え、それだけで良いんですか?」
食い下がった流れがあったので、登録方法が思いの外に簡単で驚いた。
私がキョトンとしていると、受付の人はため息交じりに言う。
「これは資格試験の申込み用紙だ。これから、適当に魔物を狩ってきてもらう」
「……資格、試験?」
「要するに、無謀な馬鹿が冒険者にならないように、ってことだよ。もっとも本当の馬鹿は、身の丈に合わない魔物を相手にして死ぬけどな」
「なるほど……?」
あまり要領を得ないけど、つまり好きに魔物を倒せばいいってことらしい。
それならと、私はペンを少し走らせてから止まった。
「あの、ファミリーネームなんですけど……」
「あ……? ねぇなら、空欄でいいぞ」
「……良かった」
さすがにオリビエラは、英雄の名前として通りが良すぎる。
決して嫌というわけではないけれど、せっかくなのだから自分の力を純粋に認めてもらいたかった。そう思って私はアリス、という名前と技能を箇条書きにして提出する。
これで、あとはダンジョンで魔物を狩れば良いらしい。
「ほらよ。仮登録の証明書だ。倒した魔物は、ここに記録される」
「ありがとうございます!」
「言っておくが、倒すのはスライムで十分だからな?」
「…………はい!」
私は少しだけ考えてから、力強く頷いた。
そして、意気揚々とダンジョンへと向かうのだ。
◆
「最後、ずいぶんと間の空いた返事だったな……」
受付の男性は頭を掻きながら、アリスの消えて行った方向を見る。
幼い顔立ちに黒の瞳。同じく黒く長い髪を後ろで一つに結び、細身の身体には安物の防具を着用していた。腰に細身の剣を携えていたので、おそらくは剣士なのだろう。
しかし、登録用紙には使用できる魔法も記載されていた。
それも嘘か真か、やけに種類が多い。
「年齢は十五歳。……まぁ、この界隈はホラ吹きが多いからな」
自己顕示欲に駆られ、分不相応な触れ込みをする冒険者は少なくない。
おそらくアリスという少女も、その類かもしれなかった。
「ただ、それにしては妙に雰囲気があったな」
しかし、何かが引っかかる。
受付の男性はしばし、腕を組んで考え込んだ。すると、
「おーい、ダスク! こっちの手伝い頼む!」
「……あんだよ。それくらい、一人でやれっての」
同じくギルド職員に呼ばれ、仕方なしに席を立つ。
だが、彼――ダスクは、あの少女が放っていた自信が気になって仕方なかった。
◆
試験を合格するには、ダンジョンに潜らなくてもいい。
王都の外れにいるスライムを一体、ちょこっと倒せばそれで終わりだった。
でも、私の考えは違っていて――。
「せっかくの機会だから、修行の成果を確認しよう!」
両親との厳しい修行に明け暮れた三年間。
あの日々のことを思い出して、やるなら強い相手と、と考えた。そうと決まればと、私は上級者向けのダンジョンへ足を運ぶ。地下へと続く洞窟になっているそこは、空気がひんやりとしていて薄暗い。松明が設置されているけど、それもどこか心許ない。
奥に行けば行くほど魔素は濃くなり、張り詰めた雰囲気になってきた。
そして、次の瞬間。
【グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!】
ついに、目的の相手が姿を現した!
「赤い鱗に、大きな身体。間違いなくアークドラゴンだね!!」
それは上級の冒険者が束になって、ギリギリ勝てるかという魔物。
身の丈は三メートル以上。分厚い鱗には並の武器の刃は通らず、簡単に弾かれてしまうと聞いていた。そうとなれば、必要なのは腰に携えた剣ではなくて――。
「あの日は無我夢中だったけど、いまは違う!」
アークドラゴンが大きく口を開け、私へ【ブレス】を吐こうとする。
そこへ向けて、こちらは右手を突き出した。
「魔力増強のロッドとかはないけど、どれくらいの威力になるかな……!」
そして、私はお父さんから教えてもらった『初級魔法』を放つ。
「【アイスニードル】……!!」
それは無数の、巨大な氷の槍。
並の刃よりも鋭利なそれは、狙い過たずにアークドラゴンを射抜いた。喉を突き破り、身体の内部から引き裂かれた魔物は、その痛みに抗うことができずに断末魔の叫びを上げる。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?】
そうして消滅し、最後に残ったのは山のような魔素の結晶。
私はそれらを拾い集め、実感した。
これならきっと、私の夢は叶う……と。
「よし、それじゃあ急いで帰ろう!!」
収納魔法で魔素を一通り回収。
私はきた時と同様に、意気揚々と王都への道を戻るのだった。
◆
「へぇ、面白そうな子じゃない」
ただ、アリスは気付いていない。
アークドラゴンを鼻歌交じりに屠り、帰るその姿を見る者がいたことを。
「もしかしたら、役に立つかもね……?」
次回更新は明日、朝の7時に予約しておきます。
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