1.少女は王都へと。
「まさか、アリスがデイモンを倒した……だって!?」
お母さんの話を耳にして、お父さんは驚いて目を丸くしていた。
それもそのはず。若干十二歳、しかも魔法の修練も積んでいない私が、ベテラン冒険者でも手を焼くデイモンを討伐したのだから。非常事態のイレギュラーだったとはいえ、その事実にはさすがのお父さんも腕を組んで考え込んでいた。
そして、私に言う。
「もしかしたら、アリスには凄まじい才能があるのかもな」
「才能……?」
お父さんは頷くと、こちらの右手を取り揉むようにして続けた。
「痛みはあるかい……?」
「うーん、少しだけ痺れるかも」
「そうだろうね。いきなりデイモンを倒すほどの魔法を使ったのだから」
さらに私の額に手を当てて、何かしらの魔法を使う。
するとまた、難しい表情を浮かべるのだ。
「これは、本当に信じられない。……アリスの魔力量は、イナンナに匹敵する」
「まさか! あの子の魔力量は、世界で最大のはずよ!?」
「イナンナ、って……お父さんたちの仲間の?」
――イナンナ・ブルーテル。
その名前は、よく知っていた。お父さんとお母さんの冒険に参加していた女の子で、世界で最も優れた魔法使いと呼ばれている。戦いを終えた現在は、その奔放な性格もあって世界各地を放浪しているという。
そんな凄い人物と比較されるなんて、正直なところ自分でもビックリだった。
ただ、そんな力が自分の中にあるのなら。
そう考えた時、私の口は勝手に動いていた。
「私、旅に出たい!!」
「……アリス?」
それは昔から、ずっと思い描いていた夢。
自分の足で行きたい場所へ向かい、自分の力で問題を解決する。
叶いっこないと思っていたけど、いまだったら叶うのかもしれない。そう思ったから、私は反対されるのを覚悟で両親にそれを打ち明けた。
きっと――いいや。絶対に反対されるに、決まっている。
そんなことは、分かっていた。
「…………そう、か。アリスも、そんな夢を口にする歳になったか」
「え……?」
しかし、お父さんの口から出たのは思いもしない言葉。
こちらが驚くと、それでもと前置きしてからこう続けるのだった。
「だけど、いまはまだ認められない。いまのアリスだと、命を落とすことになるだろう。そんなことは僕たちだって嫌だし、認められるわけがないよ」
「………………」
「でも、アリスが本当にやってみたいなら――」
一度否定し、だけど笑顔で私の頭を撫でながら。
「僕が修行をつけてあげよう。そして、まずは王都で冒険者になるといい」
「い、いいの……!?」
その言葉を聞いて、思わず笑顔で声を上ずらせてしまった。
お父さんはそんなこっちを見て、もちろんと頷く。そしてお母さんの方に、視線で確認を取っていた。お母さんは少しだけ呆れたように笑いながら、優しく首肯する。
私は二人の反応を確かめて、胸が躍るのを隠し切れなかった。
「やったあああああああああっ!!」
文字通り飛び跳ねて喜びながら、お母さんに抱きつく。
こうして、私は最高の師匠二人から修行をつけてもらうことになったのだ。
◆
「よーし、久しぶりの王都だ! 陛下にも挨拶しないとな!」
「わたしは教会に行かないと。神官長様に、色々押し付けてるから……」
「あのー……もしかして、二人も一緒にくるの?」
あの日から三年が経過して、私が十五歳になった日のこと。
両親から力を認められ、いよいよ王都へ向かうことが許可された。――のだけど、何やら二人とも私の冒険についてくる気満々の様子。
「当たり前だろう! 一人前と認めたとはいえ、大切な愛娘を放任はしないさ!」
「怪我をしたら、いつでもお母さんを頼るのよ?」
「あ、あはは……」
訊ねると、胸を張って答えられた。
私はそんな二人の様子に、思わず苦笑してしまう。でも、
「ここから、始まるんだね……!」
夢への道。
その一歩目をついに、踏み出す。
「これからは、自分のことは自分で決めていい。だったら――」
私は小さくそう言って、こう誓うのだった。
「これからは、やりたい放題に人生を楽しんでやるんだ!」――と。
次の更新は、22時に。
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