『速記の師弟』
掲載日:2024/03/28
速記マスターにお仕えしている速記パダワンがいました。速記マスターは、速記の実力にかけては、速記パダワンの及ぶところではありませんでしたし、身の回りのことは自分でおできになるのですが、随分な年齢でしたので、荷物運びのために、いつも速記パダワンを連れて歩くのでした。
あるとき、速記マスターが、地方の講演会に呼ばれました。講演会の速記をする依頼ではありません。講演をする側です。速記マスターの講演を速記するのが速記パダワンです。
速記マスターは、日ごろ裏方仕事をしているのに、珍しく主役を務めることになりましたので、どんな服装にしようか、帽子は必要か、かばんはどんな大きさがいいか、など、いつになく細かく準備をして、ようやく出かけられるようになったとき、速記パダワンが何もせずに座っているのが気にかかりましたので、
「これ、もう出かけなければならぬというのに、何をのんびりしておる。早く支度をせぬか」
と、しかりますと、速記パダワンは、
「お師匠様、私の準備はとうにできております。速記者にはプレスマンと原文帳があれば十分ですし、それはいつも肌身離さず持っておりますゆえ」
と答えました。
教訓:しっかりした弟子は、しっかりした師匠のもとで育ったはず。




