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目が覚めたら異世界でした  作者: 弥永昶
リディア帝国
7/8

窓辺の誓い

シルビアは窓辺に立ち、陽が沈む光景を遠目で眺めながら過去を思い返していた。

『母様!母様!!どうして…?誰か!!!』

『シ…ルビア…』

その細々とした声に反応し、母親の傍らに寄り添う。

『母様…何故…何故なの……誰が…』

涙が目から溢れ出ている娘に対し、母親は言った。

『決して…誰も、恨まないで?…お願いよ?』

血を吐き出し、シルビアがもう喋るやめてほしいと言わんばかりに母親を止めるが、そんな事はお構いなしに話しを続ける。

『私は、ここへ来て…良かったわ。何故なら、あなたに逢えたから。だからどうか、泣かないで…?仕方が…ないの。人間は己より強いものに畏怖や恐怖を感じてしまうもの…それだけ私の力は強大であったということ。この力のせいで沢山のものを失ったけれど…たった一つ、あなたに逢えたことは幸運だったわ。だから、泣かないで…最期に笑顔を見せてちょうだい?』

泣きながら必死に母親のために笑顔を返して見せた。

『あなたの生きていく世が、どうか平和で、安寧である事を願うわ。ありがとう……ごめんね…?』

そう、言い残したあと涙が頬をつたい、そして息を引き取った母親の顔は、置いていく寂しさと、笑顔を見れて良かったという二つの感情が入り混じったような表情をしていた。

『何故…奪うものを奪い尽くした筈なのに……』

シルビアは悔しくて、悔しくて、海の底に沈むかのように、心が混沌とし始める。

『嫉み、蔑み、罵倒し…その上国から追い出した。なのに!…最後には命まで取るの…?』

「ボトッ」

ハッとして我に帰る。物が落ちた音に現実世界に引き戻された。震える手は汗ばんでいた。

「母様、私は初めからこの国の人間だから、理解するにも限度があるかもしれません。ですが、怖いからと、畏怖や恐怖心や己の利得の為に、身勝手な大義名分を掲げて母様の総てを奪ったあの国の人達、命をも奪った彼の者たちを…私は決して許す事など出来ません。だから……」

暁の空を窓辺で見つめるその瞳は、まるで燃え上がる炎のように野心に満ちていた。その目は負の感情を体現していた。

「望みの為ならば、何でもしてみせる…!」

そう呟く表情は、ガラスに映り込むその顔は憎悪に満ちた顔だった。そしてその映り込む顔を見て、一瞬落ち込むが、それでも尚足を止めないと心に決めた。

「母様、ごめんなさい。それでも私は…私は…!!」

暁の空を見つめながら、窓辺で心に誓った。


レイルもまた、窓辺に立っていた。陽が沈み、夜空で一際輝く月を見て、シルビアとの事を思い返していた。

『母様は…母様はあの国に見捨てられた!なんにも悪い事などしておられなかったというのに!!どうして…どうして……』

『シルビー!余が護る、護ってみせる。離れない。最期の時まで共にいよう。汝の望みに余を使えば良い!私は女の身だが、この国の未来を担う人間だ。不可能を可能にする努力は惜しまない!だから…死なないで?余を置いていくな!!』

手に頭を抱えていた。頭に添えていた手を見てみると、その手は震えが止まらなかった。その震えが鎮まるのをずっと見ながら呟く。

「余が…男であったなら……」

思い返した記憶の最後は、シルビアの泣きじゃくったあとに返して見せた、安堵に満ちた微笑みだった。

(汝はきっと、望みが叶えば死ぬのであろう?だがそうはさせない。そんな事、余は認めない。認めてしまったら、余は一人で生きていかなくてはならないではないか。そんなものは嫌だ!我儘だろうがなんだろうが関係ない。そんなのは……)

「余が…淋しいのだ……」

心の中の声が少し漏れた。その声は細く、息交じりに掠れた声をしていた。シルビアのためにと、とある森の奥地へ足を運んだ日の事を思い出した。

『精霊獣よ、どうか出てきては下さらないだろうか?』

『何者だ…』

『リディア帝国が皇女、レイルでございます。どうか私の願いをお聞き入れください』

『皇帝一族か…何故我が其方の言う事を聞かねばならんのだ』

『古い文献を見ました…あなた様であればどんな願い事も叶うと。どうかお願いです!私を男にしていただきたく参りました』

『其方…ほう。女の身でありながら女を好いてあるのか?』

『それが何か?』

『逸脱しているな』

『それがなんだと言うんです!たまたま女としてこの世に生を受けたのであって、何をどう愛そうが私の自由です!!』

『確かにな。だが、理に反している事に変わりはない。理を捻じ曲げてでも願いを叶えた時、願いの方向が変わる、或いは…半分のみ叶う、といった具合に変化をもたらす。それでも叶えたいと願うか?』

『無論だ。たった一人の大切な人さえも守れずして…誰の為の皇族か!!』

『そうか……。その覚悟に免じて願いを聞き入れよう。だが、どうなっても知らんぞ?』

(結局あの後、身体だけは女の身のままだ。半端になってしまった…)

あの日の行動に無念は残っていても、後悔はなく、その瞳は未来を見据えていた。

「止めなくては…!」

宵の月、窓辺でそっと呟く。

頭の中で現状を整理し、未来を想う。そして強い決意の中で誓いを立てた。

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