召喚前のひととき-前-
正直頭が真っ白になっている。概念とか呼ばれたとか、訳分からん事オンパレードすぎる。疑問符ばかりが浮かんでくる。
「はーっ。あなたは今まで、あまり苦労をなさらなかったらしいですね?平和ボケした頭…いえ、脳をしていらっしゃる…」
(つか一々ウザいなこの声の主!)
「いーから早く続き!まだまだ教えてくれるんだろ?」
若干苛立ちながらも、少しでも色々知っておきたいから黙って聞く事にした。
「はい。まず、先程申し上げた五ヶ国からあなたが呼ばれているのが現状です。ですが…」
「は!?全部かよ!!?」
「話は最後まで聞いてください。それで私の能力的に1ヶ国しか連れて行けません。なので一時的にこの狭間の世界に連れてきましたが、とりあえず全てに行ってもらいます」
「いや、更にどーゆう事だ!お前…」
「まぁ…普通はあり得ないのですが、モテ期だと思ってせいぜい苦労してください」
(コイツ何ふざけた事言ってんの!!?)
予想を斜め上に超えた展開についていけないと感じつつも、異世界のイメージが根本から変えられ、逆に興味が湧き始めた。
「では各国の概念や情勢などをご説明しますね?」
「その前に、まずはこの狭間の世界について教えろ!」
そう言ったあと、少し間を置いて説明してくれた。
「あ!ちなみに勇者召喚みたいなことも無ければチート能力みたいなものは多分ありませんよ?ま、多少の誤差でその国の民よりも力を多く保有する事はあるかと見込まれますが…召喚といえば召喚ですかね?」
何か含みのある言い方に少し不安はあるが、飛ばされるしかない状況なら説明を聞くしかないと思った。
「まずはリディア帝国からお話しいたします。私もそれ程詳しくはないのですが、リディア帝国は騎士道精神性の強い国です。「語るならば剣を抜け」という国です」
「武力行使とか…戦闘狂かよ……」
「戦闘狂という訳ではないと思いますが、代々皇帝は三騎士から選ばれるそうです。その三騎士は通称御三家と呼ばれているらしく、代替りみたいな事がたまにあるようですが、必ず御三家の中から男子が1人しか産まれず、皇位継承問題が起きないよう、男子だけが皇位を継ぐ国家ですね」
「じゃあお姫様はどうなるんだよ?一応皇帝一族だろ?」
「女子は御三家のうち必ず二家から産まれるらしいです。そして1人は血を守るために妃として、1人は宰相として皇帝を支えるようです。」
「へー。それって女同士で喧嘩みたいなのは起きないのか?」
「宰相になれるのは能力の高い方と法律で定められているので、その点は問題なく、むしろそのせいで今は大変みたいですね〜」
「大変って何がだ?」
サムサは少し考え込んだあと、再び話し始めた。
「実は…次期皇帝と妃と宰相が中々決まらない状況下にあり、その理由が複雑でして…」
「複雑?もっと分かりやすく教えてくれ!」
「1人目はフェリシア・アーデナウ・リディアという女性、2人目はシルビア・ヴァンディミオン・リディアという女性、現在この二家はそれぞれ公爵家の位置付けに当たります。最後の3人目ですが現皇帝の生家、アレクトス家の皇女、レイル・アレクトス・リディア」
「ん!?女子3人なのか?」
「いや〜…アレクトス家の嫡子は性別は女性でも中身が男でして、前代未聞の事態と帝国中がざわついてるみたいです」
「そんな事でざわつくものなのか?」
「まぁ行けば分かると思いますが、法律改正派と男系存続派で対立が水面下で起きています。当の本人達はとても仲が良いようで、特にレイルさんは群を抜いて剣技も頭脳も両取りで、学園では憧れの的のようです」
「なんか他の貴族から婿養子とかすれば良いんじゃないか?」
「はい!それがあなたな訳ですよ」
「はあ!?」
召喚されるのは一般人かと思っていた手前、貴族として召喚されることに驚いた。
「リディア帝国には公爵に次ぐ爵位である侯爵になります」
(正直、面倒くさそうだから行きたくない)
「さ、リディア帝国についてはこの辺にして、次にヴァルギスタス王国についてですね。
ヴァルギスタス王国は人族と亜人が混ざり合う国です。現王太子はルーシャント・ヴァルギスタスです。
この国については政情が危ういとしか言えないです」
「政情が危うい…か…」
「ええ。この国に召喚される際は人族として向かっていただきます」
「…?当たり前だろ?そんなの」
何を言っているのか?と思いながらも真意を追求しないまま話を進めてもらった。
「さて、次に聖ヒューリアス皇国についてです」
同刻、召喚される予定の各国は各々の思いや画策の中、召喚準備を整えていた。




