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対魔師  作者: 魚右左羊
9/27

8、西社

「お疲れさまでした!」

 本日のインターンも無事に終わり、会社を後にした綾音。

 順調で充実した日々に手応えを感じながら帰路についていた時、突然ポケットから着信音が。

 てっきりいつもの京華からの電話かと思いきや液晶にはことはの名前が。

「もしもし。」

「綾ちゃん!今どこにいるの!」

 切羽詰まった早口に何事かと戸惑う。

「どこって、今帰り道だけど。」

「よかった!じゃあ会社を出ているんだね!」

「そうだけどそれがどうしたの?」

「綾音さん、お疲れ様です。可奈です。」

「あ、お疲れ様です可奈先輩。」

「実は私はことはさんの依頼により西社の身元調査を行なっていました。」

「胡散臭さを嗅ぎ取ったからね。」

 要領を得てない為、間の抜けた相槌を返すのみ。

「それで醍醐宮学園のデータベースにて検索した結果、西社という生徒は存在しません。」

「え?!」

「さらに醍醐宮学園に問い合わせた所、現在インターン制度を利用している生徒はいないと。」

「それでね、可奈ちゃん先輩が別件で調べていた人物とも一致したの。」

「学園長からの依頼で私は先日、国立公園での事件時に撮影した画像解析を行っていました。その映像の中から西社の姿が発見しました。」

「しかも原因の奈落の穴近くで!」

 なんですって!!と叫んだ時、

ドーーーーン!!!

 大きな爆発音と地響きが綾音の身体に伝わる。

「何事?」

「どうしたの綾ちゃん?」

 電話越しから聞こえる二人の声。

 綾音は夕焼け空に立ち込める黒い爆発雲を目撃した。

「(あの煙の位置は会社のビル。)」

「ねえ、綾ちゃん。何があったの?」

「今すぐウジトベビルに救援を!」

 返事を待たずに通話を切って蹄を返した。


 何が起きたのか?それは数分前のこと。

 氏卜部が後片付けをしている寒河江を呼び止める。

「寒河江、綾音君はどこに?」

「彼女ならもう帰りましたよ社長。」

「そうか、タイミングが悪かったな。」

「用事があるなら呼び出しましょうか?」

 スマートフォンを取り出そうとする寒河江を制する。

「いや、急な用ではないし、明日でいいよ。」

「社長!聞いて下さいよ。」

 二人の会話が終わったのを見計らい多賀が西社の愚痴をこぼそうとした時、

ドーーーーン!!!!

 地下からの大きな爆発音。

 その場にいた社員全員が爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 壁に全身を叩きつけられ、一瞬記憶を失う氏ト部。

「な、何が起きた?」

 全身に窓ガラスの破片を浴びた彼が眼にしたのは数多の妖魔達が蔓延り社員達に暴行を繰り広げる百鬼夜行の地獄絵図。

 そしてその中央に佇む西社の冷ややかな視線が心の奥底に封じていた恐怖が込み上げる。

「こ、これは一体・・・。」

どうして?という疑問が脳を支配。

「何も驚く事はないだろう。俺はただ解放しただけさ。腰抜け氏ト部さん。」

カツ、カツ、と靴を鳴らして近づく西社。両手にはクナイを持て遊びながら。

「社長!!!」

 寒河江と多賀が武器を手に西社の前に立ちはだかる。

 二人は爆発で体を痛めているが会社の危機に鞭を打っている状況。

「西社、キサマ、よくも会社を。」

「自業自得だろ。」

「ふざけんな!!」

 怒号を響かせてチェンソーを振り回す多賀。

 大振りで単純な攻撃を難なく躱す西社。

 怒りに任せた動き―――に見えるがこれはフェイク。実際には冷静で、西社を巧みに誘導しているのだ。

「喰らえ!!」

 愛用のチェーンソーに霊力を注入しエンジンをフル回転。

 強弱をつけた攻撃に西社は咄嗟に大きくジャンプ。

「かかったな!寒河江。」

 着地点に待ち構えていた寒河江。

彼が手にするチェーンソーで西社の胴体は真っ二つ。

「みたか!!」

「ざまみやがれ!!」

 汚い悪態を吐き出した時だった。

 切断された西社の身体が揺らめき、そして霧状と化して消えたのだ。

「何?」

「どこに消えた?」

「隙だらけだよ。」

 誰にも気づかれずに多賀の背後をとった西社。

 そのまま背中にクナイを突き刺す。

「油断大敵って注意していた割にアンタ自身が一番油断していたね。」

 崩れ落ちる多賀の耳には西社の言葉は届いていなかった。

「多賀!キサマよくも!!」

「遅い!神速。」

「な!」

 眼にも止まらぬ速さで数メートル離れていた寒河江の懐に入った西社。

 その一瞬の出来事に全く反応できなかった寒河江はそのままクナイの露となった。

「あ、ああ・・・。」

 目の前でエース二人があっさりと倒された氏ト部。

「今の神速・・・、そしてさっきのは無影(むえい)!」

 霧のように姿を消し、そして誰にも気づかれずに相手の背後にとる、あの動き。

 そして一瞬で距離を詰めるあの攻撃。

 4年前にも見た―――そして記憶の奥底に封じていた恐怖が今蘇る。

「お、お前は幻龍神(げんりゅうしん)!」

「なんだ、今思い出したのかい。俺は一目でアンタのことを思い出したよ。4年前、多くの対魔師が戦地で戦う中、唯一人震えて何もしなかったアンタの事をね。」

「た、助けてくれ!!だ、誰か!!」

 大声で助けを求める氏ト部。しかし彼以外は妖魔達も暴行で意識を失っている。

「無駄さ。残るはお前だけ。」

 西社の背後から数多の妖魔達が氏ト部に詰め寄る。

「判決はお前達に委ねるよ。」

 西社の言葉に邪悪な笑みを浮かべる妖魔達。

 各々が身体を揺らす。このモノ達は氏ト部を天罰を下したくて仕方がないようだ。

「や、やめろ・・・。」

「諦めろ。報いをその身に受けるがいい。」

 情けを願う氏ト部から背を向ける西社。

 妖魔達が一斉に氏ト部に襲い始めた、その時!!

 氏ト部を守るように蠢く業火。

「これ以上やらせないわ!!」

「綾音君!」

 颯爽と現れた綾音に光明を見た氏ト部は四つん這いで彼女の足に縋り助けを求める。

「助けてくれ。百鬼夜行だ。アイツが妖魔の大群を押しかけて社員達を。」

 地面に横たわる寒河江達を目にして怒りが込み上がる。

「これはどういう事よ西社!」

「せっかく綾音(お前)がいなくなった後に事を起こしたのに。戻ってくるとはね。」

「質問に答えなさい!」

「俺の邪魔をするな!そこで大人しくしていろ。」

「この状況を見て、はいそうですか、て言えるわけないでしょう。」

 綾音の敵対心に妖魔達も過敏に反応。

「お前達は下がっていろ。」

「(素直に従った。西社をこの百鬼夜行の長。彼を倒せば何とかなる。倒せなくても応援が来るまで足止めすれば。)」

 夜叉丸に荒々しい炎を纏わせ、一歩前に出た西社と対峙。

 大きく息を吸い込んで攻撃を仕掛ける。

 書撃破最低限の動きで躱させる。が、動きを繋げて追撃。

 三撃目をクナイで受け止められたのを区切りに間合いを空けて、仕切り直し。

 再度突撃を試みる。

「無駄だ焔村綾音。お前の攻撃は俺には届かないよ。」

「うるさいわね!」

 夜叉丸に霊力を更に送り、炎の威力を上げて斬りかかる。が綾音の攻撃は一つも当たらない。

「無駄だいうのがわからないのか綾音。夜叉丸を使いこなせていないお前が俺に勝てるわけないだろう。」

「な、なんですって・・・。私が夜叉丸を使いこなせていないですって。」

 そんな事ある訳がないと即座に否定。

「私を惑わせようとしても無駄よ。」

「惑わすの何も本当の事だ。夜叉丸はお前に認めていない。」

「何を証拠に!」

「いいか、夜叉丸は所持者の力を増大・持続させる、いわばブースターの役割だ。なのに大量の霊力を送っているのにも関わらず一太刀振るう度に力が落ちている状況が何よりの証拠だ。」

 一瞬言葉が詰まり、動きが止まる。

「申し開きはあるかな。」

「うるさいわね!」

「自分の弱さを認めないか。」

 仕方がないと首を横に振るその余裕な態度に夜叉丸を突き立てようとした時だった。

「火を消せ夜叉丸。」

 西社の言葉通りに纏っていた炎を消した夜叉丸。

「嘘、何で・・・?」

「はあ、まさかここまで酷いとはな。」

 もう一度霊力を送り込むが、夜叉丸は言う事を聞かない。

「私の言う事を聞きなさい!夜叉丸!」

「元々、お前の言う事など聞いていないさ。」

 夜叉丸のことに集中する余り西社がすぐ側まで迫っていた事に気付けなかった。

「がッ。」

 強烈な一撃をみぞおちに受け、そのまま意識を失うのであった。

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