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対魔師  作者: 魚右左羊
8/27

7、乾ことはの勘

「綾ちゃん、インターンは順調?」

「ええ、順調よ。」

 更衣室にて体操服に着替えていると、ことはが質問してきた。

「そっか~。それは良かったね。」

 リザードマンの大騒動から数日が経過していた。

 奈落の穴は近くの祠が壊されたことで開いたらしく、残念ながら祠を壊した犯人は見つかっていない。

 綾音はその後もインターンを続けていた。

 小さなミスはあるものの社員達から評価は下がることなく順調の一言。

 ただ、一つだけ不満を抱いている。

 それは西社の事。

 彼のやる気のない態度と全く戦わない姿勢にこの数日間、イライラしてばかりなのだ。

「そんな人がいるんだ~~。何のためにインターンを受けているのだろうね。」

 話を聞いて呆れ顔のことは。

「本当にそうよ。あんな人が私とクラスBだなんてありえないわ!」

 悪態を突きながら体操服に着替え終わった綾音達はグラウンドへ移動。

 冬の冷たい風が吹く中、女子立は誰一人ジャージを着ていない。

 これは風や炎、雪を操る妖魔と遭遇した場合、暑さや寒さで動けなくならない為に行っている対魔師訓練の一環。

 決して体育教師の独断命令ではない。

 御覧の通り、その場にいる女子十数名、誰一人この状況に文句を口にすることなく霊力で自分の体温を調整している。

「よし、全員集まったね。」

 授業開始のチャイムと共に颯爽と現れたのは体育教師の橘亮。

 服の下からでもわかる引き締まった体型に甘いマスク。爽やかな顔立ちと貴公子の雰囲気で女子達から人気が高いクラスSの対魔師である。

「では今日は持久走のテストを行う。」

 学年末に向けて体育も試験が多い今日この頃。

「その西社、って人だっけ?そんなにひどいの?」

「ええ、毎度怒られているわ。」

 持久走テストの順番待ちの間、先程のインターンの話に戻る。

 因みに本日は非番。

「とにかく妖魔に攻撃を仕掛けないのよ。足止めとかばかり。一回その場からと取り逃がしたこともあったわ。先輩達のフォローのおかげで事なき得たけどね。」

「そうなんだ・・・。」

 とここで何か考え始めたことは。

 小さな鼻をひくひく動かすその仕草は何か勘が働いた証拠。

「ねぇ、その西社って人はどこの高校なの?」

「えっと確か、醍醐宮学園(だいごみやがくえん)よ。」

 記憶の奥底から西社の情報を引っ張り出す。

「醍醐宮って、志奉学園の次に古い対魔師育成学校だよね。そんな下手な人をインターンに出すのかな~~~。」

「それぐらい人材不足なのかもね。」

 しかし綾音が導き出した答えに納得しないことは。

「それでは後半組、スタート位置に並んで。」

 順番が回ってきたので閑話休題。


「綾ちゃん、少しお願いがあるのだけどいい?」

 20㌔は走り終えた後、ことはがそのまま歩み寄り、一つ頼みごとをする。

「明日またインターンに行くでしょ。一緒に連れて行ってほしいの。」


 という事で次の日、綾音はことはを連れてウジトベ・スイーパー・カンパニーへ。

 いつものように社員達へ元気に挨拶をする横で人懐っこい笑みを浮かべることは。

 社員達の視線は自然と彼女の方へ向く。

「綾音君、彼女は?」

「初めまして、私、乾ことは、と言います。今日はちょっとだけ見学させてもらいたいな、って思いまして。駄目ですか~~?」

 子供っぽさを最大限に生かすあざとい笑みに一瞬たじろぐ多賀。

「別に任務に連れて行って、とは言いません。綾ちゃんがここにいる間だけでいいので。駄目ですか~~?」

「ま、それぐらいならば・・・。」

「わ~~い、ありがとうございます。」

 子供のようにはしゃいだ後、多賀の手を両手で握手することは。

「ねぇ、あざと過ぎない?」

 と注意を促したらことはから一言。

「えっ、あれぐらいいつも綾ちゃん、しているよね。」

「してないわよ!!」

「で、例の男の子はどこ?」

「えっとまだ来てないみたいね――――って来たわ。」

 その時、眠たそうな「おはようございます。」の声が聞こえ、その方へ向く二人。

「へぇ~~、あれがね。」

 鼻をひくひく動かすことは。

 西社もことはの存在に気付き、徐に近づく。

「誰?」

「私、綾ちゃんの友人で乾ことは、って言います。よろしくね。」

「・・・・・よろしく。」

 不穏な空気を醸しながら握手を交わす二人。

 握手した時間はほんの数秒。

 しかしその間に多くの駆け引きが行われたのは本人達しか知らない。

「それじゃあ私、帰るね。」

「あれ、もう帰るのかい?社内の見学はいいのかい?」

「はい、それはまた今度で。」

 元気よく手を振って別れることは。

 自慢の脚力で近くの路地裏に隠れると懐に忍ばせていたスマホを確認。

「うん、上手く撮れてる。」

 彼女のスマホの画面には盗撮された西社の姿が。

「よし、後はこれを加奈ちゃん先輩にみせるだけ。」

 そう呟いた後、猛ダッシュで志奉学園へと駆け出すのであった。


「全く急すぎるのよ、あなたは。」

「ごめんね、加奈ちゃん先輩。」

 全力疾走して40分後、志奉学園へ到着したことは。

 彼女が辿り着いた場所は弾ノ内加奈が根城にしている研究室である。

 加奈はことは達より一つ年上の研究科2年生。

 志奉学園は2年次には二つの学科に分かれる。

 現場で妖魔と闘う事を目的とした人材を育てる対魔科と対魔師の武具作成や裏方に特化した人材を育てる研究科の二つである。

 加奈は対魔課の研究職員志望で特技はプログラミング。

 かなりの精通者でその腕前は対魔課から直接依頼が舞い込んでくるほど。

「私は忙しいの。今も学園長からの依頼された画像解析で手一杯なのに・・・。」

 机上に置かれている複数のPCが世話しなく稼働している中、呆れと怒りを表情に出す加奈。

 忙しいのは本当の事なのだろう。

 心なしか眼鏡越しの眼元にはうっすらのクマが出来ており、三つ編みもしている髪もボサボサ。

 床には栄養ドリンクの空瓶がいくつも転がっている。

「本当にごめんね。でも私の用事はすぐだよ。」

 PCに表示されている、先日のリザードマン大騒動時に撮影された映像を尻目にスマホの画面を加奈に見せる。

「この人の事を調べてほしいの?」

「そう、確か醍醐宮学園の2年生だって。ただね・・・、どうもきな臭いな、って私の勘がそう囁いているの。」

「成程ね・・・。」

 ことはの勘は凄まじく当たることを長い付き合い上知っている加奈は無下にできない心情を抱く。

「とはいえ、この事を前もって言ってほしかったわ。調べるのには事前の準備と時間が掛かるのよ。」

 愚痴をこぼしながらもことはのお願いを聞き入れる加奈。

 早速ことはが盗撮した画像をまだ起動していなかったPCに取り入れ、そして検索開始。

 と同時に自前のノートパソコンを起動して、醍醐宮学園のサーバーへハッキングを試みる。

「少し時間が掛かると思うわ。ことはさん、その間どうする?」

「じゃあ、その間訓練でもしていようかな?」

「わかったわ。それじゃあ、終わったら連絡する。それと今なら打越先生が手持ち無沙汰しているわ。」

「本当!じゃあ指導してもらおう。」

 と元気よく出て行ったことはを見送り、二つの依頼を同時進行する加奈。

 奇しくも二つの依頼の結果が出たのは夕暮れを過ぎた頃―――丁度綾音達が本日の依頼を全て終えた時であった。

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