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対魔師  作者: 魚右左羊
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4、殲滅隊

「ほら、ここが目的地だ。」

「大丈夫か、西社?」

「大丈夫・・・です。少し外の空気を吸えば治るので気にしないでください。」

 話を聞けば何でも車酔いが酷い、とのこと。

 西社の調子が元に戻るまで寒河江達は工場主と最終打ち合わせ。

 ここはプラスチックのスクラップ工場で数日前、複数の小豆洗いの出現により稼働がストップしてしまったそうだ。

「小豆洗いは斥候隊が施した結果内に閉じ込められている。」

 指示す方へ眼を向けるとそこには手足が異様に細長い老人の姿をした四体の小豆洗いが。

 手には藁で編んだ笊が握られており、血走ったギョロ眼が綾音達を強く睨みつけている。

 どうやら結界に閉じ込められたことで荒ぶっているようだ。

「いいか、多賀が結界を解いたと同時に小豆洗いを倒す。」

「丁度四人いるから一人一体でいこう。」

「すいません、俺はパスで。」

 辞退を申し上げたのは西社。

 先輩達の返事を待たずにこの場から離れる。

「おいおい・・・。」

「まぁまぁ多賀、初日だしこんなもんさ。」

 寒河江は多賀が嗜め、そして綾音の方を向く。

「で、君はどうする?」

「勿論、やります。」

 腰に携えた夜叉丸を握りしめ答えると先輩達は満足そうに笑みを浮かべる。

「よし、それじゃあ俺が二体引き受ける。多賀は綾音君のフォローを忘れずに。」

「了解。」

「頑張ります。」

 配置につき、寒河江の合図で多賀が結界を解く。

「「「ギャアあオオ。」」」

 小豆洗い達は一斉に襲い掛かってきた。

 桁外れの跳躍で綾音に迫る一体の小豆洗い。

 掌からの風穴から無数の小豆をマシンガンのように撃ち放つ。

「こんなもの!」

 それに対し綾音は夜叉丸の刀身に燃え上がる炎で小豆を一掃。

 今の一振りで弱まった炎を再度燃え上がらせて小豆洗いへ突撃。

 強烈な一撃をお見舞いする。

「ギャアあああ~~。オノレ・・・・・・ユルサヌぞ。」

 綾音の一撃を直撃した小豆洗いは全身燃え上がり、この言葉を残して消滅した。

「おお、流石だな。」

 フォローに入ろうとした多賀が綾音に賞賛を送る。

 寒河江と多賀は綾音が一体相手している間に、残り全ての小豆洗いを倒し終えていた。

「もう少し手間取ると思っていたけど、いい腕しているね。」

「ありがとうございます。」

 二人の先輩達から誉め言葉に満面の微笑みを返す。

「よし、この調子で次の現場に行こう。」

 近くに待機していた浄化隊が到着したのを確認して次の現場に向かう為に車へ乗り込む。

 その時だった。

 西社が綾音だけに聞こえるように呟いた。

「期待外れ、だな。」

「えっ?」

 どういう事か聞き返そうとしたが、

「次は住宅街。ハイツの一室に鬼熊が住み着いてしまったらしい。」

 多賀が次の現場の資料を手渡してきたことで聞けず仕舞いとなった。


「今日はお疲れ様。」

「はい、ありがとうございました。」

 時刻は夕暮れ時。

 6カ所の現場を全てやり終えた綾音は疲労で足が少し震えていた。

「それにしても綾音君は凄いよ。6件全てこなしたね。」

「ああ、大概の新人やインターン生は3件以降は体力が足りず残りは見学するからね。」

「ありがとうございます。でもまだまだですから。」

「いや、君ならクラスAなんてすぐさ。」

「2階に浴室があるからそこで疲れを癒して帰ってね。」

「はい、ありがとうございます。」

「すいません、いいですか?」

 その時、本日一度も戦いに参加しなかった西社が会話を遮って話しかけてきた。

「俺、明日から斥候隊の方に回してくれませんか?」

「残念ながらそれは無理だ。」

 寒河江が即答。

 綾音の時とは違い、冷たい口調。

「どうしてですか?」

「インターン生は撃滅隊で面倒を見ると、決められているからだ。」

「・・・・・・、そうですか。わかりました。」

 仕方なし、という感じで諦めた西社は軽く会釈してその場から離れる。

「何だ、アイツは?」

「どうやら他人とのコミュニケーションが苦手なようだね。」 

 諸先輩達の呟きを尻目に「お疲れさまでした。」と頭を下げ、2階へと上がる。

 その途中、階段の踊り場で立ち止まる西社の姿が。

 どうやら綾音を待っていたようだ。

「お疲れ様。」

 一応声をかける。

 しかし西社は無言。

 視線は綾音の腰にある夜叉丸へ向いている。

「なに、私の夜叉丸に何かあるの?」

「妖刀――夜叉丸。その大昔、地を荒らしていた大妖怪、鵺の亡骸で作られたとされる刀。その為、その刀には強力な力を秘めている。」

「よく知っているわね。」

 彼の視線に不快を感じ、警戒心が強まる。

「・・・・・・。」

 意味深な視線を投げつけたまま、その場から立ち去ろうとする西社。

「ねえ、あなたがどういう理由でこのインターンを受けているのか知らないけど、私の邪魔だけはしないでね。」

 今後の2週間を踏まえて先に念押しする。

「私は今度の昇級試験でクラスAを目指しているの。その為にインターンを受けているのよ。」

「そうか・・・。まぁ、いい経験になるんじゃないか。」

 まただ。

 初対面なのにずっと上から目線の発言をぶつけてくる彼に苛立ちが沸き上がる。

「何よ、その言い方は。今日何もしていない癖に。年上だからって生意気よ。」

 言い返すが、西社の耳には届かず。

 まるで綾音の存在など空気と同じで気に留める必要がない、と言わんばかりに立ち去る。

 そんな彼の態度は更なる苛立ちを募らせるのに十分で「なによ!」悪態を突きながら浴室へと向かった。


「インターン初日、お疲れ様ですお姉さま。どうでしたか?」

 風呂上りの帰路の途中、京香の電話に率直な気持ちを述べる。

「凄かったわ。一日に6カ所も現場なんて初めて。目まぐるしい勢いで妖魔を倒したわ。小豆洗いに鬼熊、泥田坊、人面樹や貂、山地乳。」

「それは凄い。名前を聞くに林森や渓間に生息されている事が確認されている妖魔達ばかりですね。」

「今まで多くても3か所だったから、今日は本当に疲れたわ。」

「明日もあるのですから早めにお休みになって体力回復に努めてくださいね。」

「ええ、そうするわ。それよりも京香の方は大丈夫なの?」

 志奉学園高等部への入学試験は2週間後、つまり綾音のインターン最終日と同日。

「順調です。絶対に主席合格して見せます!」

「ええ期待しているわ。」

「ハイ頑張ります。お姉さまも沢山現場を経験してクラスAになってください。そして風音姉さまを殺した犯人を見つけ出して復讐しましょう。」

「そうね・・・。」

 4年前に交わした誓い。

「その為にお姉さまは今頑張っているのですから。」

 京香の言葉が綾音の心奥底に深く深く切り刻まれる。

 あの時の悲しみと悔しさが蘇り、復讐の炎が激しく燃え上がる。

「だから私は一日も早くクラスAをならないといけない。風音姉さんを殺した犯人を見つけ出す為に。」

「だから明日も頑張ってくださいね姉さま。」

「ええ、頑張るわ。」

 誓いを再確認して互いに電話を切る。

 復讐の闇を心に抱えて・・・。

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