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対魔師  作者: 魚右左羊
24/27

23、綾音の決意(1)

「何よこれ。」

 梨沙を安全な場所まで避難させて戻ってきた綾音が眼にした光景。

 それは三日月の鎌に憑りつかれたカマキリと夢為人の激しい攻防戦であった。

 眼に止まらぬ動きとカミキリから湧き出す瘴気の濃さに思わず尻込み。

 そうこうしているとカマキリの鋭利な爪が夢為人の身体を捕らえ、八つ裂きにされた。

「西社!!」

「見たか綾音。アレが怒りと憎しみに取り憑かれ、復讐に身を捧げた三司(人間)の末路だ。」

 振り返ると、そこには怪我一つない夢為人の姿が。

「ど、どういう事?今、一撃を受けたはずじゃあ―――。」

「くそっ。無影(むえい)か。相変わらず逃げ足が速い奴だ。」

「いい技だろ。お前達も会得しておけばよかったのに。折角ぬらいひょんから教えてもらう機会があったのにさ。」

 夢為人の軽口に怒りを露わにする三司。

「どうするつもりなのアレ?」

「滅するしかないだろう。俺にはそれしか手立てがない。」

「滅する、てカミキリごと?」

「ああ、その通りだ。何か問題でも?」

 返答に詰まるのも無理もない。

 梨沙との別れ際、「綾音ちゃん、ミカミさんを助けて。お願い。」と懇願されたのだ。

「他には方法がないの?」

「俺には方法がない。だが綾音、お前ならばカミキリを助けられる。」

「どういう事?」

「お前の浄化の炎でカミキリに取り憑いている三日月の鎌だけを壊せばいい。」

「私が?」

「どうした。できないのなら俺が奴を殺す。お前はどうしたいのだ?」

「・・・・・・、やるわ。」

 梨沙との約束を守る為に、力強く頷く。

「よし、なら霊力を限界まで貯めろ。それまでは俺が奴を引きつける。」

 言い終わると同時に再びカミキリへ挑む夢為人。

 怨み憎しみを唱えながら鎌を巧みに振るうカミキリ。息づく間も無い攻撃を夢為人はクナイの刃で滑らせて躱し凌ぐ。

「ワレの・・・母様の教え、願いを邪魔ばかりしよって!親不幸者の恩知らずが!!」

「ああ、そうさ。お前達からすれば俺は親不孝者さ。だけど!」

 怨み憎しみを振り翳す三司を押し返し自分の意思を突きつける。

「俺はお前達とは違う。自分自身の意思で戦っている。自分の意思を持たず狂気に飲み込まれたあの人の操り人形と化した兄達(お前達)とは違う。」

「ワレが、ワレワレが操り人形だと・・・、ふざけるな!!」

 怒りで鎌の動きが荒々しくなる。

「許さないぞ不出来者よ。ワレを、母様を愚弄した罰だ。身体中を切り刻んでやる!!」

「(そうだ。怒れ。その怒りを俺に向けろ。)」

 怒り心頭の三司。彼の眼にはもう夢為人しか映っておらず、綾音の存在など完全に忘れていた。

 その綾音は全神経を霊力を集める事だけに集中。

 完全無防備であるが、夢為人が相手の注意を惹きつけている為に狙われる事はなかった。

「(綾音ちゃん、お願いミカミさんを助けて。)」

 眼に涙を溜めて救いを求める梨沙の事を思い出す。

(梨沙姉さんのために絶対救ってみせる!)

 決意を込めた真っ赤な炎が右手に集い、大きく燃え盛る。

「よし!」

 準備が整った時、夢為人がカミキリの横腹に強烈な蹴りを放ち吹き飛ばす。

 彼は常に綾音の事を注視していたのだ。

「やれ焔村綾音!」

 ドラム缶の山に飲まれているカミキリへと駆ける。

「我右手に集いし浄化の炎よ。呪われし悪し武器を打ち砕け!」

 燃え盛る右手が三日月の鎌を強打。

(よし!)

 激しく燃え上がるのを見てガッツポーズ。

「油断するな、焔村綾音!」

「え?」

 夢為人の忠告と同時に三日月の鎌から突如現れた黒いモヤが浄化の炎を喰らい、そして綾音へと侵食する。

「な、何これ?」

「ククク、キサマも我の手駒にしてやる!」

「いやああああ!!!」

 モヤは全身まで侵食。

 激しい頭痛に襲われる。


 恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ、恨メ、憎メ。


 脳内にその言葉が埋め尽くされる。

「フハハ、残念だったな不出来者よ。切り札の為にこのオンナを連れて来たようだが無駄だったな。このオンナが心の中に大きな闇を抱えている事は既にお見通しだ。前に対峙した時にな!」

 モヤは頭を抱えしゃがみ込む綾音の全身を舐め回し、三司は綾音を闇へ突き落とす為に囁く。

「姉が殺された怨み憎しみを解き放て。我が復讐の手助けをしてやろう。」

 三司の言葉は簡単に脳内へと侵入。

「その憎しみ、悲しみ、怒りを理解してやれるのはワレだけだ。さぁ、身も心も全て我に委ねるのだ。 

「私は・・・。」

 美しい紅玉の瞳は闇に呑まれ、黒く染まり、抵抗を見せていた炎は風前の灯火と化した。

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