22、荒身玉帝の子供
清河梨沙はモデル出身の若手女優である。
デビュー作の戦隊トレセンジャーが大ヒットするもその後の仕事があまりなく、苦しい時期が数年続いた。
そんな中、今回ドラマの主役の話を貰い、女優人生をかけた思いで挑む。
しかしその意気込みとは裏腹に次々と不幸が襲いかかる。
最初はヒールが折れたり、移動中に事故渋滞に巻き込まれるなど、些細な事ばかりであったが、次第にその不幸は酷くなり撮影にも大きく支障をきたすように。
「これ以上の遅れは製作中止になる。」
切羽詰まった中行われたロケ地での撮影。
しかし、身に起こる不幸は止まる事を知らず。
最終的には山に遭難してしまった。
その時、カミキリ――ミカミと運命的な出逢いをする。
ミカミは一目で梨沙が呪われている事を見抜く。
そして山神が厳重に封印されていた三日月の鎌を使い、梨沙の呪いを断ち切ったのだ。
すると今までの出来事が嘘のように、滞りなくロケ地での撮影が終わった。
しかしロケ地の撮影が終わった数日後、またしても不幸に見舞われる。
再び呪われている事を察した時、街へ降りてきたミカミと再会。
「呪いはオレが何とかする。」
それ以降、人目を盗んで密会して、呪いを断ち切ってもらっていたのだ。
梨沙に案内された埠頭は戦前に造られ、高度経済成長を支えた場所。
しかし、バブル後は老朽化と近くに新しく埠頭が開発された事で廃れた場所である。
「ここにカミキリがいるのね。」
タクシーを利用してその埠頭に到着した綾音と夢為人、そして梨沙。
「こっちです。」
梨沙の案内で奥へと進む。
「ねぇ、ちょっと何か聞こえない?」
微かに聞こえる苦痛を堪える声。
それは梨沙が向かう先から聞こえる。
「ミカミさん。」
不安に苛われた梨沙がおもわず大声でカミキリを呼ぶ。
「リ、リサか?」
窓からの光が届かぬ陰に隠れる一つの蠢くものが侵入者に気付く。
「ク、来るな!!」
鋭い拒絶に駆け寄ろうとした梨沙の足が止まる。
「チ、近付くナ。スグココから立ち去れ!」
「ミカミさん・・・。」
困惑する梨沙を夢為人は後ろに払いのけ、そして陰に潜むカミキリと対峙する。
「カミキリ、お前まさか、既に憑りつかれているのか?」
「オ、オマエは・・・!タ、頼ム、リサを連れてに、逃ゲロ。モウ、これ以上、抑える事がデ、出来ない!ウオオオオオオオオ!!!!!」
カミキリの霊力が急激に増大。
悍ましい瘴気へと変貌した瞬間、夢為人と綾音は梨沙を連れて退避。
「ミカミさん!」
「何よアレ。」
影から姿を見せたカミキリに驚愕。
イケメン俳優の顔立ちは消え失せ、全身至る所に血管が浮かび上がり醜い姿へと変貌していたのだ。
「そ、そんな・・・。」
「綾音、彼女を安全な所へ。」
絶句する梨沙を安全な場所へ避難させる一方、夢為人は腰部に隠し携えていたクナイを二本、両手にして対峙する。
「ユルサナイ、ユルサナイゾ。コワス。コワシテヤル。ニホンヲ!」
内臓に響く重苦しい声。
耳にまとわりつく怨念を切り払うようにクナイを一振り。
「死んでも尚、怨みを吐き続けるか、三日月の鎌――、いや三司よ。」
夢為人の視線はカミキリが持つ――いや、右手に同化した三日月の鎌を睨みつけていた。
「やはりオマエだったか夢為人、数字を与えられなかった不出来な弟よ。何故ワレの邪魔をする。」
鎌の刃から怒りに塗れた顔が浮かび上がる。
彼の名は三司。
三日月の鎌も元所有者にして新世界の幹部の一人。そして荒身玉帝の子供の一人である。
「もう終わりだ。帝は死んだ。あの人は新世界と全ての怨み辛みを浄化してこの世を去った。もうお前がやるべき事は何も残っては――――。」
「ふざけるな!!ワレの怨み、このような事で消えるものか!!ワレが死すとも怨みは消えぬ。憎き日本がこの世から消えない限り永遠に続くのだ!!それこそがワレの願い!帝の願いなのだ!!」
「(嗚呼、今だに遺恨が残っているのか・・・。)」
わかっていた事だが、根深い問題を目の前にして嘆く夢為人。
「グオオオ!!!!!!夢為人、愚かな弟よ。貴様もあの御方の子であるなら、ワレと共に―――。」
「断る!」
三司の発言を遮って拒絶。
「俺はあの人の未練も恨みも、全て断ち切る、終わらせると決めた。そして約束した。あの人と。それをやり遂げてみせる!」
「ふざけんな!出来損ないが!!!」
怒り憎しみを振りかざし、カミキリを操り、襲い掛かる。
「俺はもう逃げない。迷わない。」
夢為人はそれを真っ向から立ち向かった。




